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#16 進級
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無事、小説通りにエミリーがマークス様と結ばれそうなため、私は心の底から安堵していた。
「それでねポピー……私、自分が最低な気がしてならないの」
「えっ? ……どうして?」
「マークス様を通じて、私がアルザに抱いていた感情は本当の恋ではなかったと気づいてしまったの。幼い頃から、本当に長い間、私たちはお互いに思い合っていたはずなのに…………最低ね……アルザに申し訳が立たないわ……!」
エミリーの目に少し涙がたまっているように見えた。
「そんなことっ……」
(エミリーがそんなことを思う必要は全くないのに……! 最低なのはアルザ様なのに……!!)
(今こそ言うべきなんじゃないかしら……。アルザ様がどういう人物か、はっきりとエミリーに…………)
私が『エミリー』と言おうとした時、エミリーの口が先に動いた。
「私……今年の夏祭りは行かないことにするわ」
「えっ?」
「今年もアルザと一緒に行く約束をしているのだけど、こんな気持ちのまま一緒には行けないわ。アルザに失礼だもの……」
「エミリー…………。とてもいい決断だと思うわ」
悩んだ末、そう声をかけた。
「ありがとう。ポピーはライム様と行くのよね。楽しんできてね」
「うん……ありがとう……」
結局、私は伝えることができなかった。
エミリーとアルザ様がキスを交わす心配が消えた今、本当のことをエミリーに伝えるべきか判断できなかったのだ。
それでも、エミリーはマークス様との交流を重ねていくうちに、エミリーがアルザ様に抱いていしまっている申し訳なさは消えていくものだと思っていた。
きっと、エミリーの心は幸せに、マークス様一色になっていくと思っていた。
時は流れ、夏休みが明け、私たちは2年生に進級した。
私は夏休みの間に正式にライム様と婚約した。
夏祭りよりも前に婚約を済ませたので、夏祭りでは知り合いとすれ違う度に祝福の言葉をいただき、とても嬉しい気持ちになると同時に照れ臭かった。
クラス分けは小説と同じで私とライム様、エミリー、マークス様がAクラス。
アルザ様はBクラスでベラとオリバー様がCクラスだ。
マークス様は積極的にエミリーに話しかけており、エミリーも嬉しそうに話している。
エミリーはマークス様と話す時とても輝いていて、全身から幸せオーラがにじみ出ている。
アルザ様と話す時とは幸せオーラが段違いのため、やはりエミリーにとって運命の殿方様はマークス様なのだと実感した。
幸せそうなエミリーだが、一緒にいる際、時折どこか暗いような表情になるので私はすごく不安になった。
(何か悩んでいるのかしら……大丈夫かしら……)
放課後、エミリーの部活がない日だったため、私の部屋でお話することにした。
「エミリー……何か悩んでいることはない?」
私がそう言うと、エミリーはえへへ、と寂しそうに微笑んだ。
「私……やっぱりアルザと夏祭りに行こうと思っていたの」
「……えっ!?」
「アルザにどのように話して断ればいいかわからなかったの……。だけどね、夏祭りが近づくにつれて心がつらくなってきて……前日に体調を崩しちゃったの……」
「!! そうだったの……」
(知らなかった……)
「だから結局夏祭りには行けなかったの。自分の体調に助けられちゃったわ。熱が出た時とても安心してしまったの。だけど余計にアルザに迷惑をかけてしまって……」
エミリーの目線が下がる。
「エミリー……体調はもう大丈夫?」
「うん。2、3日で元気になったから心配ないわ。ありがとう」
私は深く後悔した。
(ちゃんと伝えておくべきだった……。エミリーに傷ついてほしくなかったのに、エミリーに辛い思いをさせてしまっている……最低だわ……)
エミリーを寮の前まで見送った後、私は急いでイースト棟へ向かった。
(まだアルザ様があの女性と会っているかはわからないけど……もう一度確かめなくちゃ……)
私はドアプレートのない部屋の前に立ち、ドアノブを握った。
(前みたいに偶然居合わせるなんてことできないかもしれないけど……)
ドアノブを回した時、すぐそばまで誰かが近づいて来ていたことに気づかなかった。
「あなた、そこで何をしようとしているの?」
突然の声に驚き、ゆっくり振り向くと……。
「!!」
「それでねポピー……私、自分が最低な気がしてならないの」
「えっ? ……どうして?」
「マークス様を通じて、私がアルザに抱いていた感情は本当の恋ではなかったと気づいてしまったの。幼い頃から、本当に長い間、私たちはお互いに思い合っていたはずなのに…………最低ね……アルザに申し訳が立たないわ……!」
エミリーの目に少し涙がたまっているように見えた。
「そんなことっ……」
(エミリーがそんなことを思う必要は全くないのに……! 最低なのはアルザ様なのに……!!)
(今こそ言うべきなんじゃないかしら……。アルザ様がどういう人物か、はっきりとエミリーに…………)
私が『エミリー』と言おうとした時、エミリーの口が先に動いた。
「私……今年の夏祭りは行かないことにするわ」
「えっ?」
「今年もアルザと一緒に行く約束をしているのだけど、こんな気持ちのまま一緒には行けないわ。アルザに失礼だもの……」
「エミリー…………。とてもいい決断だと思うわ」
悩んだ末、そう声をかけた。
「ありがとう。ポピーはライム様と行くのよね。楽しんできてね」
「うん……ありがとう……」
結局、私は伝えることができなかった。
エミリーとアルザ様がキスを交わす心配が消えた今、本当のことをエミリーに伝えるべきか判断できなかったのだ。
それでも、エミリーはマークス様との交流を重ねていくうちに、エミリーがアルザ様に抱いていしまっている申し訳なさは消えていくものだと思っていた。
きっと、エミリーの心は幸せに、マークス様一色になっていくと思っていた。
時は流れ、夏休みが明け、私たちは2年生に進級した。
私は夏休みの間に正式にライム様と婚約した。
夏祭りよりも前に婚約を済ませたので、夏祭りでは知り合いとすれ違う度に祝福の言葉をいただき、とても嬉しい気持ちになると同時に照れ臭かった。
クラス分けは小説と同じで私とライム様、エミリー、マークス様がAクラス。
アルザ様はBクラスでベラとオリバー様がCクラスだ。
マークス様は積極的にエミリーに話しかけており、エミリーも嬉しそうに話している。
エミリーはマークス様と話す時とても輝いていて、全身から幸せオーラがにじみ出ている。
アルザ様と話す時とは幸せオーラが段違いのため、やはりエミリーにとって運命の殿方様はマークス様なのだと実感した。
幸せそうなエミリーだが、一緒にいる際、時折どこか暗いような表情になるので私はすごく不安になった。
(何か悩んでいるのかしら……大丈夫かしら……)
放課後、エミリーの部活がない日だったため、私の部屋でお話することにした。
「エミリー……何か悩んでいることはない?」
私がそう言うと、エミリーはえへへ、と寂しそうに微笑んだ。
「私……やっぱりアルザと夏祭りに行こうと思っていたの」
「……えっ!?」
「アルザにどのように話して断ればいいかわからなかったの……。だけどね、夏祭りが近づくにつれて心がつらくなってきて……前日に体調を崩しちゃったの……」
「!! そうだったの……」
(知らなかった……)
「だから結局夏祭りには行けなかったの。自分の体調に助けられちゃったわ。熱が出た時とても安心してしまったの。だけど余計にアルザに迷惑をかけてしまって……」
エミリーの目線が下がる。
「エミリー……体調はもう大丈夫?」
「うん。2、3日で元気になったから心配ないわ。ありがとう」
私は深く後悔した。
(ちゃんと伝えておくべきだった……。エミリーに傷ついてほしくなかったのに、エミリーに辛い思いをさせてしまっている……最低だわ……)
エミリーを寮の前まで見送った後、私は急いでイースト棟へ向かった。
(まだアルザ様があの女性と会っているかはわからないけど……もう一度確かめなくちゃ……)
私はドアプレートのない部屋の前に立ち、ドアノブを握った。
(前みたいに偶然居合わせるなんてことできないかもしれないけど……)
ドアノブを回した時、すぐそばまで誰かが近づいて来ていたことに気づかなかった。
「あなた、そこで何をしようとしているの?」
突然の声に驚き、ゆっくり振り向くと……。
「!!」
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