上 下
1 / 18

 皇帝陛下は逃さない

しおりを挟む

《ギャウウゥゥゥン! キャンンっ!》

「おら、もっと腰振れや。なあ?」

 大きな獣に己の一物を突き立て、獰猛に眼を眇める男。がしっと足の付け根を掴み、彼は泣き叫ぶ狼のような生き物の後孔を犯していた。
 ずりゅっ、ぬちゅっと激しく出入りする猛りが狭い蕾を満開に拡げ、白く泡立つ結合部からとろみのある液体が糸を引く。
 たっぷり使われたらしいローションが床にしたたり、凶暴な一物の動きを妨げない。
 無惨にまくり上がった孔の縁。先端ギリギリまで抜き出しては一気に根本まで穿つ太い凶器に、その生き物は断末魔のような叫びをあげる。
 大きな紅い眼をかがる涙。ほたほた零れる雫が、その生き物が受ける蹂躙の苦しさを物語っていた。
 
「いくぞ? ……ほら、う……っ、くぁ……っっ!」

 熱い吐息を荒らげ、ごちゅごちゅ最奥を突き上げていた男性は、一際大きくグラインドすると、渾身の力で己の腰を獣の臀部に打ち据えた。
 それと同時に大きく膨らみ爆発する御立派様。びゅるっと身体の奥に流し込まれる精を感じて、その大きな生き物は声のない絶叫をあげる。
 精根尽き果てて崩折れた生き物を優しく抱きしめ、男はダラリと口から垂れ下がった長い舌に口づけた。

「起きろ。ふ……、相変わらず可愛いな」

 男の腕の中で大きな獣は姿を変える。

 滑らかな銀髪の青年へと。

 涙に烟る紅い瞳。

 微かに痙攣する手脚を突っ張り、その青年は全力で男の腕から逃げようと暴れた。

「おま……っ、えっ! 頭おかしいんじゃないのかぁぁーーーっ!!」

「ああ、可怪しいとも。お前を逃さないためなら、いくらでも可怪しくなってやるさっ!!」

 憤怒に彩られた男性の眼光に射竦められ、身体が強張り身動きも出来ない銀髪の青年。

 細く手弱かな手脚で筋肉隆々なこの男にかなうわけもなく、青年は再び組み敷かれる。

 こんな暮らしをどれほど過ごしただろう。

 獣の姿よりも小さく細い青年は、容赦なく捩じ込まれる男性の一物に悲鳴をあげた。

「う……っ、ぁぁあああーっ!!」

「悦ぃ~い声だぁ…… ようく慣らしてやるからな? あ? 俺から逃げようなんざ、無駄なんだよっ!」

 身体を裂かれる激痛に頭を打ち振るい、青年の涙の飛沫が宙を舞う。それを満足気に見つめ、男性はこれからの長い夜に舌なめずりした。
 
「俺から逃げるために呪いをかけさせるとか…… 獣姿になったくらいで諦めるはずなかろうがっ! むしろ、獣姿のお前に奉仕させる愉しみが増えたってもんだ。ん? 明日も明後日も、ずうっと可愛がり倒してやるよっ!!」

 ケダモノのような男性の双眸。

 黒髪黒眼の彼は、この国の皇帝陛下。名前をアンドリューという。
 ある夜会で目にした青年に一目惚れし、彼は後宮にあがるよう命令した。
 この国の婚姻事情は性別をいとわない。同性婚も許されている。ただし、跡取りが必要な立場の者は別。どの家でも嫡男の正妻は女性という不文律が存在した。
 勿論、この皇帝陛下にもだ。
 それが何を血迷ったのか、アンドリューが選んだのは銀髪の青年。名前をオルフェウスという。
 当年取って二十歳になるオルフェウスは、突然、皇帝に指名されて狼狽えた。オルフェウス自身も侯爵家の嫡男だからだ。
 婚約者もいるし、侯爵家の男子はオルフェウスだけ。正妻であろうと皇帝に取られるわけにはいかず、激昂した父侯爵は、魔女に頼み込んでオルフェウスに呪いをかけさせた。
 
 大きな狼になる呪いを。

 四足歩行の獣となってしまったオルフェウス。父侯爵は息子が後宮を厭うて出奔したと嘯き、オルフェウスを私有地の森に隠す。
 万一見つかっても、この獣がオルフェウスとは思うまいと高をくくっていた侯爵。
 そのうち皇帝も諦めて、別の伴侶を探すだろう。その婚儀が終わってからオルフェウスを呼び戻し、婚約者と娶せるつもりだった侯爵だが、彼はアンドリューを甘く見すぎていた。

 なんとアンドリューはオルフェウスを見つけ出したうえ、それを後宮に連れ帰り繋いでしまったのである。

 慌てた侯爵が謁見を申し込んだが返事はない。

 獣化した息子を息子とも言えず、侯爵は打つ手がなかった。これを暴露しようものなら、オルフェウスが呪われていることを公表するも同然。
 見栄と矜持で生きる貴族には致命傷。自発的にかけたものとはいえ、呪いはオルフェウスの瑕疵となり、後々まで嗤い者にされる。婚約も破棄され、嫁の来てもなくなるだろう。

 醜聞が広がるのを恐れ、息子を返せと口には出せない侯爵。

 結果、オルフェウスは皇帝の捕まえた獲物として、後宮奥深くに監禁されている。毎夜のように蹂躙され、息も絶え絶えで。



「……魔女に聞いたのさ。呪いは、それを上回る魔力で解けるとな。たっぷり注いでやるよ、俺の魔力を」

 ぬちぬちと出入りする灼熱の猛り。それと繋がっている限り、オルフェウスは獣に戻れない。
 しかし、戻ったところで同じだった。このケダモノは、狼の姿なオルフェウスにだって欲情出来るのだから。

 気が狂ってる……っ! なんで、犬畜生を犯せるんだよっ!! 気持ち悪くないのかっ!!

 呪いの効果で、オルフェウスは獣化を繰り返す度に身体の損傷が癒やされた。治癒の加護もかけられているのだ。そうしないといけないくらい、人間が獣化するのは危険なこと。
 その治癒が仇となり、彼は毎回初めての情交を味わう羽目に陥る。何度貫かれても獣化した途端癒やされてしまうため、身体が慣れてくれないのだ。

 毎夜、激痛に泣き叫ぶオルフェウス。

 それにほくそ笑み、アンドリューはこれでもかと可愛い獲物を嬲った。

 延々貫かれ、悶絶し、ようやく慣れてきて青年が愉悦を拾うようになった頃……… 朝が訪れ、長い夜が終わる。

「……今日は二回か。まだ中でイけないな。早く呪いが解けると良いなあ? ん?」

 捩じ込んだままオルフェウスの物を扱き、アンドリューはニタリと不均等に口角を歪めた。
 赤く熟れた青年の一物は二度の吐精で精一杯。吐き出した白濁液が絡み、ぬちゅぬちゅ立つ淫らな水音。それを恍惚とした面持ちで眺め、ようやく皇帝がオルフェウスの中から己を引き出した。
 ぬぷっと出てきた巨大な猛り。それが離れた途端、青年の身体が獣化する。
 瀕死で横たわる大きな狼。この姿であれば、他の誰かに穢されることもないと、アンドリューは降って湧いた幸運に感謝した。

「午後まで休んでおれ。また念入りに調教するから、ようく休めよ?」

 その言葉に怯え、オルフェウスは尻尾を脚に挟んで丸まった。ぷるぷる震える真っ赤な瞳。それをべろりと舐めて、皇帝は部屋から出ていった。
 しばしの安息に脱力する狼。
 疲れも手伝ったのだろう。すぐにウトウトと微睡んだ彼は、睡魔に身を委ねた。

 アンドリューをこれでもかと体内に刻みつけられ、疲労困憊な狼。手脚を長い鎖でベッドの四隅に繋がれたまま、オルフェウスは泥のように眠る。
 
 しばらくして現れる、獰猛な御主人様の調教に耐えるために。

 狼はひと時の休息を微睡んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。

和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」  同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。  幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。  外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。  しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。  人間、似た物同士が夫婦になるという。   その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。  ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。  そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。  一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。  他の投稿サイトにも掲載しています。

「私が愛するのは王妃のみだ、君を愛することはない」私だって会ったばかりの人を愛したりしませんけど。

下菊みこと
恋愛
このヒロイン、実は…結構逞しい性格を持ち合わせている。 レティシアは貧乏な男爵家の長女。実家の男爵家に少しでも貢献するために、国王陛下の側妃となる。しかし国王陛下は王妃殿下を溺愛しており、レティシアに失礼な態度をとってきた!レティシアはそれに対して、一言言い返す。それに対する国王陛下の反応は? 小説家になろう様でも投稿しています。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた
BL
前世はブラック企業に過労死するまで働かされていた一宮沙織は、読んでいたTL小説「放蕩貴族は月の乙女を愛して止まない」の悪役令息ギャレット=モヒナートに転生してしまった。 よりによってヒロインでもなく、ヒロインを虐め、彼女に惚れているギャレットの義兄ジュストに殺されてしまう悪役令息に転生するなんて。 お金持ちの息子に生まれ変わったのはいいけど、モブでもいいから長生きしたい 最後にはギャレットを殺した罪に問われ、牢獄で死んでしまう。 小説の中では当て馬で不憫だったジュスト。 当て馬はどうしようもなくても、不憫さは何とか出来ないか。 小説を読んでいて、ハッピーエンドの主人公たちの影で不幸になった彼のことが気になっていた。 それならヒロインを虐めず、義兄を褒め称え、悪意がないことを証明すればいいのでは? そして義兄を慕う義弟を演じるうちに、彼の自分に向ける視線が何だか熱っぽくなってきた。 ゆるっとした世界観です。 身体的接触はありますが、濡れ場は濃厚にはならない筈… タイトルもしかしたら途中で変更するかも イラストは紺田様に有償で依頼しました。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結】悪役令嬢はゲームに巻き込まれない為に攻略対象者の弟を連れて隣国に逃げます

kana
恋愛
前世の記憶を持って生まれたエリザベートはずっとイヤな予感がしていた。 イヤな予感が確信に変わったのは攻略対象者である王子を見た瞬間だった。 自分が悪役令嬢だと知ったエリザベートは、攻略対象者の弟をゲームに関わらせない為に一緒に隣国に連れて逃げた。 悪役令嬢がいないゲームの事など関係ない! あとは勝手に好きにしてくれ! 設定ゆるゆるでご都合主義です。 毎日一話更新していきます。

処理中です...