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だから、呪文のように嘘を唱えた。

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「へえ。じゃあチューハイの種類増やしてほしいな。こっちはフードメニュー?」

チーズ三種、生ハム、ポテト、サンドイッチ、サラダ、チキンナゲット、と二次会のフードは軽食や冷凍食品中心でちょっと味気ない感じがする。
それでも値段的には良心的だからフードぐらい妥協するべきなのかな。

「笹山さんが、ビンゴ大会したいって張り切ってたけどどうする?」
「うーわー。二次会っぽいぽい」
「二次会でしょ」

くすくすと笑わて、急に実感がわいてきて恥ずかしくなる。
沙也加は私の結婚式の二次会のために頑張ってくれているんだった。

「でも笹山さんも神山商事、井上さんも銀行員、よっしーさんもあんな顔してエリート商社マン。うーん。二次会の女の子の参加率多そう」
「残念ながら女友達はそんなに多くいません。結婚式に呼んでくれた子を呼ぶとして多くて八人ぐらい」
「選びたい放題!」

沙也加の迫力にげらげら笑っていたら、携帯が鳴った。
「もしもし」
『今、駅のタクシー乗り場らへん。笹山と井上に電話がつながらないんだけど』
「ああ、あの二人けっこう飲んでるよ。場所分からない?」

進歩さんの電話に、私は窓辺へ近づく。
駅前は人の波が静まることはなかったけれど、一人こちらに向かっていく人物を一瞬でみつけてしまった。

『今わかった』

小さく手を上げる。
その仕草さえ愛おしいと思うのだから、本当に惚れた方の負けなんだろう。


「さっき別れたばっかなのにまた会ったな」
 機嫌よく階段を上がってきた進歩さんは、横目で酔っ払い二人を見つつカウンターの方へやってくる。

「そうですね。また会ってしまいましたねー」
「運命ってやつかな」

 隣に座りつつメニュー表を見る。
機嫌がよすぎて怪しい。隣の沙也加が、進歩さんに顔立ちやらさわやかオーラに騙されて、私に肘でツンツンしてくるのも困った。

「今日、桃花のドレスの試着どうだったんですか?」
「可愛かったよ。ああ、見る?」
「ぎゃー!」
 携帯をズボンのポケットから取り出そうとしたので、すぐに奪おうとしたら上に持ち上げられてかわされた。

「大丈夫です。もしかしたら、カラードレスの色あてクイズとかあるかもだから楽しみにしてます」
「もー。それより、二次会のメニューは私たちで決めるから、あそこのソファで酔っぱらってる二人をなんとかしてくれない?」

 笹山たちを指さすと、座っていた椅子を回転させてソファ席の方を向いた。

「あーあ。笹山って酒ほんと弱いのに。誰が飲ませたんだ」
「勝手に飲みだしたんですー。試食とか言って」
「笹山はあれだが、井上、お前までさあ」

 ため息吐きつつ、まずは井上さんからトイレに連れて行ってあげていた。

「優しそうな彼だねえ」
「え、誰が?」
「桃花の婚約者よ。神山商事の御曹司っていうから偉そうなやつかとおもったら、優しいし紳士的だし。格好いいけど威張ってないし」
「……」

私の前では偉そうだし、威張ってるし、紳士ではなく口が悪く甘ったれだから肯定したくない。

肯定しないかわりに、けほっと小さく咳がこぼれた。
「そう? 笹山は裏表ないバカだけど、進歩さんは裏表ある計算高い男だよ」
「あはは。笹山さんに酷い」
「本当よ。私が叔父さんの姪で、おじいちゃんの孫じゃなかったらこの結婚はなかった縁だもの」

「それはきっかけでしょ? 今はちゃんとラブラブじゃん」

 沙也加はそう笑い飛ばしてくれた。
 私もそう笑い飛ばそうと思っていたのに。

 少女漫画大好きな脳では、それで納得できないのかなんというか。

「おーい。井上、神山―、トイレ長くないかあ」
「お、酔っ払いの笹山さんが起きた」


 長いどころが、たった今トイレに向かったばっかなのに、何を言い出すのかあきれてしまった。
 お酒に飲まれて暴言吐いたり暴れるよりはまだましだけど、酔って人に介抱されるまで飲む人自体嫌いだ。

「笹山、水でも飲んでソファ席で座ってなさい」
「大丈夫ー。ここで待ってる」

 ずるずると、トイレの前の壁に倒れ込んでしまった。
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