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「時」探し
30分間
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わしは何のために生きただろうか―?
全て覚える事もできなくて何故、生きてるんだろうか?
何故、絵を描き続けるのだろうか?
ーーーーーー
こんなに絶望を味わっても私は『時』を移動しちゃうんだね。
私の心に比例する様に、時の闇はより一層私を吸い込むときに深くなっていく気がする。
今、私が立っているのはどこなんだろう。
静かで静寂……というより世界が死んでいるみたいに人の気配がしない町。
賑やかさや鮮やかさもなく、白黒の世界みたい。
私はそこの、灰色で薄汚れた美術館に自然と足を運んでしまった。
誰も、侵入を止めさせたように寂しく佇むこの美術館に。
中は、意外にも綺麗だった。
磨かれた大理石の床は、鏡のように壁を映している。
けれど、大量の絵画が、そこらじゅうに散乱していた。
絵画の裏には、細かく分単位で日付が記されていた。
「あっ」
散乱されず、一枚だけ壁に額に入って飾られている絵があった。
「それは、わしの子どもと孫たちじゃよ」
「えっ」
後ろから、少し掠れたお爺さんの声がして振り返った。
「息子と息子の妻、孫に双子の女の子がいてね、息子の妻にはお腹に子どももいた」
突然後ろから現れたおじいさんはとても優しそうな人だった。
しわくちゃの顔に真っ白な長い髪を後ろで縛り、にこにこ笑いながら話しかけてきた。
「私の妻が金色の髪の美しい女性だった。息子は私とタイプが似ていたみたいでね」
息子さんはおじいさんにとても似ていて、笑顔の素敵な人だった。双子の女の子は奥さんに似て金色の髪にリボンで二つ結びしていて、とても可愛いかった。
「小さな美術館だったけれど、皆で力を合わせて、いつも笑いが絶えなかった。今でもそれだけは忘れない」
あぁ。なんて幸せそうに笑うんだろう。
会った事もない息子さん達と笑いあうおじいさんを想像できてとても胸が温かくなった。
「どうぞ、良かったら見て行って下さい。今はもうワシの拙い絵しかありませんが」
「はい!」
私は床に散らばった絵を丁寧に扱いながら眺めた。
おじいさんは大きなキャンパスを持ってきて絵具を取り出し、絵を描き始めた。
「そうだ、お嬢さん。君は初めてみるお客さんかね? それとも何回来てくれたかね?」
「え?」
夢中で絵を見ていた私は、絵画に埋もれていた中から顔を出した。
ゴトッ
その時、埋まっていた絵画が一枚現れた。
「この絵……」
私は息を飲んだ。
灰色の空の下、瓦礫になった建物が描かれていたから。
あの時の、西の国の王子の叫び声まで聞こえてきそうな、リアル感
「あの、これ…」
「オーバードライブじゃよ」
おじいさんは苦笑しながら、それでもまた赤色の絵具を付け足し、絵を描きはじめる。
が、直ぐに筆を止め、胸ポケットからボロボロの手帳を取り出した。
「その絵の後ろを見せてくれんかね?」
私は混乱したまま、言われた通りに、おじいさんに絵を差し出す。
おじいさんは、眼鏡を取り出し、手帳を指でなぞりながら、絵の日付と照らし合わせた。
「あぁ、今がオーバードライブから16年と5ヵ月と1日じゃな」
確認が終わると眼鏡と手帳をしまって、また絵を描き始めた。
青色をつけたして。
「やっぱり……オーバードライブなんですね」
残酷で、それでも私が知らないといけない「時」間の、核心。
「憎らしいことに、オーバードライブに全てを持っていかれてしまったわい」
穏やかな落ち着いた雰囲気の中にある、おじいさんの横顔。
それが全てを物語っていた。
ゆっくり黄色の絵具を付け足しながら、言った。
「芸術的価値がある絵画だけならまだしも。妻に、息子たちに、未来を」
未来―…?
「わしには30分前の過去と、30分後の未来がないんじゃよ」
穏やかなな顔で、落ち着いた物腰で、混ぜすぎて黒くなった絵具を見ながら、おじいさんは優しく笑った。
30分の時間の中に閉じ込められてしまったんじゃと。
「オーバードライブの中心から離れた場所にいたんじゃ、わしだけ。慌てて皆を探し回ってたら、口々にいうんだよ皆が。『おじいさん、30分前から繰り返し同じ所を探しているだけですよ』ってな」
真っ黒になった絵具の横に白をつけたし、灰色を作りながら、淡々と絶望を語る。
「30分前の事は何一つ覚えていない。片っ端から消えていくからのう。記憶はいつもオーバードライブのすぐ後。そこからわしの『時』は動かん」
記憶に縛られる事なく、過去から歩けず、未来も夢見れず、絶望の時で、時間は止まった。
「だから記憶を忘れんために絵で描く。絵で思い出を」
わしは―…。
「そうか、そうか。もう16年かぁ……」
何のために生きた?
「あの残酷な運命の日から…」
記憶には縛られず、思い出だけに縛られて灰色の絵具で、何度も何度も、あの日を描きながら筆にたっぷりと灰色をつけて、白いキャンパスを汚す。
何のために?
何のために…‥。
ドテン
お嬢さんは椅子の上から落ちたみたいだった。
「大丈夫かい?」
お嬢さんは恥ずかしそうに笑いながら頷く。
「いいですから、後ろ向いちゃ駄目ですからね」
「はぁ…?」
いつの間に椅子なんて出して、歩き回ってたのかな?
もうわしは絵しか描かない老いぼれだから、少女の好きにさせようと思った。
だって、泣かない日はなかっただろうに、思い出に縛られなかった日もなかったはずなのに、
全て忘れて、こうしてわしは絵を描く。
なんで?
何のために?
誰のために?
「ふぅ」
少女は満足そうに汗を拭いながら、息を吐いた。
そして、振り返っていいですよっと笑った。
少女は笑う。
花のように。
灰色のキャンパスに色鮮やかな色を塗りたくるように。
「思い出は、整理しなきゃね」
あんなに床に散らばっていた絵画が、壁一面に貼られていた。
磨かれた大理石に映されて、二倍の輝きで存在を示している。
「せっかく描いた美しい絵は飾らなきゃね」
少女は、絵の後ろに記された「時」間を見ながら、順番に絵を飾ってくれていた。
「美しい思い出があったから、おじいさんは生きて忘れないように絵を描こうと思ったんでしょ?」
まだまだある絵を仕分けしながら少女は言う。
「すごく幸せそうに笑う貴方は格好良かったです」
あぁ―…なんて優しい言葉だろうか。
そうなんじゃ。皆、まだ生きたかったんだよ。
幸せの中でまだ、皆生きたかったんだ。
ずっと続くささやかな幸せの中で。
あの幸せを、わしは、30分に1回リセットされる記憶の中で、まるでついさっきの様に思い出す。
さっきまで、皆で笑っていたように。
それで気づくんじゃ。
あれ?っと。
さっきよりもしわしわになった自分の手を。
そして胸ポケットの手帳を開くとついさっきの幸せの時間から、月日が経っていて、愕然とするんだ。
ーーーーーーー
おじいさんは、しわしわの手を見つめて瞬きもせず泣いていた。
「なんて…大事な事を……忘れてしまっていたのだろうか」
私は、記憶が無い事に絶望してたけれど、おじいさんは30分に1回絶望を味わっていたのかな…?
ありがとう―…と泣くおじいさんに、私は微笑むことしかできなかった。
「わしは皆の分まで生き抜き続けようと絵を描き続けてきたんじゃ…」
そして、絵を描き始めた。
「君を忘れないために描かせておくれ」
おじいさんは、目を瞑り、涙を流し終えると私に言った。
おじいさんの絵に残るなんて、なんて素敵な事なんだろう
おじいさんは静かに絵を描き始めた。
私を描きながら、目に焼きつけるらしい。
別に私が作業していても描けるらしいので、私はそれを邪魔しないように残りの絵を丁寧に飾り続けた。
「えっ……?」
最後の絵を手に持った時に、ソレを発見した。
「おじいさん! これっ! この絵の人!」
なんで――?
なんでこの人が――?
おじいさんは筆を止め、穏やかに話し始めた。
「あぁ、絵描きを夢見て家を飛び出した少年じゃよ。この美術館で働いていたよ」
なかなか上手かったけれど、自分らしさや表したいものを表現するのは、下手だったよ。
ごちゃごちゃ飾って嘘で塗りたくって。
そう言いながら苦笑していた。
そして再び筆を握り、そして首をかしげた。
「それよりも、君は初めてのお客さんかな? それとも何回か来たことあるかい?」
おじいさんは穏やかな笑顔で質問してきた。
何をしてても、30分立てばいきなりリセットしちゃうんだね。
私は笑った。
ちゃん笑えていたと思う。
「素敵な絵を見に来たんです」
そう言うと、おじいさんは嬉しそうに笑った。
全て覚える事もできなくて何故、生きてるんだろうか?
何故、絵を描き続けるのだろうか?
ーーーーーー
こんなに絶望を味わっても私は『時』を移動しちゃうんだね。
私の心に比例する様に、時の闇はより一層私を吸い込むときに深くなっていく気がする。
今、私が立っているのはどこなんだろう。
静かで静寂……というより世界が死んでいるみたいに人の気配がしない町。
賑やかさや鮮やかさもなく、白黒の世界みたい。
私はそこの、灰色で薄汚れた美術館に自然と足を運んでしまった。
誰も、侵入を止めさせたように寂しく佇むこの美術館に。
中は、意外にも綺麗だった。
磨かれた大理石の床は、鏡のように壁を映している。
けれど、大量の絵画が、そこらじゅうに散乱していた。
絵画の裏には、細かく分単位で日付が記されていた。
「あっ」
散乱されず、一枚だけ壁に額に入って飾られている絵があった。
「それは、わしの子どもと孫たちじゃよ」
「えっ」
後ろから、少し掠れたお爺さんの声がして振り返った。
「息子と息子の妻、孫に双子の女の子がいてね、息子の妻にはお腹に子どももいた」
突然後ろから現れたおじいさんはとても優しそうな人だった。
しわくちゃの顔に真っ白な長い髪を後ろで縛り、にこにこ笑いながら話しかけてきた。
「私の妻が金色の髪の美しい女性だった。息子は私とタイプが似ていたみたいでね」
息子さんはおじいさんにとても似ていて、笑顔の素敵な人だった。双子の女の子は奥さんに似て金色の髪にリボンで二つ結びしていて、とても可愛いかった。
「小さな美術館だったけれど、皆で力を合わせて、いつも笑いが絶えなかった。今でもそれだけは忘れない」
あぁ。なんて幸せそうに笑うんだろう。
会った事もない息子さん達と笑いあうおじいさんを想像できてとても胸が温かくなった。
「どうぞ、良かったら見て行って下さい。今はもうワシの拙い絵しかありませんが」
「はい!」
私は床に散らばった絵を丁寧に扱いながら眺めた。
おじいさんは大きなキャンパスを持ってきて絵具を取り出し、絵を描き始めた。
「そうだ、お嬢さん。君は初めてみるお客さんかね? それとも何回来てくれたかね?」
「え?」
夢中で絵を見ていた私は、絵画に埋もれていた中から顔を出した。
ゴトッ
その時、埋まっていた絵画が一枚現れた。
「この絵……」
私は息を飲んだ。
灰色の空の下、瓦礫になった建物が描かれていたから。
あの時の、西の国の王子の叫び声まで聞こえてきそうな、リアル感
「あの、これ…」
「オーバードライブじゃよ」
おじいさんは苦笑しながら、それでもまた赤色の絵具を付け足し、絵を描きはじめる。
が、直ぐに筆を止め、胸ポケットからボロボロの手帳を取り出した。
「その絵の後ろを見せてくれんかね?」
私は混乱したまま、言われた通りに、おじいさんに絵を差し出す。
おじいさんは、眼鏡を取り出し、手帳を指でなぞりながら、絵の日付と照らし合わせた。
「あぁ、今がオーバードライブから16年と5ヵ月と1日じゃな」
確認が終わると眼鏡と手帳をしまって、また絵を描き始めた。
青色をつけたして。
「やっぱり……オーバードライブなんですね」
残酷で、それでも私が知らないといけない「時」間の、核心。
「憎らしいことに、オーバードライブに全てを持っていかれてしまったわい」
穏やかな落ち着いた雰囲気の中にある、おじいさんの横顔。
それが全てを物語っていた。
ゆっくり黄色の絵具を付け足しながら、言った。
「芸術的価値がある絵画だけならまだしも。妻に、息子たちに、未来を」
未来―…?
「わしには30分前の過去と、30分後の未来がないんじゃよ」
穏やかなな顔で、落ち着いた物腰で、混ぜすぎて黒くなった絵具を見ながら、おじいさんは優しく笑った。
30分の時間の中に閉じ込められてしまったんじゃと。
「オーバードライブの中心から離れた場所にいたんじゃ、わしだけ。慌てて皆を探し回ってたら、口々にいうんだよ皆が。『おじいさん、30分前から繰り返し同じ所を探しているだけですよ』ってな」
真っ黒になった絵具の横に白をつけたし、灰色を作りながら、淡々と絶望を語る。
「30分前の事は何一つ覚えていない。片っ端から消えていくからのう。記憶はいつもオーバードライブのすぐ後。そこからわしの『時』は動かん」
記憶に縛られる事なく、過去から歩けず、未来も夢見れず、絶望の時で、時間は止まった。
「だから記憶を忘れんために絵で描く。絵で思い出を」
わしは―…。
「そうか、そうか。もう16年かぁ……」
何のために生きた?
「あの残酷な運命の日から…」
記憶には縛られず、思い出だけに縛られて灰色の絵具で、何度も何度も、あの日を描きながら筆にたっぷりと灰色をつけて、白いキャンパスを汚す。
何のために?
何のために…‥。
ドテン
お嬢さんは椅子の上から落ちたみたいだった。
「大丈夫かい?」
お嬢さんは恥ずかしそうに笑いながら頷く。
「いいですから、後ろ向いちゃ駄目ですからね」
「はぁ…?」
いつの間に椅子なんて出して、歩き回ってたのかな?
もうわしは絵しか描かない老いぼれだから、少女の好きにさせようと思った。
だって、泣かない日はなかっただろうに、思い出に縛られなかった日もなかったはずなのに、
全て忘れて、こうしてわしは絵を描く。
なんで?
何のために?
誰のために?
「ふぅ」
少女は満足そうに汗を拭いながら、息を吐いた。
そして、振り返っていいですよっと笑った。
少女は笑う。
花のように。
灰色のキャンパスに色鮮やかな色を塗りたくるように。
「思い出は、整理しなきゃね」
あんなに床に散らばっていた絵画が、壁一面に貼られていた。
磨かれた大理石に映されて、二倍の輝きで存在を示している。
「せっかく描いた美しい絵は飾らなきゃね」
少女は、絵の後ろに記された「時」間を見ながら、順番に絵を飾ってくれていた。
「美しい思い出があったから、おじいさんは生きて忘れないように絵を描こうと思ったんでしょ?」
まだまだある絵を仕分けしながら少女は言う。
「すごく幸せそうに笑う貴方は格好良かったです」
あぁ―…なんて優しい言葉だろうか。
そうなんじゃ。皆、まだ生きたかったんだよ。
幸せの中でまだ、皆生きたかったんだ。
ずっと続くささやかな幸せの中で。
あの幸せを、わしは、30分に1回リセットされる記憶の中で、まるでついさっきの様に思い出す。
さっきまで、皆で笑っていたように。
それで気づくんじゃ。
あれ?っと。
さっきよりもしわしわになった自分の手を。
そして胸ポケットの手帳を開くとついさっきの幸せの時間から、月日が経っていて、愕然とするんだ。
ーーーーーーー
おじいさんは、しわしわの手を見つめて瞬きもせず泣いていた。
「なんて…大事な事を……忘れてしまっていたのだろうか」
私は、記憶が無い事に絶望してたけれど、おじいさんは30分に1回絶望を味わっていたのかな…?
ありがとう―…と泣くおじいさんに、私は微笑むことしかできなかった。
「わしは皆の分まで生き抜き続けようと絵を描き続けてきたんじゃ…」
そして、絵を描き始めた。
「君を忘れないために描かせておくれ」
おじいさんは、目を瞑り、涙を流し終えると私に言った。
おじいさんの絵に残るなんて、なんて素敵な事なんだろう
おじいさんは静かに絵を描き始めた。
私を描きながら、目に焼きつけるらしい。
別に私が作業していても描けるらしいので、私はそれを邪魔しないように残りの絵を丁寧に飾り続けた。
「えっ……?」
最後の絵を手に持った時に、ソレを発見した。
「おじいさん! これっ! この絵の人!」
なんで――?
なんでこの人が――?
おじいさんは筆を止め、穏やかに話し始めた。
「あぁ、絵描きを夢見て家を飛び出した少年じゃよ。この美術館で働いていたよ」
なかなか上手かったけれど、自分らしさや表したいものを表現するのは、下手だったよ。
ごちゃごちゃ飾って嘘で塗りたくって。
そう言いながら苦笑していた。
そして再び筆を握り、そして首をかしげた。
「それよりも、君は初めてのお客さんかな? それとも何回か来たことあるかい?」
おじいさんは穏やかな笑顔で質問してきた。
何をしてても、30分立てばいきなりリセットしちゃうんだね。
私は笑った。
ちゃん笑えていたと思う。
「素敵な絵を見に来たんです」
そう言うと、おじいさんは嬉しそうに笑った。
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