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未来との遭遇 〜終〜
しおりを挟む「それで、どうなったの?」
「ん? 獣人は変わったんだよ。まだ、デセール王国だけだけどね」
老女は孫を膝に抱きつつ薄く眼をすがめ、変わったデセール王国の王侯貴族らを脳裏に描いた。
「アタシ、王太子様と結婚するわっ!」
「チャミーっ?!」
びっくり仰天するショーンを一瞥し、成長したチャミーは王太子に嫁ぐと宣言した。
ふさふさな尻尾や長い黒髪と狐耳。人間に獣の特徴を持たせたような不可思議な姿の子供達は、今ではフォーゼと呼ばれ、通常の獣人と区別されている。
その愛らしい姿にのめり込み、求婚に訪れる人々も数しれず。そんな中からチャミーは王太子を選んだようだ。
「だって、アタシが成長するのをずっと待っててくれたのよ? 公務で忙しいのに毎週会いに来てくれて。これってアタシが生まれた時からなんでしょ? すごいじゃない?」
言われてみたら、たしかにそうだろう。
三顧の礼ならぬ、十五年の礼。
千里の産んだ子供が女児だと知った王家は、王太子を筆頭とする王子たちを毎週のようにラウル宅へ寄越した。
最初は遠慮がちだった彼らも、成長する娘らに眼を眇め、うっとりと撫でたり抱いたりと可愛がってくれた。
中でも、王太子の執着は半端なく、黒い半狐なチャミーに一目惚れし、そこからずっと我が家へ通い続ける。
彼女の成長を見守り、長々と待ち続けた彼。
その間、妻も娶らず教会の卵子にも頼らず、一人綺麗な身体で独身を貫いたというのだから、見上げたものだ。
そこまでされて絆されない女もいないだろう。
全力の愛情を一身に受けて育ったチャミーは、思い切り良く王太子を伴侶に選ぶ。
娘の決断に涙目で絶叫するショーンを宥めつつ、千里は苦笑した。
「アンタの人生だし、好きに生きなさい。後悔もあるかもしれないけど、それすら楽しめるくらいにね」
振り返れば千里の人生も黒歴史だらけだ。それでも伴侶に恵まれ、沢山の子供に囲まれ、よい人生だったと思う。
終わり良ければ全て善し。
成人したチャミーが結婚を決め、双子の片割れであるリリアも気になっている人がいると、モジモジ呟いた。
チャミーが快活で竹を割ったような性格なのに対し、リリアは慎ましく思慮深い性質である。二卵性なので似てなくても可笑しくはないが、不思議なものだと千里は娘達を見つめた。
ラウル家の子供は双子を筆頭に、三つ子、双子、双子の計九人。うち六人が娘で、数年おきに王侯貴族へ嫁いでいく。息子達も引く手数多で婿入りした。
さらにその子供らも各家に嫁ぎ、千里の子供達の血筋が貴族家を一巡した頃。
人々はようやく気がついた。
王侯貴族らの子供の男女比が正常に戻っていることに。
そして千里の血が混じったせいか、彼等の獣性が驚くほど穏やかになっていたことも。
数世紀を経て、ようやく判明した現実に、教会各位はもちろん、デセール王家も狂喜乱舞する。
その証拠と言わんばかりに、千里の血が混じった子供の子孫の半数はフォーゼという半獣人で生まれ、生粋の獣人で生まれた子供らも酷く穏やかな獣性をしていた。
これが王侯貴族を占めるようになったあたりで、通常の獣人らの意識も変わっており、人間と獣人の良いとこ取りをしたフォーゼを敬い奉る。
知的で柔らかな雰囲気に魅了され、国民は、生粋の獣人にはない彼らの繊細さを愛おしんだ。
しかし、ここで獣人は新たな間違いを起こす。
千里を神聖視し、人間に近い姿をしたフォーゼを尊ぶあまり、生粋な獣人らを格下に見る風潮が湧いたのだ。
戦闘には生粋の獣人の方が向いている。それだけの理由で、騎士や兵士は異性婚を禁じられた。
優秀な戦士ほどそのクローンを増やすことを望まれ、命じられるがまま従来の様式で子をなす平民達。
フォーゼは特権階級のみで独占し、そのフォーゼに支配される新たな理が築かれた。
それを喜んで受け入れる生粋の獣人達。
これを変えるには、また長い時間が必要になるのだろう。
老婆は膝に抱いたフォーゼな孫を愛おしげに抱きしめた。
「ありがとうございます、チサト様」
自分の曾祖母にあたる女性に感謝し、老婆は眠ってしまった孫を寝かせるため、離宮から王宮に向かう。
そんなデセール王国を神が見下ろしているとも知らずに。
《まだまだ問題は山積みですが、佳境は越えましたね。良かった……》
それでもオウチは変わった。始まりの奇跡と呼ばれる千里の伴侶達によって。彼らが千里を慈しみ、愛さなくば、今の奇跡はなかっただろう。
ほんのコンマ単位で生まれた絆。満たされることを知り得た獣人により、フォーゼという稀有な存在が生まれ、広く王侯貴族らをも満たしてくれた。
そしていずれはデセール王国全てを…… さらに世界を満たしてくれるだろう。
今は紆余曲折しても、雌を望む雄の劣情が、その奇跡を望むに違いない。
《……永かった。本当に永かったです。ありがとう千里。私の世界は救われました》
すでに虹の橋を渡り、戻ってきた千里の魂を両手で掲げて、オウチの神は地球へと返還した。
ふわふわと地球へ戻っていく魂を祈るように見送り、新たなオウチを率いていくフォーゼらを神は静かに祝福する。
王侯貴族以外はまだまだ変わらないが、確かな希望の種が大地に芽吹いた。
滅びに瀕していたオウチに訪れた、これからという未来。その到来を知りもせず、今日もオウチは通常運行で回っていく。
~了~
~あとがき~
ここまで既読、ありがとうございます。
ちょっと不完全燃焼な終わりになってしまいましたね。たぶん、後々エピソードを足すと思います。
BLにするかTLにするか、めっちゃ悩んだ作品なんですが、BL好きな方はTLにも多分忌避感ないと思うんです。でもBL苦手な人はとことん苦手ですからね。
世界観がBLてんこ盛りだったんで、タグに補足してBLで投稿しました。めっちゃ、苦肉の策です。うん。
読了、感謝いたします。ではまた、どこか別の物語で。さらばです。
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