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嘘をついたら、出られない部屋に閉じ込められた。

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 それにしてもお爺ちゃん、私に直接言ってくれたらいいのに。
うちは親戚が少ないから、席は圧倒的に神山家、神山商事の方が多いから少しぐらい増えても問題ないのに。






「あのさあ、その、神山は不器用って言うか、悪気はなかったとおもう」
「……びっくりした。休憩室の前に何? 私を待ち伏せしてたの?」

 電話から戻ると、休憩室の前に申し訳なさそうに笹山が立っていたので、心臓が止まるかと思った。
 先日、酔っぱらったお詫びにシュークリームをもらったばっかなのに。

「その……お前ら、あの二次会の打ち合わせのあとからおかしい、から」
「そう。でも笹山が心配しなくても大丈夫。ダメなときはどうしても駄目だし」
「でも、何かあったら、俺にも相談してくれてもいいじゃん。知らないとこでまたお前らお互い傷ついてるとか、友達甲斐ないだろ」

「……友達だったの」
「ひでえな」

 茶化して誤魔化したら、笹山も深く聞いたらいけないと空気を読んでくれたらしい。
 頭を数回ポンポンとセクハラだけして去っていった。

悪いのは、嘘つきの私なので、優しくされたくはなかった。


***
「どこかな」

 マジックBARなんて面白い場所、どうして今まで教えてくれなかったのか疑問だけど、場所はいつもとは違う本社とは反対方面の駅にあった。

 駅の改札口から見えるテナントビルの三階。
 行ってみるが、普通の珍しくもないBAR。

 海の絵が壁に沢山飾られていて、サーフィンの道具が壁に立てかけられていたり、キープボトルに紛れてサーフィンの大会のトロフィーが飾られている。

 場所を間違えたのかなって焦っていたら、ぬるっとお店の奥から店員が出てきた。

「いらっしゃいませ。お一人ですか」
「あ、いえ。斎藤で予約していたと思うんですが」
「あー……さいちんの」

 サイチン?

 くすくすと楽しそうに笑っている男の人は、オレンジ色の眼鏡に短髪、黒のブラウスにネクタイ。少し軽薄そうな印象の若い人なんだけど、私を見るなりいたずらっ子のように笑う。

「サーフィン仲間なんだ。さいちんとは。一番奥の部屋予約してたけど、行く前に1ドリンクね」
「じゃあ、えっと炭酸系のノンアルコールで」

「君も飲まないの。まあいいや。じゃあ、こっちね」
 メニューをカウンターで広げられて、適当に頼む。

 すると『それを選ぶと思ってました』といつの間にか出来上がっていたグラスを渡されて呆然としてしまった。
マジックBARだけあって、すでに始まっていたようで感心してしまう。

「お連れ様はもう中でずっとあなたをまっていらっしゃいますよ」
「え、もう来てるんですか。ありがとうございますっ」

 叔父さんには先に入っててくれってい言われてたから、携帯を見ながら中へ入る。

 着信もメッセージも来ていない。

「よお」
「……?」

 空になったグラスの中の氷を回しながら、不機嫌そうに座っている男がいた。
 思わず、パタンと大きな音を立ててドアを閉めてしまった。

「なんで」
「やっぱこーゆうことか」

 目の前にいたのは、進歩さんだった。

 明るい個室の中、ソファ席が四つと小さなカウンターにはシャンパンクーラーに入ったボトルとアイスペールが置かれている。

「斎藤専務に、結婚式の招待状で取引先の席を確保してほしいって相談されてここに呼び出されたんだけどさ、見ろよ」

 閉めたドアを指さされ、振り返る。
 すると小さなホワイトボードに『予約:嘘をついたら出られない部屋ご一行様』と書かれていた。

「叔父さん……」
「残念だったなあ。片思い相手の専務じゃなくて」

「……うそ、開かない」

 ちょっと前に流行った『○○しないと出られない部屋』って漫画を思い出す。
 なるほど、だからわざわざマジックBARなんかに呼び出したのか。

 本当に嘘をついたら出られなくなりそう。

「もう腹割って話すしかないんだから、お前も覚悟きめろよ」
「うっ」
「専務に迷惑かけて、ガキの恋愛かよ」

 彼のその言い分に、思わず持っていたグラスを投げつけた。床に落ちたグラスは、見事に割れて散らばった。

 彼は手でガードしたせいで、袖が濡れて手を伝いポタポタとお酒がこぼれている。

「お前なあ、酒をかけるのは百歩譲ってわかるが、グラスまで割るなよ」
「うるさい。あんたは、さっさとこの部屋から出ていけばいいじゃない。嘘なんてついてないなら、ね」

 私が来るまで出られなかったということは、何か邪で後ろめたいことがあるんじゃないの。
 自分は棚に上げて、にらみつける。
 すると袖のボタンをはずしながらため息を吐く。

「悪かった。俺の態度が不安にさせてたんだろ」
「……なに、急に」


「笹山にも井上にも、吉田にも言われた。格好つけるなって。謝る」

 お酒をかけたから酔ったのか、自白剤みたいに急にペラペラとしゃべり始めた。

「お前に一回婚約破棄されてるから、――必死でもう一度婚約してもらったなんて周りに言えなくて、格好つけてた。悪かった」

 深々と頭を下げられて、呆然とした。
 グラスごと投げた私に、彼は怒りもせずに嘘もつかずに、真摯な態度で目の前で頭を下げている。

「……お前が不安で嘘ついた理由は、俺の態度からだろ? 何か言えよ」
「えっと」
「嘘ついたら、出られねえよ?」
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