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ファミリーレストランの一角でベビーフェイスは、要件のある男を見つけた。
こういった店で食事を取るのは、あの男の職業からしてみると、似合っているのかどうか判断が付き難い。
そもそも食事という生活感を彼から想像することがとても困難なのだ。
ベビーフェイスは彼の前の席に腰掛た。
「ここ、良いですか?」
座ってから訊ねるのは相手を軽んじているように思えるが、ベビーフェイスにそんな意図はなく、ただ軽率なだけだ。
だからコードネームの由来である童顔と重なって、相手の怒りや嗜虐心を誘発してしまう。本人に自覚はないが。
しかし目の前にいる男は、なにも答えなかった。
だがそれは口も利きたくないという意思を行動に表したわけではなく、ただ面倒だから答えなかったのだろう。
基本的に彼は他人に無関心なのだ。
彼は昼食をすでに食べ終わっており、テーブルにはなにも残っていない。
食事内容は不明、想像するのもとてつもなく困難だという気がする。
彼は新聞を熱心に読んでいる。世間情勢に関心を持つというのも、随分と意外な感じがする。
だが紙面のタイトルを呼んで納得する。やはり自分の仕事の結果が、その後どういう影響を与えるか気にするものなのだ。
「派手にやりましたね」
〈市街地にて連続ガス爆発!? 採用ガス管の欠点が浮き彫りに!?
金坂市にて広範囲にわたりガス爆発が起こるという惨事が発生した。国道線沿いに渡って起きたこの惨事に奇跡的に死者はなく、しかし重軽症者合わせて百名近くに及んだ。
この事故に対し県庁では正式採用されたガス管になんらかの欠陥があり、また同時期に工事が行われていることから、それが同じ日に連続的に起きた原因ではないかと表明。現在続くガス爆発対策にガス管の徹底検査を行う予定。
しかしそれで住民の不安は取り除かれず、ガス管を全て交換すべきとの声が上がっている。
〈金坂大学にて違法実験!
市街地連続爆発は金坂大学研究所でも発生。救助に駆けつけた消防士、救急隊員らは普段は一般立ち入り禁止となっている実験施設内部に立ち入ることとなった。そこで隔離監禁されている少年少女らが発見。保護された彼らの証言によって、同実験所にて人体実験が行われている疑いが上がった。同大学長氷川結城はこれを、研究所で行われていたのは医療行為であり、彼らは患者であるとコメントしているが、警察は引き続き追及していく方針。なお子供たちは養護施設で保護されるもよう。
〈人気アイドル交際発覚!?
ミリオン№入りを果たした新人歌手浜田伊織が……〉
沈黙する彼に、ベビーフェイスは安心を与える科白を継げる。
「別に責任を追求しているわけではありません」
彼はそこでようやく新聞をたたみ、ベビーフェイスの言葉に答えた。
「彼らがあれほど見境なく動くとは思わなかった。まるで市街戦だったよ」
ベビーフェイスは上からの託けを伝える。
「ああ、会長から伝言があるんです。良くやった、と。僕も本当に凄いと思いますよ、あんな連中を相手に仕事を達成したんですから」
この言葉は本心からだった。
そして実質的に、彼が組織最強の兵士であることは、誰も疑いようもない事実であり、ベビーフェイスは彼の殺害方法を考えることを止めた。
褒められたことに喜ぶ様子も、つまらない謝辞に苛立つ様子も見せない彼は、ふと思い出したように質問してきた。
「あの二人は、今はどうしている?」
「あの二人? ああ、あの子達ですね。大丈夫です、ちゃんと向こうの養護施設に渡りました。元気にやっているみたいですよ」
「そうか」
感想を言わず、表情を変えないまま、男は聞こえたことだけを伝えた。
「気になりますか?」
ベビーフェイスのからかうような言葉に、男は答えず再び沈黙に入る。
「あ、そうそう。後もう一つ。氷川結城ですが、昨日亡くなられたそうです」
金坂大学大学長の氷川結城は昨日交通事故で死亡した。
交通事故となっているが、本当に事故である可能性は低い。
大失態を演じてしまった彼を、上層部が粛清したというのが真相だろう。
もっともその事実が隠蔽されたからと言って、誰かが困るわけではない。
事実が公表されても、なんの意味もない。
少なくとも、二人には。
「ま、どうでもいいですね」
話を切り上げてベビーフェイスは手にした書類在中の印が記された封筒を差し出した。
「書類をどうぞ。次の仕事が入りました」
男は底冷えするような冷たい視線を向け、書類を受け取った。
終
ファミリーレストランの一角でベビーフェイスは、要件のある男を見つけた。
こういった店で食事を取るのは、あの男の職業からしてみると、似合っているのかどうか判断が付き難い。
そもそも食事という生活感を彼から想像することがとても困難なのだ。
ベビーフェイスは彼の前の席に腰掛た。
「ここ、良いですか?」
座ってから訊ねるのは相手を軽んじているように思えるが、ベビーフェイスにそんな意図はなく、ただ軽率なだけだ。
だからコードネームの由来である童顔と重なって、相手の怒りや嗜虐心を誘発してしまう。本人に自覚はないが。
しかし目の前にいる男は、なにも答えなかった。
だがそれは口も利きたくないという意思を行動に表したわけではなく、ただ面倒だから答えなかったのだろう。
基本的に彼は他人に無関心なのだ。
彼は昼食をすでに食べ終わっており、テーブルにはなにも残っていない。
食事内容は不明、想像するのもとてつもなく困難だという気がする。
彼は新聞を熱心に読んでいる。世間情勢に関心を持つというのも、随分と意外な感じがする。
だが紙面のタイトルを呼んで納得する。やはり自分の仕事の結果が、その後どういう影響を与えるか気にするものなのだ。
「派手にやりましたね」
〈市街地にて連続ガス爆発!? 採用ガス管の欠点が浮き彫りに!?
金坂市にて広範囲にわたりガス爆発が起こるという惨事が発生した。国道線沿いに渡って起きたこの惨事に奇跡的に死者はなく、しかし重軽症者合わせて百名近くに及んだ。
この事故に対し県庁では正式採用されたガス管になんらかの欠陥があり、また同時期に工事が行われていることから、それが同じ日に連続的に起きた原因ではないかと表明。現在続くガス爆発対策にガス管の徹底検査を行う予定。
しかしそれで住民の不安は取り除かれず、ガス管を全て交換すべきとの声が上がっている。
〈金坂大学にて違法実験!
市街地連続爆発は金坂大学研究所でも発生。救助に駆けつけた消防士、救急隊員らは普段は一般立ち入り禁止となっている実験施設内部に立ち入ることとなった。そこで隔離監禁されている少年少女らが発見。保護された彼らの証言によって、同実験所にて人体実験が行われている疑いが上がった。同大学長氷川結城はこれを、研究所で行われていたのは医療行為であり、彼らは患者であるとコメントしているが、警察は引き続き追及していく方針。なお子供たちは養護施設で保護されるもよう。
〈人気アイドル交際発覚!?
ミリオン№入りを果たした新人歌手浜田伊織が……〉
沈黙する彼に、ベビーフェイスは安心を与える科白を継げる。
「別に責任を追求しているわけではありません」
彼はそこでようやく新聞をたたみ、ベビーフェイスの言葉に答えた。
「彼らがあれほど見境なく動くとは思わなかった。まるで市街戦だったよ」
ベビーフェイスは上からの託けを伝える。
「ああ、会長から伝言があるんです。良くやった、と。僕も本当に凄いと思いますよ、あんな連中を相手に仕事を達成したんですから」
この言葉は本心からだった。
そして実質的に、彼が組織最強の兵士であることは、誰も疑いようもない事実であり、ベビーフェイスは彼の殺害方法を考えることを止めた。
褒められたことに喜ぶ様子も、つまらない謝辞に苛立つ様子も見せない彼は、ふと思い出したように質問してきた。
「あの二人は、今はどうしている?」
「あの二人? ああ、あの子達ですね。大丈夫です、ちゃんと向こうの養護施設に渡りました。元気にやっているみたいですよ」
「そうか」
感想を言わず、表情を変えないまま、男は聞こえたことだけを伝えた。
「気になりますか?」
ベビーフェイスのからかうような言葉に、男は答えず再び沈黙に入る。
「あ、そうそう。後もう一つ。氷川結城ですが、昨日亡くなられたそうです」
金坂大学大学長の氷川結城は昨日交通事故で死亡した。
交通事故となっているが、本当に事故である可能性は低い。
大失態を演じてしまった彼を、上層部が粛清したというのが真相だろう。
もっともその事実が隠蔽されたからと言って、誰かが困るわけではない。
事実が公表されても、なんの意味もない。
少なくとも、二人には。
「ま、どうでもいいですね」
話を切り上げてベビーフェイスは手にした書類在中の印が記された封筒を差し出した。
「書類をどうぞ。次の仕事が入りました」
男は底冷えするような冷たい視線を向け、書類を受け取った。
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