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思う仲に垣をするか放っておいて。
四
しおりを挟む「えー……『金持ち用のジム? 今話題の?』っと」
「言い方!」
面倒くさいな、と内心思いつつ送信した。
そんな場所、絶対に近づきたくないのにどうして興味あるふりをしないといけないのだろうか。
「でもあの二人がそんなジムに行くなんて素敵。本社の派閥なんてでたらめなんですね」
「派閥はあるみたいよ。神山商事なんて、血縁経営だし血縁じゃない筆頭が叔父さん、血縁ごり押しが進歩さん」
「だからこそ、二人が一緒にいるってのがミスマッチでミステリマスでいいじゃないですか」
「お互い、一緒にいながら暗殺を企ててるのかもよ」
私がふざけたのに、全く聞いてない様子で叔父さんを想像してうっとりしている様子。
叔父さんは婚期逃した乙女野郎だし、進歩さんなんて性格最悪の御曹司ってだけが売りの男なのに。
珈琲を飲んでいると、返事がもう来てしまった。
過去と比べるのもどうかと思うけど、返信が早い。
『どうだっけ。斎藤さんの紹介だからわかんね。帰り、来る?』
「……どうしたんですか?」
「いや、帰りに、そのおじさんと進歩さんとごはんどうですか?ってさ」
「キャー! 行きます、行きます」
結局毎日会ってるような気がする。
嘘がばれて再会してからたった数日なのに、なんだろう。この怒涛の展開。
『ごちそうになりまーす』
返信しつつ、私の心はひどく冷静だった。
甘酸っぱく心をかき乱されたわけでもない。
相手を思うと切なくて切なくて、会いたくなるわけでもない。
これは本当に恋なのか。
それともお見合い結婚の延長線。
続きなのかな。
泰城ちゃんみたいに彼氏の話をしていて心がときめくわけでもないし。
どうしたいのか自分でもわかっていない気がする。
このまま結婚して、進歩さんと同じ家に帰って一緒に寝て、たまにテレビや街角で元カノさんを見かけても気づかないふりをして、子どもとか生んで?
なんだろう。寂しい。
面白くない少女漫画を、最後まで読まないと気持ちが悪いから仕方なく読んでいるような気がする。
「あ、先輩、彼氏から電話です。先に行っててください」
待ち合わせの駅で降りたとたん、泰城ちゃんが携帯を耳に当てて走っていく。
トイレに向かう彼女から『えー、女の子とだよー』と甘い声が聞こえてきて、少しうらやましく思えた。
駅の改札口をくぐり、喫煙所を探すと案の定二人が煙草を吸って談笑していた。
私服姿も隙が無い二人に、面白くない感情が浮かんでしまう。
ばれないよう、後ろからこっそり近づくと、ある言葉が聞こえて足が止まった。
「結婚なんて、そんなもんでしょ? 何も利益がないのにするはずないじゃん」
「夢を見すぎてる私が悪いと。手厳しいな」
叔父さんは灰を落としながら苦笑している。
どうして喫煙所が、このタイミングで少しだけドアが開いていたのだろうか。
聞きたくもない言葉に驚くも、体が動かない。
柱に隠れてやり過ごすことしかできない。
「少女漫画やドラマのなかの恋愛なんて俺は期待してねえっす。だから今回のお見合いはほんとよかった」
「良かったという意味は?」
「俺と斎藤さんが仲良くなるのは会社にメリットしかねえ。親も結婚相手にぐたぐた言わねえで大切にしてくれる。俺も会社を継ぎやすい。これ以上のことはなかった」
「……んんん。結婚に利益ねえ。胸糞悪い」
叔父さんの淡々とした静かな言葉に、彼も感情がうかがえない。
仕事の引継ぎ連絡とか、終わった書類の確認をしているような、そんな延長線上に思えてくる。
「ちゃんとうちの姪っ子に愛情はあるのかな」
「過保護っすね」
「返答次第では、君と私の中は破綻するし、会社も派閥が分かれるね。脅しじゃないけど、本音以外許されないよ」
叔父さんの言葉は嘘じゃなかった。
私も壁についていた両手にぐっと力がこもった。
「あ、せんぱーい」
改札口の方へ眼をやると、泰城ちゃんが手をふっている。
私は人ごみに紛れてその場を離れた。
心臓は、痛かった。ナイフで急所をちくちく刺されたような、じっくり殺されていく感じ。
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