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#7 マークス

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 ダニール様が去り、マークス様と二人になった私はあることに気づいた。

(マークス様は私のことを『ポピー嬢』とお呼びしていたわよね……つまり私がマークス様とお話するのは今日が初めてではないということ……!?)

「あのっ……マークス様、助けてくださり誠にありがとうございました」

「ううん。職員室へ行こうとしたら二人の姿が見えたんだ。ポピー嬢の顔がとても強張っていて、相手はダニール先輩だ。すぐにピンと来たよ」

「そうだったんですね。本当に助かりました……!」

 いやいや、と小さく手を振るマークス様。
 彼の立ち振る舞いからとても真面目で誠実な印象を受ける。

(どうしましょう……エミリーがマークス様をお選びになった理由が、少しわかった気がするわ…………)

(……はっ! 私ったら何を……! アルザ様だってお優しくてエミリーのことが大好きな素敵な殿方様じゃない! 幼い頃から育んできた信頼関係があるもの。そう簡単にエミリーの心が動くはずないわ……!)

 私があれこれ考えていると、マークス様は胸に手を当て姿勢を正した。

「ポピー嬢、挨拶が遅れて申し訳ない。僕はDクラスのマークスだ。初めまして」

「!? 初めまして……Aクラスのポピーでございます」

(初めましてでしたの!?)

「どうして僕があなたのことを知っているのか……気になるよね……」

 マークス様は少し考えるような顔をしてから再び口を開いた。

「次の授業までまだ時間がある。これから場所を変えて少しお話できないかな?」

「えっ……?」

 マークス様に連れられ、私は向かいのイースト棟に渡った。
 案内された部屋のドアには『数学準備室』と書かれてある。

(数学準備室!?)

 戸惑いつつ中に入る。

(数学準備室って……ポピーがライム様と思いを通じ合わせた後、二人で会うようになる部屋よね!? どうしてそのような特別な部屋で、ライム様ではなくマークス様と一緒に過ごす展開になっているのかしら……)

(ま まさかっ……! マークス様はポピーのことが…………お 落ち着くのよポピー! そんなわけないじゃない! マークス様はエミリーにアプローチするのよ!?)

(……でもマークス様がエミリーにアプローチするのは2年生で同じクラスになってからだわ……ひょっとしてそれまではポピーに恋を……!?)

「ポピー嬢、今から話すことは内密にしてほしい。お願いできるかな?」

「! はい……もちろんでございますわ……」

(マ マークス様は一体何を伝えようとなさっているのかしらっ……まさか……ポピーへの……ポピーへの愛の……)


「僕は、中等部の頃からエミリー嬢のことが好きなんだ」

「………………」

 あまりに唐突で、私はパチパチと瞬きをした。

「中等部2年生の頃、彼女と同じクラスになって……彼女の明るい笑顔が眩しくて、気づけばいつも目で追っていたんだ……」

「……そうだったのですね!!!」

 はにかみながら告白するマークス様。
 その様子に、私の心は何かに鷲掴みされたよう。
 ドキドキワクワクしている、という表現がぴったりかもしれない。

(マークス様がすでにエミリーに思いを寄せていただなんて……そうだったのね!! 『気づけば目で追っていたんだ……』 きゃぁああっ!!! なんて青春なのかしら!!!)

「ポピー嬢も知っての通り、彼女のそばにはいつも、幼なじみのアルザ殿がいる……。二人を見ていれば、彼女が彼のことをどう思っているかは明白にわかる」

「……はい……」

「二人はまだ婚約していないのだから、僕が彼女にアプローチしても問題はないのだけど、僕は臆病者らしい。こわくて積極的になれないんだ……」

 マークス様の哀しげな表情を見ると胸がきゅっと苦しくなった。
 何か声をかけたかったが相応しい言葉が見つからず、静かに相槌を打つことしかできなかった。

 マークス様の恋事情を聞いた後、少しの世間話を交わし、私たちは数学準備室を後にした。

 当初はエミリーがアルザ様と結ばれることを願っていたのに、マークス様と出会って気持ちが大きく揺らいだ。

(どちらを応援すればいいのかしら……。いずれマークス様はエミリーと結ばれるのだけど、それまでにエミリーはアルザ様とファーストキスを交わすのよね……。なんだか複雑だわ……)

(……あら? 私……エミリーがアルザ様とキスするのを残念に思っているの……!? えっ……私っ……)

(こ これでいいのかしら……!? 物語として、親友であるポピーはどう振る舞うべきなのかしら!?)

「んん~~~~…………」

 しばらく頭を抱えた後、私は吹っ切った。

(シャルラーナ先輩! 私はポピーとして、この物語を存分に楽しませていただきますわ! そうですの……マークス様の恋を応援いたしますわ!!)
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