隠された第四皇女

山田ランチ

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5 すれ違いの始まり

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「何を考えているのですか! 兄上!」
「落ち着いてアレウス!」

 エミル王国から戻ったルシャードを待っていたのは弟の拳だった。壁にぶつかって止まったルシャードは、口に溜まった血を吐き出した。

「気は済んだか?」
「いいえまだです。ちゃんと私とジェニーが納得出来る回答をお願いします。そうでなければ今後兄上の元にはいられません!」
「なるほど? 次期皇帝に反旗を翻すという訳だな。帝位継承権を放棄していたとしても、それなら敵として容赦しないぞ」
「兄上! 話を逸らさずにちゃんと理由を話して下さい。なぜ突然連れ帰った平民を後宮に入れたりしたのですか!」
「だから言ったはずだ。気に入ったからだと。そうだアレウス、お前がジェニーを娶れ」
「……そんな簡単なものだったのですか? ジェニーをそんな風に簡単に手放すおつもりですか!」
「アレウスもう止めて。ルシャが決めた事なんだからもういいの」
「ほら、ジェニーの方がよっぽど聞き分けがいいじゃないか。お前も少しは見習え」

 アレウスは思い切り壁を拳で叩きつけると部屋を出て行った。

「今のはルシャが悪いわ。アレウスが誰よりもあなたを大事に思っているのは知っているでしょう?」
「ジェニー、あれは頭の固い男だ。苦労するぞ」

 いたずらっぽくそう言うと、ジェニーは困ったように笑った。

「私からしたら二人とも頭の固い困った幼馴染よ」

 するりと長い髪を揺らして部屋を出て行った扉から、ルシャードはいつまでも視線を外す事が出来ないでいた。




「アレウス! 待ちなさい! アレウス!」

 廊下で声を張り上げたジェニーに驚いた使用人達が僅かに顔を向けたが、先を歩いていた第二皇子を見るとそのまま通り過ぎていく。当のアレウスは足を止めたものの振り返る事はなかった。

「そんなに怒らなくても大丈夫よ」
「なぜ?! 君は昔から兄上に嫁ぐと言っていたじゃないか! それをあっさり諦められるのか!」
「諦めるも何もルシャが決めた事だもの。それにその結婚も……」
「だから私との結婚も受け入れるのか」

 振り返りはしないアレウスの背を見ながら、ジェニーは頬を赤らめて頷いた。

「アレウスは私との結婚は嫌? お父様も二つ返事で承諾するはずよ」
「なんでも兄上の言いなりなんだな」
「なんて? アレウスもう一度……」

 しかしアレウスはそのまま大股で先に行ってしまった。

「……私はあなたの側にいられるなら何もいらないのに」

 ジェニーの呟きはそのまま風に攫われて消えた。
 そして程なくしてルシャードとアルバートは戦争に趣き、敵国と繋がっていた貴族達は勝利を手にして凱旋したルシャード達の手によって粛清された。
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