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 理不尽な溺愛 4

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「ここって……」

 幾つかの街を経由し、ようよう辿り着いた新しい拠点。なんとそこは巨大な廃墟だった。
 古い街並みや大きな建物。見た感じは遺跡のようにも思える風情。
 リドルの家族と暮らした街より大きそうな廃墟を見上げる源之助を抱き上げ、ナイジェルが眩しそうに眼を細めた。

「ここは古代の遺跡。二千年くらい前の王都だよ」

「王都…… すごいね」

 見渡す限りの廃墟。木々に埋もれて見え隠れする建物は、朽てボロボロになっている。
 風化し歴史すら感じさせるそこを馬車で通り抜け、彼らがやってきたのは一際大きい建物だった。

「遷都後に放置された王宮だ。ここの地下に俺達のような裏稼業連中用の拠点がある。……まあ、ここを使うのは限られた場合のみなんだが」

 ……限られた場合?

 きょとんっと首を傾げる少年を愛おしげな眼差しで見据え、ナイジェルは王宮跡地に足を踏み入れた。
 瓦礫と化した巨大な廃墟を抜け、一同がやってきたのは、これまた巨大な中庭。
 鬱蒼とした森に変貌した元中庭の中央には大きな噴水があり、誰かがレバーを動かすと、みるみる水が消えていく。
 そしてすっかり空になった噴水の底にあったのは、隠し階段。

「たぶん、王族とかの避難用秘密通路だろうな。ここから王宮の地下に行けるんだ」

 ナイジェル達の説明によれば、王宮地下は頑強に作られており、当時も今も変わらず居住出来る広い空間が広がっているのだそうだ。
 しかし、辺境も辺境。国境に近いここを使う物好きは殆どいないらしい。

 ……じゃあ、なんで、わざわざここまで?

 疑問顔の源之助。その疑問が顔に出ていたのだろう。くっと喉の奥だけで笑い、ナイジェルが源之助の胸に頭を寄せる。

「嫁を迎えたからだ。雌犬でも同じだが、ここに来る必要があるのさ」

 ……ここに来る必要?

 さらに首を傾げる少年に面映そうな笑みを向け、ナイジェル達は地下へと潜っていった。



「うわあ…… すごいねっ!」

 そこに広がる見事な広間。そこここに扉があり、個室も十分備えられている。
 ここで過去の王族らが宴なども開いたのだろう。奥には厨房や当時のままらしい食器なども並んでいた。
 きゃあきゃあと楽しそうにあちこち探検する少年を微笑ましく見つめつつ、盗賊達は街で仕入れてきた食糧や物品を地下に運び込む。
 
 そうして一段落した頃、ナイジェルが源之助を呼んだ。

「おい、こっちだ。行くぞ?」

 ……行く? どこへ?

 がっちり手を掴まれて引きずられる少年。ナイジェルは、ひどく上機嫌な顔で、空いた方の手にナイフを回す。
 くるくると回るナイフに眼を凍らせて、源之助は彼の新たな遊びかと身構えた。

 ……ナイフを使う遊びって? 怖っ!

 びくびく震える少年を地下の奥に引き摺り込み、ナイジェルは淫猥な笑みを浮かべる。

「ここだ。ほら、手ぇ貸せ」

 引き摺り込まれた空間に在るモノを見て、源之助の眼が見開いた。

 ……そうか、王宮地下って、これがあったんたった。

 そこには豊かな水を湛えた泉。

 聞けば、裏稼業で教会などと懇意に出来ない犯罪者らは、こういった廃墟に残る祝福の泉で卵を得ているらしい。

「雌犬の調教後とかな。たま~に卵をもらえたりするから。……俺はまだ貰えたことねぇけどよ」

 ……そりゃ、そうだ。ほぼ強姦じゃん。そんなんじゃ、卵なんてもらえないよ。

 愛情たっぷりな精しか神には届かないのだ。それが溜まりに溜まって、ようよう卵を授けてもらえる。その仕組みを知る源之助の笑みが、どんどん乾いていった。

 ……と、掴まれていた指先に一瞬痛みが走る。源之助が、あ……っと思う間もなく、ナイジェルは少年と己の指先を切り、その血を泉に垂らした。

 ……やばっ! これってお決まりのパターンじゃっ!

 狼狽える源之助を余所に、当たり前だが卵が現れ、ナイジェルは狂喜乱舞。

「うおおおぉぉっ?! 卵……っ? 俺の子だあぁぁっ!!」

 はわはわ大慌てしつつ、彼は限界まで眼を見開いて授けられた卵を抱きしめる。
 そして源之助と卵を抱えて広間に戻ると、意気揚々その卵を頭上に掲げた。

「俺の子だぞぉぉーっ!」

 うおおおおおぉぉーっと雄叫びを上げる盗賊達。
 
「やりましたね、お頭っ!!」

「すげぇっ! 俺、卵見るの初めてだよっ!」

 目の色を変えて卵にむらがる男らは、宴会だ、祝いだと駆け回り、あれよあれよという間に宴が始まった。
 その主賓として中央に座らされた源之助はナイジェルの膝に抱かれ、居心地悪気にしながらキスの嵐に見舞われる。

「よくやったな。卵だぞ、卵…… 俺達みたいな人間は教会に行けねぇから、ここでしか卵を得られないんだ。……ああ、可愛いなあ。これが我が子か……」

 専用の袋で懐に入れた卵を飽きることなく撫で回し、うっとりとナイジェルは呟いた。
 心の底から嬉しいと物語る彼の顔。

 ……そんな顔も出来るんじゃん。

 源之助に対する甘さと違う、蕩けたナイジェルの笑顔を見て、やらかしたと思う反面、こんなに喜んでもらえたなら、ま、いっか……とも思う少年。
 
 だが、事はそれで終わらない。

 ナイジェルが卵を得たのを発端に、我も我もと盗賊達は源之助と泉に血を捧げ始めたのだ。
 いつも少年から大量の精をもらっている神は大盤振る舞い。全ての男たちに卵を授ける。その数、二十個以上。

 あまりの出来事に、開いた口が塞がらない男達。

「……夢か?」

「いや、現実だろう? なんだよ、この数…… すげぇ……」

「は……っ! 俺達の嫁は神の使いなのかもしれねぇな」

「良かった…… これでうちの盗賊団も安泰だ」

「ああ。子供を拐うのは骨が折れるからな。お頭だけでも我が子を得られたらと思ったけど」

「まさかの全員だよ、はははっ!」

 一節、不穏な台詞が混じっていた気もするが、おおむね感激ムードの盗賊達に源之助は安堵した。

 ……あんのエロ神、やり過ぎだわっ!

『ええやないですか。これで盗賊にするため拉致られる子供が減ったんやし』

 ……あれって、やっぱそういう意味なんだよねっ?! 怖っ!!

 どこの裏稼業でも同じだが、拐ってきた成人済な者は雌犬とし、まだ子供な者は仲間になるよう洗脳して仕込むらしい。
 だがやはり、我が子に優るものはない。

 未来の子供拐いを未然に防いだ源之助。

 そんな少年を崇め奉り、今日もたっぷりと精を注ぐ盗賊達である。
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