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6 王女の役割

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 女王の間にいたのは、女王とシルヴィオだけだった。二人は一緒に入ってきたサンドラとジュールを見て、方や微笑み、方や睨みつけるという真逆の反応を示してきた。
 まだ夜が開けたばかりだというのに、シルヴィオの身なりはしっかりとしている。それに違和感を感じた。

「お待たせ致しました。ジュールも同席して宜しいのでしょうか?」
「構わない、その為に二人共呼んだのだ。それで、昨晩は最後までしたのか?」

 突然の質問に呆然としていると、シルヴィオが大きな咳払いをした。

「陛下! もう少し聞き方と言うものがあるでしょう」
「重要な事だからはっきりと聞かないと駄目なのだ。どうなんだ、ジュール」
「何かあったのですか?」
「質問をしているのは私なのだけれどね」
「最後まではしておりませんのでご安心下さい」

 答えたのはジュールだった。しかし今度は反対の反応が返ってくる。シルヴィオが喜び、女王の方があからさまに落胆していた。

「なぜしなかった? 私の話を聞いていなかったのか?」

 そう言う声は怒りが滲み出ている。何がそんなにいけない事なのか分からずに、サンドラの心にも苛立ちが起こり始めていた。

「薬を飲まなくても発作は治まったわ。ちゃんとジュールが協力してくれているもの」
「何も分かっていないようだな。もし今後沢山の男達がいるところで発作が起きたらどうするつもりだ? その時にジュールが側にいなかったら? 一刻も早く発作を安定させる必要があるのだ!」
「でも、ジュールに迷惑を掛ける訳にはいかないわ」
「期間を設けよう。次の発作の時に二人とも腹を括らないのであれば他の男性を充てがうからそのつもりでいるように」
「そのように無理やりにしてはサンドラ様がお可哀そうです!」
「それならお前が相手をするのだ。中途半端な気休めではなくな」

 ジュールは言葉を返せずにいると、女王はフッと笑った。

「もしかして元婚約者に遠慮しているのか?」

 思いがけない言葉に頭が真っ白になる。女王はそんなサンドラの反応も見越していたかのように続けた。

「ジュールは今年で二十六だったな。サンドラ、いい年の侯爵家の長男が結婚せず婚約者もいないのはおかしいとは思わなかったか?」

 確かに言われてみればそうだ。ジュールはもう立派な大人で、常に騎士の格好をしているからあまり意識した事はなかったが侯爵家を継ぐ地位にいる人。結婚していてもおかしくないし、婚約者がいないのはむしろもっとおかしい。ジュールの顔を見ると、その横顔は初めて見る程に青褪めていた。

「分かりました。次の発作にジュールと最後まで出来なければ他の者に頼みます」
「サンドラ、腹を括れ。私の跡を継ぎ女王になるはお前だ。そこに個人の感情は必要ない」

 その言葉は淡々としていた。母親としての言葉ではなく、女王としての言葉。きっとジュールと最後まで出来なければ必ず他の男性と一夜と共にしなくてはならなくなる。その未来はもうすぐそこまで来ていた。




「サンドラ様! サンドラ様お待ち下さい!」

 女王の間を出てから自然と足早になっていた後ろをジュールが追いかけてくる。足の長さは歴然で、すぐに追いつかれてしまったが、ジュールが無理に止めてくるような事はなかった。その代わり早足でどんどん歩くと、痺れを切らしたようにジュールが立ち止まった。

「サンドラ様! お聞きになりたい事があるのなら何でもお話致します」

 廊下で声を上げたジュールは周りの事などまるで気にしていないようだった。

「全て話すの? 何でも?」
「サンドラ様がお知りになりたい事はお話致します」

 ジュールからは何かの決意を感じる。でもサンドラには聞く事が出来なかった。母親の言った“元婚約者”という言葉の意味を。過去に婚約者がいたという事であり、ジュールも結婚を望んでいたのかもしれない。そして感じていた心の距離。だからなのかと、肌と肌を触れ合わせていても遠く感じたのはきっとジュールの心がサンドラになかったからなのかもしれない。

――まだその元婚約者を想っているの?

 そう聞きたい言葉を飲み込んで、蓋をした。答えを受け止める勇気は持ち合わせていない。

「あなたこそ話したい事はないの?」
「……ッ」
「私から聞きたい事は何もないわ。あなたも無理をしてこんな事続けなくてもいいのよ。どちらにしても次の発作では他の男性が準備されるみたいだからあなたはもういいわ」
「サンドラ様!」
「今日までご苦労様。こんな仕事をさせて悪かったわね」

 信じられない言葉が口をついて出てくる。何一つ解決してはいない。それでも今はジュールの顔を見るのが辛かった。

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