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オオカミ男、オオカミ女

十二

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「……」

 私はマグロ。私はマグロ。マグロはしゃべらない、反応しない。
 なんなら、モノ言わぬ貝だ。

「ほんとむかつく。酒臭せし、お前今、諦めたろ。一発ヤらせて諦めようとしたろ」
「……ぐ、ぐー」
「寝たふりすんな。ふてぶてしい」

 雰囲気が壊れた。てっきりこのまま流されて最後までシてしまうのかと思っていたのに。
 そのピリリとした空気が解けている。

 解けたが彼が私を押し倒しているままだ。

「あのう」
「キスは嫌じゃなかったな」
「……まあ」
「簡単に流されるな。お前の意志で抱かれろ」

 ひいい。抱く前提で話してる。
 別れたいって言ってる女を抱こうとしている。いや、すでに別れたはずの私を抱こうとしているのか。
 思い込むが強い、やばい人なのかもしれない。

「一回したら、二度と会わないって約束してくれる?」
「いや、お前みたいな面倒な奴は俺しかいねえ。俺にしとけ」
「私はちゃんと別れに来たの」
「俺は結婚する予定」

 この人、私の知っている神山進歩ではない。
 ちょっと顔が良くて金持ちだからって、我儘で傲慢で一方的で口が悪い。

「あんたは、私じゃなくてもより取り見取りなのに」
「……本気で抵抗しないなら、もう黙れよ」

 どうせ、恋愛が面倒なら俺でいいでしょ、と彼は笑った。
 その笑顔は悪魔ではなく大魔王が降臨されている。

 彼の執着の底に、私への愛情が本当にあるのか疑わしい。
 少しも心が温かくなったりしない。

 のに、寝室までお姫様抱っこで連れていかれながら、テーブルに置かれた彼の携帯が振動しているのが見えた。

 電話に出ないまま、早急に私の上に覆いかぶさる彼は、知的でも寡黙でもなく。

 まさに狼のような獣でした。
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