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本編
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「はーい、時間だしこれでプレイはおしまいな、お疲れ様」
神原 蓮華がいつも通りの言葉をかけると、目の前の人物は何回か瞬きをした後、我に返ったようだった。
「どう?体調大丈夫そ?」
「はい、おかげさまで」
その言葉の通り彼の顔は晴れやかだ。最初に会った時よりはだいぶマシになった。これなら延長は必要ないなと神原は判断する。
「じゃあ俺はこれで。次は来週の同じ時間でいい?」
「はい、よろしくお願いします。レンさん、ありがとうございました!」
この世には3つの性別があり、それぞれ男女性、バース性、ダイナミクス性と呼ばれている。バース性はαとβとΩ、ダイナミクス性は大まかにDomとNormalとSubに分かれている。大抵の人間はβNormalだが、α、Ω、Dom、Subもそれぞれ全人口の1%の割合で存在する。そしてそれらの希少性を併せ持つαDom、αSub、ΩDom、ΩSubも僅かながら存在する。
このうち、ΩSubは特に政府からの手厚い保護を受けている。それはなぜか。
Ωには3ヶ月に1回の「発情期」が存在する。この間Ωは何も出来ずただαを誘うフェロモンを放出し、性欲に支配される。そしてこの間にαがそのΩの項を噛むと彼らは「番」となり、Ωは一生そのαに縛られる。さらにΩには子宮があり、発情期に性交しようものなら避妊しなければほぼ確実に妊娠する。しかもΩの発情はαの発情によっても引き起こされる上、Ωの発情とは違いαの発情はαの意思で起こすこともできる。持つことすら法律で禁じられているが、Ωの発情を誘発する薬、なんていうのもある。
Subには三大欲求の他に「プレイ欲」が存在する。プレイとは、Domの出すコマンドにSubが従うことをいう。満足のいくプレイをするとSubはプレイ欲が満たされて心理的充足感を得るが、さもなくば彼らは「不安症」と呼ばれる精神不安定な状態になり、しまいには「ドロップ」といって突然倒れ、廃人になったり時には死んだりしてしまうこともある。そして一般にSubはコマンドには逆らえないため、心無いDomにコマンドを無理強いされ、挙句にドロップしてしまうSubは後を絶たない。
αやDomは頭も良くて力が強くカリスマもそれに伴う人脈もある社会的に恵まれた地位のある者が多い。ΩにもSubにもそれがない者が多い上に、上記のリスクを抱えている。発情、フェロモン、不安症、それぞれに抑制剤が作られているが、それでも完全ではない。だから彼らは社会的弱者とされている。未だに根絶は出来ていないが、昔は今より差別も酷かったらしい。そして、ΩとSub両方のリスクを抱えているΩSubは、「最弱の希少性混在者」と陰で言われているくらいなのだ。
実際、ΩSubの死亡率は高い。Ωとして無理やり発情させられたり、Subとしてコマンドで従わされたりすればΩSubにはほぼなすすべがない。そのため未だに闇取引されるΩSubもいるくらいだ。
しかし、そういった事件よりも多いのが、発情期中のドロップだ。発情期中はそもそも精神が不安定になりやすい。加えて理性を失う発情期中はまともなプレイが出来るわけもない。それが何日も続くのだから、並のΩSubならドロップ一直線、というわけだ。
そのためΩSubは早急にαDomと番うべきとする風潮もある。これなら発情期中にプレイもできて一石二鳥というわけだ。αもDomも独占欲が強いので、αの番とDomのパートナーが1人のΩSubを共有するのは難しいというのも理由として挙げられる。しかしそもそもαDomはΩSubと同じくらい少ない。そしてαとDomの両性の特徴を兼ね備えるαDomは独占欲も力も非常に強く、一旦ΩSubを囲い込むとほとんど外に出さない者も少なくない。そして蓋を開けてみるとΩSubが虐待を受けていた、あるいは最悪の場合死んでいたなどというケースも多いのである。
そういった事情から、ΩSubはΩの中でも特別に発情期の際の発情自体を抑える薬の服用が許可されている。この薬はΩとしてのホルモンバランスを著しく不安定にする副作用もあるが、それよりもプレイをしてドロップを予防する方が重要であるためである。しかしこの薬にはそれ以上の欠点がある。ΩSub自身の発情は抑えられても、大量に放出されるフェロモンは抑えられないのだ。フェロモンは特にα、時にはβ、稀にΩをも暴走させてしまう。とはいえ強い薬なので、フェロモン抑制剤との併用は厳禁。そのため、薬を飲んでもプレイをするDomは厳選された者達でなくてはならない。
もちろん発情期でなくとも、事情があって外に出られないΩSubはいる。かつては公務員として、政府に特別に認可され、フェロモン感知抑制剤を服用したβDomやΩDomが彼らのもとに派遣されていた。今は民営化されたが、当時と同じく国家試験と検査に合格しなければこの職業に就くことは出来ない。神原はこの資格を持つ数少ないDomの1人なのである。
神原 蓮華がいつも通りの言葉をかけると、目の前の人物は何回か瞬きをした後、我に返ったようだった。
「どう?体調大丈夫そ?」
「はい、おかげさまで」
その言葉の通り彼の顔は晴れやかだ。最初に会った時よりはだいぶマシになった。これなら延長は必要ないなと神原は判断する。
「じゃあ俺はこれで。次は来週の同じ時間でいい?」
「はい、よろしくお願いします。レンさん、ありがとうございました!」
この世には3つの性別があり、それぞれ男女性、バース性、ダイナミクス性と呼ばれている。バース性はαとβとΩ、ダイナミクス性は大まかにDomとNormalとSubに分かれている。大抵の人間はβNormalだが、α、Ω、Dom、Subもそれぞれ全人口の1%の割合で存在する。そしてそれらの希少性を併せ持つαDom、αSub、ΩDom、ΩSubも僅かながら存在する。
このうち、ΩSubは特に政府からの手厚い保護を受けている。それはなぜか。
Ωには3ヶ月に1回の「発情期」が存在する。この間Ωは何も出来ずただαを誘うフェロモンを放出し、性欲に支配される。そしてこの間にαがそのΩの項を噛むと彼らは「番」となり、Ωは一生そのαに縛られる。さらにΩには子宮があり、発情期に性交しようものなら避妊しなければほぼ確実に妊娠する。しかもΩの発情はαの発情によっても引き起こされる上、Ωの発情とは違いαの発情はαの意思で起こすこともできる。持つことすら法律で禁じられているが、Ωの発情を誘発する薬、なんていうのもある。
Subには三大欲求の他に「プレイ欲」が存在する。プレイとは、Domの出すコマンドにSubが従うことをいう。満足のいくプレイをするとSubはプレイ欲が満たされて心理的充足感を得るが、さもなくば彼らは「不安症」と呼ばれる精神不安定な状態になり、しまいには「ドロップ」といって突然倒れ、廃人になったり時には死んだりしてしまうこともある。そして一般にSubはコマンドには逆らえないため、心無いDomにコマンドを無理強いされ、挙句にドロップしてしまうSubは後を絶たない。
αやDomは頭も良くて力が強くカリスマもそれに伴う人脈もある社会的に恵まれた地位のある者が多い。ΩにもSubにもそれがない者が多い上に、上記のリスクを抱えている。発情、フェロモン、不安症、それぞれに抑制剤が作られているが、それでも完全ではない。だから彼らは社会的弱者とされている。未だに根絶は出来ていないが、昔は今より差別も酷かったらしい。そして、ΩとSub両方のリスクを抱えているΩSubは、「最弱の希少性混在者」と陰で言われているくらいなのだ。
実際、ΩSubの死亡率は高い。Ωとして無理やり発情させられたり、Subとしてコマンドで従わされたりすればΩSubにはほぼなすすべがない。そのため未だに闇取引されるΩSubもいるくらいだ。
しかし、そういった事件よりも多いのが、発情期中のドロップだ。発情期中はそもそも精神が不安定になりやすい。加えて理性を失う発情期中はまともなプレイが出来るわけもない。それが何日も続くのだから、並のΩSubならドロップ一直線、というわけだ。
そのためΩSubは早急にαDomと番うべきとする風潮もある。これなら発情期中にプレイもできて一石二鳥というわけだ。αもDomも独占欲が強いので、αの番とDomのパートナーが1人のΩSubを共有するのは難しいというのも理由として挙げられる。しかしそもそもαDomはΩSubと同じくらい少ない。そしてαとDomの両性の特徴を兼ね備えるαDomは独占欲も力も非常に強く、一旦ΩSubを囲い込むとほとんど外に出さない者も少なくない。そして蓋を開けてみるとΩSubが虐待を受けていた、あるいは最悪の場合死んでいたなどというケースも多いのである。
そういった事情から、ΩSubはΩの中でも特別に発情期の際の発情自体を抑える薬の服用が許可されている。この薬はΩとしてのホルモンバランスを著しく不安定にする副作用もあるが、それよりもプレイをしてドロップを予防する方が重要であるためである。しかしこの薬にはそれ以上の欠点がある。ΩSub自身の発情は抑えられても、大量に放出されるフェロモンは抑えられないのだ。フェロモンは特にα、時にはβ、稀にΩをも暴走させてしまう。とはいえ強い薬なので、フェロモン抑制剤との併用は厳禁。そのため、薬を飲んでもプレイをするDomは厳選された者達でなくてはならない。
もちろん発情期でなくとも、事情があって外に出られないΩSubはいる。かつては公務員として、政府に特別に認可され、フェロモン感知抑制剤を服用したβDomやΩDomが彼らのもとに派遣されていた。今は民営化されたが、当時と同じく国家試験と検査に合格しなければこの職業に就くことは出来ない。神原はこの資格を持つ数少ないDomの1人なのである。
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