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オオカミ男、オオカミ女
二
しおりを挟むまあこんなかわいい子が恋人の一人や百人いないわけないわな。
私はお見合い相手の彼の存在にときめいてはしゃいで、それを偶に思い出して夜中一人、呻きながら布団の上をのたうち回っている。
それに彼以上に好物件なんて出会えたことがない。
なので、この先ずっと一生一人な気がする。
私のこの無頓着で男っ気なしの性格を心配した叔父さんからのお見合いだったし。
「恋愛って面倒ですよねえ。もう神様がおでこに名前書いててくれたらよくないですか? あ、この人、私の名前書いてる、私のじゃん、みたいな」
「あー楽そう」
「名前書いてるなら、好きになっても諦めてくれるだろうし。あ、でも冷めたら消去して、違う名前書いて逃げたいかもお」
「泰城ちゃんも大概だね」
くだらないと笑いつつ、結局三杯もビールを飲み、締めに鳥雑炊まで平らげた。
泰城ちゃんは、彼氏が迎えに来てくれてそのまま車で帰り、私は駅まで酒を覚ましながら帰る。
二時間ぐらいしか経っていなかったので、外はまだ活気があるほうだ。
呑気にそんな風に思って夜風に吹かれていたら――携帯が鳴った。
彼ではなく、叔父さんからだ。
『桃花、すまんな。進歩には会ったか?』
第一声がそれで、そのまま切ってやろうかと思った。
叔父さんは、母の弟で自分だって未だに独身の42歳のイケメン野郎のくせに。
うちの母やおじいちゃんが年の離れた叔父さんを絢負かしていい大学に入れて、大切に育ててきたせいか、自由奔放で掴みところがない。
「会いに来ましたよ。新事業部の部長とか、ゆくゆくは副社長とか噂もお聞きしましたね」
『どっちの進歩で会ったんだ? お前が振り回した爽やかオオカミ少年?』
「本性の方ですね」
刺々しく返すと、電話越しに苦笑しているのが分かる。
『俺を責めるのは違うぞ。俺はお前がそんな嘘を言ってるとは思わなかったんだ』
「だって別れてくれなかったんだもん」
『お前なあ。……金曜はどうだ? そっちでご飯でも食べようか』
金曜と言われ、立ち止まる。そうか。叔父さんと三人なら気まずくないのかな。
でもそれはそれでちゃんと謝罪できないのか。
「金曜は用事がある。土曜か木曜。お洒落なレストランではなく焼肉かお寿司がいいです。専務」
『容赦ないな。じゃあ空けとくように』
「はあい」
やった。
叔父さんは怖面だの強面だの言われてるけど、優しいし振り回しても全部受け止めてくれるんだよね。
うちは親が共働きだったのでよくおじいちゃんの家に預けられることがあったので、年の離れた兄のような感覚だ。
……知的で寡黙でっていうタイプのルーツを辿ると叔父さんにたどり着きそう。
理想の、結婚するのに一番安心するタイプだ。
『で、お前らはほんとうのところどうなんだ?』
「どうってなにが?」
『お前は、結婚を理想としての相手ならまあ良かったけど、恋愛は無理だったって、義務的なお見合いだったと俺に言ってたじゃないか。あれは嘘か』
「あれー? よく聞こえないなあ。電波が悪いなあ。おかしいなあ」
『桃花』
「電車がくるからもう切るね。じゃあお寿司か焼肉よろしく」
一方的に切った。
叔父さんは自他共に認めるイイ男なので、これ以上は追及してこないだろう。
叔父さんに紹介してもらって叔父さんに本当の理由を言わないのは悪いとは思うけど、デリケートな理由だし。
彼は叔父さんにどう言ったんだろう。
私が嘘を吐いたのに、自分が悪いかのように叔父さんに謝ったのだろうか。
見上げた空は、上弦の月。ほぼ丸い、丸の偽物の形。
ウソツキな私に似ている、歪な月の形をしていた。
叔父さんに会う日か、彼に会う日か。
その日には本当の満月になっているはずだ。
私が悪い。
お願いだから、謝るから、罵倒してくれていいから、――レンアイは終わってますように。
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