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遠回り、逆回り、急がば道を壊せ。

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「汁だくだくで」
「お前も食べるのかよ」

「叙々苑に行きたいのを我慢して、牛丼に付き合ってやってるんだから黙ってて」

「明日は叙々苑行く?」

 彼は大盛りの牛丼の前で、上手に割り箸を割ってから何気なく次の約束をしようとしていた。
 飲み会も、彼の頼んだ一杯で帰る雰囲気になったし、そもそも彼のせいで集まった飲み会だったのでさっさと解散した。
 私だってあと数杯は飲めたのに、この満たされない部分は食べないとやっていけない。

「明日は約束があるんですー」
「ああ、俺との約束は金曜だったな」
「……うー」

 並んで牛丼食べて、酔ってたら急いで来てくれて、好きではないけど元婚約者で、昨日寝た相手。
 心のチョコレートを溶かすけど、嫌な奴。タイプと正反対で、嫌味でしゃべり方が乱暴。

 なのに、よっしーのあの駆け引きの連絡で動揺して来てくれたのかと思うと、顔がにやけてしまう。

 コントロールなんてできない。

「……私がザルだって忘れてた?」
「昨日は酔って、散々メールよこして俺の携帯の電池を食いつぶしただろうが」
「そんなことあったかな」
「照れるな」

 カウンターの席の下、足で突かれた。
 これは立派な暴力だ。DVだ。
 こんな怖い人、絶対に付き合えない。

「照れてない」
「……婚約中は、牛丼屋よりすげえとこ行ってたじゃん。立ち食い系、全部制覇するとか言って、立ち食いソバはもちろん、焼き肉、寿司、BAR」
「あれは楽しかったでしょ?」
「ああ、もちろん」

 嬉しそうに応えてくる進歩さんに一瞬反応に困った。
 私のウソを許して、隣に居てくれる寛大な人。
 見方によるとそう見える。

 意地悪だし、絶対性格悪いし、理想とかけ離れてるのに。

 その笑顔を見て、私はもっと見たくなった。
 カウンターの下、彼の左手を掴む。

 片手ではなかなかつかめきれなかった手を、右手て握ると、彼が此方を向いた。

「……へえ」
「早く食べたら?」
「へえへえ」
「おいてくよ!」

 「……へえ」
どうせちょろいとか簡単な女だなって思ってるんだろうけど、私だってあんたの性格の悪さを知ってるんだからね。

「金曜さあ」
 奢ってもらうものかと先に千円出してレジで払っていたら、やんわりと財布に戻された。
 なので再び一万を載せて、話題を変える。

「金曜も会ってくれるんだ」

 にやつく彼が一万を財布に戻そうとするのでその隙に、彼の財布の中に自分の食べた分の小銭を入れる。
 諦めた彼が小銭を受け取り、一万を返してからわざわざカードで払いやがった。

「金曜は、あそこに行きたい。ゾンビバー。メニューもゾンビっぽくて、人もゾンビで、牢屋の中でご飯食べるんだって」
「あー、お前、好きそう」
「ゾンビのダンスショーもあるらしいの」
「お、見たい」

 ノリの良い彼が、楽しそうにクスクス笑う。
 その笑顔だけは一年前と何も変わっていない。
 意地悪な素の彼の方を、私は惹かれてきているのは否定できなかった。

「で、寄ってく?」

 駅までの道で、見つけたラブホを見ながら簡単にそういう彼に、やはり早まったかもしれないと思いつつも、足を踏むぐらいで勘弁してやった。
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