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 理不尽な王子 4

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「夜会の招待か…… また久々だな」

 リドルは重厚な封筒を指でもて遊び、ついっとテーブルに投げた。

「夜会?」

 ……これまた異世界らしいモノが来たな。

 珍しげにマジマジと封筒を見つめる少年。それに軽い嫉妬を覚え、リドルが源之助の背中に覆いかぶさる。

「なに? 興味あるの? 子供のくせに。グエンには、まだ早いよ。ってか行かせないからね、まったくっ!!」

 ぷんすこ膨れるリドルを見て、源之助は素直に首を傾げた。

「夜会ってパーティーのことじゃないの? こう……美味しい物を飲み食いして、優雅にダンスしたりとか?」

「……まあ、間違ってはいないけど。……ひょっとして知らないのかい? ……どこまで箱入りなんだか」

 呆れたように呟き、リドルは少年を膝に乗せてソファーに腰掛けると、さも嫌な顔を隠さずに説明する。
 宿屋の兄弟の許婚にされてしまった源之助は、誰かと一緒でない限り外に出してもらえない。
 一人な時は部屋で鎖に繋がれている。盗難防止だそうだ。

 ……逃亡ならまだしも、盗難って

『よくありまっせ~。自分の嫁目的以外にも、嫁不足な村や部落の依頼で、嫁強盗や拐かしとか~』

 ……怖いなっ? つくづく、なんちゅう世界だよっ!

 そんなこんなで源之助も大人しく繋がれている。リドル達なら基本優しいし、温かい家族だ。良い居候先だと思う。

 そして源之助はリドルの膝の上で、夜会の説明を聞いた。

 要は集団見合いのようなモノらしい。

「成人から二十五歳あたりの若者を集めてね。貴族らが味見をするんだ。……で、まあ気に入ったら求婚し、相手が受け入れれば、その場で婚約。嫁に出来る次男三男は絶対的に少ないから。平民でも貧しくない富裕層らを夜会に招いて、貴族達が優先的に掻っ攫うってわけ」

 ……うわあ。えげつな。

 さらに詳しく聞けば、そこで粗相をすると問答無用で嫁にされるとか。

「粗相?」

「……注がれた精をこぼすこと。器量良しは複数から狙われる。……で、決着のつかない場合、お互いに精を注ぎあって、我慢出来なくなった相手が精をお尻から漏らすと、そこで終わり。直前に注いだ男のモノにされるんだ」

 ……生々しい+エグすぎる。ようは突っ込みまくってゆるゆるにして、注がれたモノを我慢出来なくなるまで責め立てる拷問だ。

「中には、絶対に受け入れないヤツもいるしね。そういった人間を無理やり従わせて落とす方法。……俺も、若い頃はよくやられたよ」

 ……ご愁傷様です。

 今でもフリーなリドルは、それを耐え抜いたのだろう。ある意味、尊敬出来る源之助。

 ……あ~、リドルがたまに、えらく凶暴になる理由が分かったかもしれない。責め方もピンポイントでめちゃくちゃ効果的なのは、自分が経験済みだからか。……それを俺で活かすなよなっ!!

 二十歳を越えた今、リドルはトウが立ち始めた部類になるらしい。貴族らは見向きもしないとか。まあ、庶民には関係ないようだが。

「そんでも盛るヤツは盛るからなぁ…… まだ嫁のない下級貴族とかさ。貧乏貴族だと、結納金の必要ない俺らみたいな平民しか娶れないから、しつこいんだよ」

 平民が貴族に嫁げるのは名誉なことだと、下級貴族ほど結納金をしぶるらしい。これが中堅や上級貴族なら、そんなことはない。むしろ大盤振る舞いしてくれるので、夜会に参加する平民は娶られることを期待しているとか。

 ……処変わればだなあ。まあ、男性しかいないし、子供も少ないから若者も少ない。どうしても争奪戦になって、無理難題も出てくるんだろうなあ。

 陰鬱な面持ちのリドルを気の毒そうに眺める源之助だが、まさかその余波が自分にも降りかかろうとは、夢にも思っていなかった。
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