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 理不尽な接待 11

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「見えたぞ? あれがスフェーンだ」

「ふわあ、やっと緑がありますね」

 リドルが閣下に脅されていた頃。

 源之助は、馬車に揺られて異国に辿り着いていた。

 多くの申し込みの内、リヒャルト達が早急に片付けたいのが隣国スフェーン。
 ここは内乱寸前の国らしく、五人いる王子のうち、現在子を持つ者が一人もいない。ゆえに誰かしらが子を得れば、その発言権も強くなる。
 それを期待して、リヒャルトと懇意にしていた第二王子の招きで源之助達はスフェーンを訪れた。
 レスレクシオン王国と違い、海と大河を持つスフェーンは砂漠の国。
 レスレクシオン辺境を出た途端、パノラマで広がる荒野を物珍しげに眺めているうち、緑がしだいに枯れ果てて足元が砂に変わる。

 ……すげぇぇ。見渡す限りの砂漠とか、初めて見たかも。

 夜営も天幕を張った本格的なモノで、遠足や修学旅行気分の源之助を、すこぶる楽しませてくれた。
 潤沢なお湯も用意され、地面に掘った穴に防水布を敷き、簡易的な風呂に早変わり。
 近くにオアシスのある場所で行う夜営は、非常に快適だった。
 満天の星空に、そよぐ椰子の木。
 一応、夜営側から隠す仕切りはあるが、三方開けた露天風呂のような光景に源之助は酔いしれる。

 ……贅沢な光景だなぁ。砂漠と無窮の星…… 星の界って、こういうのをいうのかもなあ……

 口まで湯に浸かり、ふと源之助はリドルやリヒャルトの言葉を思い出す。

 風呂は王侯貴族の贅沢だと二人共言っていた。

「そういや、お湯って竈門で沸かす以外にどうやって?」

「魔術具だ」

 独り言に返事が来て、ぴゃっと背筋を震わす少年。
 慌てて振り返った源之助の目に映ったのはリヒャルト。もちろん全裸で、狭くはない仮設露天風呂に入ってくる。
 源之助を抱え込むように湯に浸かり、彼は先程の疑問に答えてくれた。

「その首輪もそうだが、世界には魔術具がある。知っているか?」

 ぶんぶんと源之助は首を横に振る。
 それに淡い笑みを浮かべ、リヒャルトは右手にはめた指輪を抜いた。

「これも魔術具の一つ。宝石を媒体とし、魔術師が付与を入れるんだが。魔力には質があってな。平民でも魔術具を動かす程度の魔力はあるが、溜めて付与するほどの魔力はない。貴族などは魔力の質も量も高いが、それでも魔術具に魔力を装填するにはかなりの時間がかかる」

 要は、魔術具を作り、魔法を付与し、それを動かすための燃料である魔力を溜められる魔術師は滅多にいないということ。
 起動させる魔力はほんの少しでも良いが、その魔術具を動かすために予め道具に魔力を注いでおく必要がある。それを出来る魔術師が多くはないので、結果、風呂のように大量のお湯を沸かすのが困難だという話だった。

「薪とか普通に火を焚いて沸かさないのか」

「それこそ王侯貴族の贅沢だ。こんな大量のお湯を沸かすための薪など、半端ない金額だぞ?」
 
 魔術具が広く普及しているため、平民でも気軽に使える。わざわざ火をつけて後始末が必要な手間暇はかけないらしい。
 ゆえに滅多に使われない薪は、非常に高価なのだとか。
 リドルのところでお湯を使わせてもらっていた源之助だが、あれとて壺に二つか三つ。鍋で沸かして用意したものだろう。

「森で木でも切ってきて薪にしたら良いのに」

「……それ、普通に犯罪だからな? 森の木々は国の大切な資源だ。材木として高価に売れる物を薪になんぞしてはいかん」

 呆れたかのような顔のリヒャルト。

 聞けば薪にしてよい物は、加工の過程で出た廃材や古くなって取り替えた廃材。真新しい木材を薪になど言語道断と彼は言う。
 ちょっとした魔術具ならそんなに魔力も食わないし、こういった大掛かりなモノでなくば問題はないらしい。

「身を清めるのは水で事足りる。我々だからこそお湯を使えるんだ。平民には無用だろう?」

 この世界の人々は、流し捨てるだけの湯水に必要性を感じないようだ。こうして湯に浸かるリヒャルトとて、たんなる財力、権力の誇示。
 嫁に湯を使わせるのも、その一つ。これだけ大切にしていますよという自己満足。
 
 ……う~ん。価値観の相違だなあ。

 ぷくぷくとアブクをたてながら、リヒャルトに抱きかかえられていた源之助は、彼の手が悪戯し始めたのに眼を据わらせる。

「………………」

 無言だが、少しずつ熱くなる背後の吐息。

 ……またか。この絶倫様が。

 少年の予想を裏切らず、のぼせるほど湯船で絡まる二人。こんな旅路でも毎日注がれる精に溺れ、今日も泣き叫ぶ源之助だった。
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