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エピローグ
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あぁ。ありがとう。
真実を打ち明けたのは君が初めてだったんだ。
不安を笑って誤魔化していた。
「少女を人質にとるとは悪魔め!」
赤い、血走った目は、欲望に紛れてギョロギョロ。
自分は正しいと正義を疑わずに、悪に浴びせる言葉。
当たり前の様に俺に銃を向けて、当然のごとく捕まえようとする。
これが、俺の生きる日々。
「少女を離せ!! お前は世界が憎む人殺しだ! 卑怯者め!」
「世界はお前の公開処刑を望んでいる」
「世界」が、か。
じゃあ俺はまだ死なない。
死ねない。
俺は少女から自ら遠のいて、化物達の輪に向かっていく。
ごめんね。少女。
君が踊るみたいに喜んでいた船は、俺を探しに来た化物の船だった。
俺はやはり君を傷つける。
「止めてよ! 絵描きさんを罵らないでよ! みんな戦争してるならみんな人殺しじゃないの!?」
少女は泣き叫びながら、大人たちにつっかかった。
「―――なんだ?」
「お前もこいつの仲間の反逆者か?」
静かに風が止んだ。
俺は『時』を止めた。
これ以上、少女を傷つけないで。
もう十分傷ついているんだから。
だから、静かに止めた。
まだ美しいまま汚れなき魂。
彼女を罵るのは俺が許さないよ。
「ねぇ、少女」
君は俺の物語で何を手入れた?
本当はそんな話、嘘かもしれない。
でたらめでいい加減な作り話かもしれない。
でも、君の心にはちゃんといるんだよ。
君さえ忘れずにいてくれたら、君の心の中にずっと住んでいる。
―――――澄んでいるんだよ。
ざわっ
風と共に「時」は動いた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
潮の香りもする。
少女は岬のお墓の前で一人。
まだ、満月に程遠い、暖かい日が満ちる時間。
俺はまた一人。
でも、忘れないで。
美しい人魚の絵画のお話。
奇跡の降る雨上がりの日。
貧乏でも夢を見て輝く少年と夢を探して歩き出した少年
壊れない何かを探す天使。
愛していたのに蛇口を閉めなかった愚かな王子の話。
セイレンが唄った詩(うた)の意味。
師匠と夫人と日傘の話。
愛した神の、愛した大地を孤独(ひとり)で守る神。
そして、俺の愛した眩しい光のような女性の話。
それは、君の中で永遠に忘れないで。
君の中に本当にいる物語の主人公たち。そして、泣きたくて、
泣けない、馬鹿な俺の物語を。
俺は、寂しくても、怖くても、もう大丈夫。
自分の力で壊した『時』を治す事はできなくても、愚かな俺は、希望という名の『夢』を探し続ける。
永遠に留まれる『時』を手に入れるために。
――――それじゃあ、これで。
君たちの『心』に、主人公たちが残した物語を、
キラキラと輝く思い出として残してくれることを、
祈って。
俺は、また旅に出る。
『夢』を探しに。
一部完
真実を打ち明けたのは君が初めてだったんだ。
不安を笑って誤魔化していた。
「少女を人質にとるとは悪魔め!」
赤い、血走った目は、欲望に紛れてギョロギョロ。
自分は正しいと正義を疑わずに、悪に浴びせる言葉。
当たり前の様に俺に銃を向けて、当然のごとく捕まえようとする。
これが、俺の生きる日々。
「少女を離せ!! お前は世界が憎む人殺しだ! 卑怯者め!」
「世界はお前の公開処刑を望んでいる」
「世界」が、か。
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俺はやはり君を傷つける。
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「―――なんだ?」
「お前もこいつの仲間の反逆者か?」
静かに風が止んだ。
俺は『時』を止めた。
これ以上、少女を傷つけないで。
もう十分傷ついているんだから。
だから、静かに止めた。
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彼女を罵るのは俺が許さないよ。
「ねぇ、少女」
君は俺の物語で何を手入れた?
本当はそんな話、嘘かもしれない。
でたらめでいい加減な作り話かもしれない。
でも、君の心にはちゃんといるんだよ。
君さえ忘れずにいてくれたら、君の心の中にずっと住んでいる。
―――――澄んでいるんだよ。
ざわっ
風と共に「時」は動いた。
ザザン…… ザァン……
海が見える。
潮の香りもする。
少女は岬のお墓の前で一人。
まだ、満月に程遠い、暖かい日が満ちる時間。
俺はまた一人。
でも、忘れないで。
美しい人魚の絵画のお話。
奇跡の降る雨上がりの日。
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壊れない何かを探す天使。
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そして、俺の愛した眩しい光のような女性の話。
それは、君の中で永遠に忘れないで。
君の中に本当にいる物語の主人公たち。そして、泣きたくて、
泣けない、馬鹿な俺の物語を。
俺は、寂しくても、怖くても、もう大丈夫。
自分の力で壊した『時』を治す事はできなくても、愚かな俺は、希望という名の『夢』を探し続ける。
永遠に留まれる『時』を手に入れるために。
――――それじゃあ、これで。
君たちの『心』に、主人公たちが残した物語を、
キラキラと輝く思い出として残してくれることを、
祈って。
俺は、また旅に出る。
『夢』を探しに。
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