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国王との遭遇(予感)
しおりを挟む「……どういうことか」
「御報告したとおりです」
不穏な空気をバチバチさせて、国王は教皇を睨め下ろす。
段下に佇む教皇は、その獰猛な睨みを事もなげに跳ね返し、静かに立っていた。
「女性の卵子が提供されるのは良い、だが、それが、賜り物だとっ?! ふざけた話だっ! なぜに報告されなかったかっ!!」
オウチの世界において、異世界から渡ってきた神の贈り物を賜るのは至上の慶び。過去に記された文献によれば、男女問わず渡り人の子供は正しい男女比で産まれるからだ。
つまり、今のオウチのように何十人にも産ませて女児一人とかでなく、産ませたら産ませただけ、二人、三人と女児を授けてくれる。
これがどんなに希少なことか。分からない教会でもあるまいにと、国王は忌々しげな顔で教皇を睨み続けた。
「……しかたありますまい。渡り人様が、そのように望まれたそうで」
驚愕に眼を見開く国王に心の中だけで舌打ちし、教皇は卵を献上に来た渡り人と庇護者らを思い出す。
女性が献上に来たと聞き、急遽転移陣で駆けつけた教皇は、すでに丸いお腹をした小さな生き物に絶句した。
彼女は庇護者らの子を宿していて、卵は献上するが、卵子の献上は出産後にと宣う。
それはそれで構わない。だが問題は、庇護者らの嫁と申請された女性が、渡り人であったこと。
なぜに国へ報告しなかったのかと問えば、彼女が渡った場所が、ここデセール王国ではなかったこと。ウェザーとドミニク王国の狭間だったため、どちらに報告するか迷っていたところに、渡り人本人が、この庇護者らと共に有りたいと願い、デセール王国までやってきたという。
『……我々の嫁になりたいと。なので、この国へお連れしました。これ、この通り首輪もついておりますし、彼女のお腹には我々の子供もおります』
はにかむように微笑む獣人達。渡り人様は彼等と睦まじく、すでにつけいる隙もないほど家族になっていた。
これを引き剥がすのは無理そうだ。何より、彼女の訪れた場所がデセール王国ではないのが不味い。もし、こちらが強硬に出た場合、他の国にも知れ渡る。どの国にだって隠密は存在するのだ。
事が露見したら、ウェザーやドミニクが黙っておるまい。最悪、渡り人を巡った戦争すら起きかねない。
渡り人は正しい男女比で子供を産む。その子供も、さらに先の孫も。
オウチの獣人の血が濃くなるまで、長くに亘り濁りのない健やかな子供を、この世界に恵んでくださるのだ。
教会の地下に保管された卵子の殆どが渡り人の血縁。ときおり起きる渡り人の先祖返りで、今のオウチは女児を得ていた。
一般には知らせていない裏事情。オウチの獣人の命運は、すでに尽きている。神々のお情けで生きているに過ぎない。
神々から贈られる賜り物によって。
神妙な面持ちで細い溜息を吐き、教皇は知り得た情報を国王に説明する。
「それは…… なんとかならないのか。せっかく清浄な肉体を持つ女性が現れたというのに。王家の血の存続を優先すべきであろう?」
「なんともなりません。あのチイとかいう渡り人様は、すでに身籠っておられます。夫や子供と引き離すのは酷でありましょう」
渡り人が男性であったなら、もっと事は簡単だった。
オウチの女を宛てがい、毎日種付けをしてもらえば済む。そして産まれた女児を王家や貴族達に与えたら良いのだ。しばらくは正しい男女比の子供らで各家が賑わうだろう。
しかし今回の渡り人は女性。これは是が非でも王家に迎えたいと国王は思う。雄の本能が、己の遺伝子を残せる雌に、ゆるゆると傾倒していく。
奪えと。精をぶちまけて余すところなく己のモノにし、身体中に噛みついて印をつけろと。獰猛な本能が国王の奥底から吠え立てる。
……悩ましいな。
けれど、賜り物は国を挙げて歓待するのが習わしだ。ウェザーやドミニクに嗅ぎつけられる前に公表して、チイとかいう渡り人の所有権を確保しなくてはならない。
拾い物は拾得者のモノ。さらには子をなした女性は、孕ませた男のモノ。
後でウェザーやドミニクが、本当は自国の領地に渡って来たのだと知っても、この不文律がある限り彼女の所有権はデセール王国で揺るがない。
「ある意味、僥倖か」
「左様ですな。我が国は、他の国と比べて女児の出生率が極めて低い。彼女は福音となるでしょう」
貴族はいうに及ばず、国王すら教会の卵子に頼っているデセール王国。今のデセールに、女性は両手で余るほどしかいない。
前に千里がラウルから聞いた、デセール王国の深刻な嫁不足。それは本当に崖っぷちギリギリだったのだ。
「ワシはどうせ先が短い。番わすなら息子達だ。頼んだぞ、教皇。チイとやらと交渉し、娘御が産まれたら譲ってもらえるよう頼んでくれ」
「御意」
「忙しくなるな。とりあえず御披露目パーティーと親睦会か。王家に好意を持ってもらえるよう真摯にあたらねばな」
ほくそ笑む二人は、渡り人の訪れを心から歓んだ。
……が、後日、彼等は知る。千里が出産した二匹が女の子であったことを。
「ぜひっ! ぜひ、王太子の花嫁にぃぃーっ!!」
「ふざけんなっ、まだ零歳だっ!! そういうことは、あと十五年してから本人達に頼めぇぇーっ!!」
「やらん。うちの娘は俺の嫁にする」
「俺もだ。気が合うな、ショーン」
ショーンとラウルが抱く可愛い子供達。一匹はショーンに良く似た狐。ただし毛色は黒。他に類を見ない見事な漆黒の狐に、国王陛下は息を呑む。
さらにはラウルの抱く狼。こちらも飴色のごとき薄い滑らかな体毛をしている。狼は大抵、焦げ茶色なのだが、狐よりも明るい薄茶色な狼に誰もが眼を釘付けにされた。
「……可愛ええのう。父ちゃんと番おうな。ずっと愛してやるから」
「……他に渡せるか。これは、俺の命だ」
ちゅっ、ちゅと娘達にキスの雨を降らせて舐め回す父親ーズ。
……これだから、畜生はぁぁーーーっ!!
所構わず盛り、娘や孫であっても番う獣事情。そういった関係から、人にあらざる行為をやらかす奴を、人は《犬畜生にも悖る》とか言ったりする。
これだけの文明を築いていても、本能に忠実な獣人達。我が子ほど愛しく尊いモノはない。それが雄の劣情に繋がるあたり、愛が重すぎて重症だ。
「正気に戻れーっ! 遺伝子的なことは理解してんだよねっ? 親子で番うとかやったら、血が濁るよーっ!!」
すぱこーんっと親バカーズの後頭を引っ叩いては、正気に戻させる千里が一番の苦労性かもしれない。
そんなこんなで賑やかになる未来を、今の千里は、まだ知らなかった。
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