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原点 二枚目の真実 2 ☆
しおりを挟む『ハウゼンっ? なに、これっ?!』
いつもどおり呼び出され、別邸の地下で大勢に嬲られたハルトは、己を檻に押し込めて首輪で繋いだハウゼンに動揺した。
首輪をつけられ、鎖で引かれるのはいつものとこだが、檻に閉じ込められたのは初めてだ。
見ている元学友らも、にやにやと卑な笑みを浮かべている。
『ハウゼンは君を飼うことにしたらしいよ? 愛されているねぇ?』
『ここはハウゼンのとっておきな場所だから。暮らしに困ることはなく十分に設えてある。安心して飼われると良い』
そういったプレイ用の物が取り揃えられた淫靡な地下室。ここでいつも、ハウゼンは仲間達と共にハルトを弄んできた。
十年たっても変わらない仲間意識。学園を卒業した彼らは、人目に触れてはならない遊びも卒業した。だが、燻る下半身の劣情をもてあまし、未だに恋人と仲睦まじいハウゼンの誘いに乗ったのだ。
今では、あらゆる性癖を持つ彼らの玩具にされているハルト。その嗜好は非常にコアで、学園の下級生相手には出来なかった過激なプレイをハルトに叩きつける。
毎回、正気を失うほどの責め苦。肉体的にはもちろん、その心まで蝕む調教や躾けに、ハルトの精神はどんどん壊されていった。
そのせいで夢遊病みたいになり、満たされぬ不安が始終つきまとう。
……大丈夫。大丈夫。今回は救える。絶対、大丈夫っ!!
己に言い聞かせるよう脳内で呟き続け、ハルトは精神の均衡を保っていた。
そこに来て、檻に監禁である。
何が起きたのかとオロオロするハルトを冷たく一瞥し、ハウゼンは鞭を振り上げた。
「……縁談がきてるとか? 俺は聞いていないんだが、ハルト」
「……あ。……いや、それはっ! ひうっ!!」
ぱしーんっと大きな音がし、檻の金属が小刻みに震える。
「口答えはいい。もう離してはおけない。ここに居なさい」
「え?」
鞭の当たった背中。きっとミミズ腫れになっているだろう。教鞭は非常にしなやかだか硬質だ。
「ここに居るんだ。二度と外には出さない。君も嬉しいだろう? 俺に囲われるのだから」
「あ……」
さも幸せそうに微笑むハウゼン。
「二人で幸せに暮らそう? 君も望むよね?」
奴の仲間に注目される中、ハルトは力なく頷いた。この男を暴走させてはならない。それにはハルトが全身全霊で、この俺を捕まえておくほかない。
項垂れたハルトの頷きは、まるで恥じらう乙女のように見えて、周りの性倒錯者達を興奮の坩堝に叩き込んだ。
「おめでとうっ、ハウゼンっ! 自ら飼われてくれるなんて、君の恋人は最高だなっ!」
「羨ましい。何をしても受け入れるし、どんな辱めにも佳がるとか。本当に男を惑わすために生まれたニンフだね。これを分かち合ってくれる君に感謝するよ、ハウゼン」
「プロポーズが成功したら渡そうと思ってさ。みんなで用意しておいたんだよ。おめでとう、ハウゼン」
仲間から差し出された箱を受け取り、中身を見たハウゼンの顔が歓喜に彩られる。そこには、指輪ならぬ小ぶりなリングのピアスが煌めいていた。
用途がお察しなソレ。
その日、祝福する鬼畜どもに嬲り尽くされ、絶叫をあげるハルトの胸に、ハウゼンはピアスをつける。敏感な肉粒を貫き、はめられたピアス。
己の所有の印を刻み、ハウゼンはいたく御満悦だった。
この悍ましい支配と凌辱を、プロポーズだの祝福だのと宣う、イカれきった気狂いどもの巣窟。
狂気の極みでしかなかった、あの日。
そこからハルトはハウゼンに飼われ、何年も嗜虐の宴の生贄にされる。もはや正気を保つのも難しいくらい疲弊し、弱っていた。そんな彼のよすがは可愛い弟妹と家族。
しかし今、それにハウゼンの毒牙が向けられた。
……どうする? どうしようっ?!
はっと気づいたハルトは、お互いの合図をハウゼンに送る。瞬き三回。これは、何かを伝えたい時にするよう、ハウゼンと決めたルールだった。
それに気づいたハウゼンは、ハルトの口から枷を外す。
「どうした? 御不浄か?」
「……ちが、……ハウゼンが、かまってくれないから」
うっとり緩んだ艶めかしい視線。
「何を勘違いしたのか分からないけど…… ハウゼンこそ僕を忘れないでよ。僕のことだけ考えて?」
すりすりと可愛らしくあまえる恋人。それを見て、獰猛な狂気をはらんだハウゼンの眼が和らいでいった。
……勘違い? ああ、そうか。俺の穿ち過ぎか。
「そうか…… そうだな、君はここに居る。可愛がって欲しかったのか。仕方のない子だ。じゃあ、みんなを呼んで楽しもう。とりあえず食事かな?」
そういうと、ハウゼンはハルトを抱きかかえてテーブルに向かう。ここ数年、ハルトは拘束されたままで、ハウゼンに手ずの給餌を受けていた。
「……良いね。可愛い。君の生殺与奪権を俺が握っていると思うとゾクゾクが止まらないよ。覚えなさい。君を生かしているのは俺なのだと…… ほら、もっと舌を出して? 欲しがって?」
……こんの変態がっ!
実際、かなり前に、食事を何日も与えず、飢えて咽び泣くハルトをハウゼンは愉しげに眺めていたことがある。
その間、ハルトに与えられたモノは奴の精だけ。しばらくは我慢したハルトだが、渇きも手伝い、一日たたずに陥落させられた。
そこから一杯の水が与えられ、その水を得るため、ハルトは赤ん坊のように泣きじゃくり、ハウゼンのモノを求めさせられたのだ。
もちろん、衆人環視の中で。
「~~~~~っ、めっちゃ可愛いな。なにこれ? 妖精? ニンフじゃなくて妖精だったの、君の恋人」
「うわあ…… 可愛いすぎて眼に痛い。俺のをやろうか? なあ?」
ハルトの醜態を鑑賞するハウゼンの仲間達。その一人が突きつけてきたモノから顔を背け、ハルトは必死にハウゼンを見上げた。
泣き腫らして真っ赤な顔のハルト。
「ハウゼ…ン… ちょうだい……?」
その潤み悩ましい瞳にノックアウトされ、ハウゼンは最愛の顔を両手で包むと、己のモノを与える。途端にむしゃぶりついてきたハルトが眼福過ぎて、すぐに彼の一物は弾けた。
ちゅうちゅう吸い付き、うっとり紅い舌を絡める恋人を至福の笑みで見下ろすハウゼン。
「よく躾けてあるなあ。御主人様冥利に尽きるね」
「う……、ふぅ……っ、……だろう? ハルトの愛をひしひしと感じるよ。ああ、なんて愛おしいんだ。明日からは食事をあげようね。辛かっただろう? よく我慢したな」
わしわし髪ごと顔を撫で回されて、ハルトは涙目だ。これもまた、ハウゼンは随喜の涙と勘違いし、勝手に盛る。
……愛とか、欠片も無いわ。お前の機嫌を損ねないために、こっちは死物狂いなんだからな。
ハウゼンの仲間達に称賛されつつ、心の中だけで毒づいた、あの日。
こうしてハウゼンの意識を己に向けて、ハルトは頑張った。
飽くことなくハルトに愛を囁やき、蹂躙を続けるハウゼン。
もはや日付の感覚もなくなり、されていることの意味も分からなくなったハルトは、人形のように嬲られ泣かされる日々に倦んでいた。
「気持ち悦いね、ハルト。いくつになっても君は可愛いままだ。さあ、今日も存分に遊んでやろう」
……気持ち? 悦い? そうかな? そうかも……… あっ!
慣らされ、溶かされ、ドロドロに浮かされたハルトは、朦朧としたまま考えることを放棄する。
そしてさらに何年かたち、ある日、突如としてハルトは混濁した意識を覚醒させた。
それは、ライルの訃報。
「……亡くなったらしいよ、君の弟。公爵家は妹夫妻が継いでいるが。……あれは、本来、君のモノなのにね。気に入らないな。こうして君を飼うまでは、俺が補佐について継がせるつもりだったんだけど。……まだ遅くないか。ハルト、返してもらいにいこう」
だがハルトの耳に、ハウゼンの言葉は聞こえていない。
……ライルが死んだ? なんで?
黄泉がえりの代償だが、それを知らないハルトは、呆然と宙を見つめた。
七十越えまで生きたハルトと違い、ライルが魔女の元を訪れたのは六十と少しな頃。そこで寿命が定められてしまい、ライルはハルトよりも早く対価を支払った。
それを知らず愕然としたハルトを余所に、公爵家を取り戻そうと説得するハウゼンだが、それは当の本人によって棄却される。
「マリーに譲るよ。僕らには必要ないでしょ?」
何年も拘束されていたため、すっかり足腰の衰えてしまったハルトは車椅子で地下室から出された。
「だが、元々君のモノだったのに」
「僕はハウゼンがいてくれたらそれだけで幸せだもの。むしろ領地経営なんて煩わしいよ」
……マリーだけでも守りたい。
「……そうか。そうだな。うん」
たが狡猾なハウゼンは、ハルトの生存をマリーに伝え、その資産をむしり取る。
「ハルト兄様が…… 生きているの?」
手紙を受け取ったマリーは、直ぐ様動き、その事実を確認した。
「遠目にだぞ? 今のハルトは弱っていて会わせられないから」
コクコクと頷くマリーとその夫。
それを小高い丘に置いて、ハウゼンは別邸へと向かう。別邸の扉が開き、使用人とともに現れたハルトは、車椅子ごと抱きしめるハウゼンにキスをした。
それを見て、マリーもハウゼンの説明を信じる。
『ハルトは俺と恋人同士だった。なのに縁談を強制されて…… あいつは俺を頼って逃げてきたんだ。そこから、ずっと匿っている。あいつを養うのに財産の大半を使い果たしてしまった。その分も、これからの分も、公爵家で補填して欲しい』
前公爵やライルも亡くなり、マリーが公爵家を婿取りで継いだため、もう話しても良いだろうと、ハウゼンは公爵家にハルトの生存を知らせた。
『あいつは公爵家を要らないと言っている。俺の側にあれれば良いと。だから静かに暮らして愛してやりたい。黙って協力を頼む』
これは裏付けも取れている。学園時代のハルトとハウゼンは恋仲で、非常に睦まじく有名だった。誰もが知っていたから疑う道理はない。
……お兄様。ごめんなさい、わたくし知らなくて。
ハウゼンの嘘八百を信じたマリー。
だが公爵家の支援も虚しく、数年後にハルトは亡くなる。黄泉がえりの対価からは誰も逃れられない。
こうして新たな後悔が、さらなるやり直しへと繋がっていく。
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