ヒットマン VS サイキッカーズ

神泉灯

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am03:20~

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   am03:20

 救急隊員は出動命令が出されてから数分でLシックに到着した。
 同時に出動した消防班が消火活動に当たっているが、幸い火事は大火に発展しないようだ。
 深夜だというのにショッピングモール周辺には野次馬が集まり始め、もし怪我人が発見され救急病院に運ぶことになったさい、混雑で余計な時間を労する可能性がある。
 野次馬を近寄らせないよう、整理に当たろうとした時、消防員から救急隊員を呼ぶ声がした。
「おーい、こっちだ。怪我人がいる」
 一番近くだったので救急隊員は即座にその場へ走った。
 消防員と一緒に男性が一人、子供が二人いる。ショッピングモールから出てきたところを保護したらしい。
「どうしました?」
 救命士の質問に、男性は抱えている少年を差し出すように答える。
「わからない。ガスでも吸い込んだのかもしれないが、様子がおかしい」
 答える男の抱える少年の様態を見る。
 華奢な体を震わせる少年は、力なく口から涎を垂らし、ガス中毒の症状に似ていないこともないが、寧ろ麻薬の禁断症状のようだ。
 どちらにせよ病院に連れて行く必要があるだろう。
「とにかく救急車へ」
 救命士は救急車へ三人を連れて行き、全員乗車したのを確認し、運転手は発車した。
 救命士は手早く診断する。瞳孔反応正常、刺激反応正常。喉奥異常なし。脈拍は高め。
 体温は38度近くまで上がっている。
 軽度の脱水症状も起きているようだが、これは激しい発汗のためだろう。
「稲垣病院へ連絡。なんらかの中毒症状を起こしている」
「ガスか? 一酸化炭素か?」
 救急隊員は少し小声で伝えた。
「わからない。麻薬に似ている」
「わかった」
 本部への通達を終えて、少年の様態に集中する。
 だが救急車では治療範囲は極めて限定されており、実質この症状ではなにもできない。
 少年の手を姉らしき少女が握っている。
 その頑なさは、まるで手を離せば少年が向こう側の世界に行ってしまうかのようだ。
 対照的に男のほうは不自然なまでに冷静だ。
 身内なら動揺するものだが。
 例え感情を表に表さないのだとしても、救急隊員は安否を気遣う家族というものをたくさん見てきており、その内面を感じ取っていた。
 だがこの男はそういった感情が、少年に対して全くといっていいほど持っていないような雰囲気がする。
 それになぜあんな時間にショッピングモールにいたのだろう。
 怪訝に思った救急隊員はそれとなく質問する。
「あなたはこの子達の父親ですか?」
「ええ、そうです。それより様態はどうですか?」
 冷淡に答え、冷淡に質問してくる様子に、本当に父なのだろうかという疑念が大きくなる。
「一酸化炭素やガスによる中毒ではないようですが、病院で検査しなければ正確な診断はできません」
「なるほど。それで救急病院へは後どれくらいで到着しますか?」
 これには運転をしている救命士が何気なく答えた。
「後五分ぐらいで着きます」


   am03:30

 稲垣救急病院に到着した春日歩を、医師すぐに診断する。
 外傷はないが、衰弱している。
 症状の直接の原因は不明だが、薬物の副作用に類似している。
 なんらかのウィルス感染発病の可能性も推測される。
 とにかく血液検査を行わければわからず、検査結果が出るまでの応急処置として栄養剤の点滴を施す。
 父親らしき男と妹は診察室の傍らのベンチに腰掛けている。
 離れたくないといったので、簡単な診察が終ったあと許可をだした。
 それに傍にいる程度で様態が悪化するとは考えにくい。
 担当医師はすでに老域に達し、退職も間際に迫っているが、同時に現場で人の命を救うことに全人生を賭けた者の、温和だが油断のない鋭い観察眼を持っていた。
 少年は火災に伴う毒素を吸引したのではなく、薬物による症状、救急隊員が報告したように確かに麻薬に似たものだと判断した。
 同行者の素性が不確かなことも問題だ。
 父親といっていたが、おそらく違う。
 しかし子供に薬物を投与したのは彼ではないと思われるが、事情は知っているだろう。
 だが同行者の男はなにも伝えないことから、彼自身なんらかの形で関係しており、追求すれば犯罪と遠からず縁があることもわかるだろう。
 しかし、今は子供を優先だ。
 男については警察に任せればいい。
 こういった類の患者を扱った経験が何度もある医者は、不審を抱いていることを表さず、手際よく一通りの処置を済ますと、その後の行動をそれとなく制限する。
「ここでしばらく安静させてください。検査結果が出次第呼びますので、なにかあればナースコールを」
 一礼する男に会釈を返して、医師は治療室を退室し、そのまま事務室へ向かうと自ら警察に連絡を入れた。


   am03:35

 ショッピングモールから空間転移でライトセダンに移動し、街へ駆り出して喧騒から離れた仲峰司は、荒城啓次から報告を受けた。
「稲垣救急病院?」
「そう、救急病院に三人とも到着してから動いていないみたいなんだ。多分Lシックに集まってた救急車に乗ったんだと思うよ」
 それはわかる。
 問題はなぜ救急車を強奪せずにそのまま病院に行き動かないのか。
 可能性は一つしかないが。
「負傷しているのか」
「だろうね。二人のほうか、強奪した人のほうかは判らないけど、それで治療が必要になったんだと思う」
「ならしばらく動けないな」
 仲峰司は稲垣救急病院に向けてハンドルを切った。
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