110 / 168
110・推し
しおりを挟む
四連休 初日と言うことで、新幹線内は旅行客で満席だった。
事前に席の予約を取っておいて良かった。
俺達は荷物を上に載せて、それぞれ席に座る。
宮は、
「新幹線に乗るのは久し振り」
眞鳥さんも、
「私もです。小学三年の家族旅行以来ですね」
三バカトリオも、
「俺も小学生の時以来だな」
「拙者もでござる」
「僕もだよ」
似たような発言。
しかしセルニアが、
「わたくしは新幹線に乗るのは初めてですわ。だからドキドキしていますの」
意外だった。
「今まで新幹線に乗ったことがないの?」
「はい。移動は、車以外は飛行機やヘリでしたから」
「言われてみれば、そう言う乗り物を使うと、逆に新幹線は乗る機会がないのか」
湖瑠璃ちゃんは、
「私はありますよ。十回は乗っていますね」
「湖瑠璃ちゃんはあるの? どうして?」
「一人旅行で。昔は一人旅をよくしていましたから」
そういえば、湖瑠璃ちゃん昔は男の子みたいにやんちゃだったっけ。
そんな会話をしていると、車内アナウンスが流れた。
「これより、発車いたします。お気を付けくださいませ」
三人娘は、温泉地の美味しいお食事処の話で盛り上がっていた。
「手打ちそばは外せないよね」
「団子の美味しお茶所もあるよ」
「山の幸の料理店も素敵ですわ」
三バカトリオは、温泉娘のトークで盛り上がっていた。
「温泉に浸かる美女のきめ細かい白い肌。たまんねえぜ」
「愛らしい娘たちが温泉で喜ぶ姿。素晴らしいでござる」
「さくらちゃんの温泉回で、あかねちゃんと たかねお嬢さまが お酒に酔っ払って……」
みんな そんな話しをしている中、湖瑠璃ちゃんが小声で話しかけてきた。
「お兄さま、今回の温泉はチャンスだと言うことを理解されていますか」
「もちろん理解している。完璧にだ。セルニアと急接近すると言うことだろう」
「わかっているならよろしいですけれど」
「しかし、しかしだ。これだけ邪魔者がいる中で、進展することはまず考えられないのだが。ここはおとなしく、みんなとの思い出を作ることに集中した方が、むしろセルニアと仲良くなるのではないかと思う所存」
「消極的ですね。もっとガツガツ行かないと。例えみんなに見られていても、大人の階段を上るくらいの気概を見せてください」
「いや、前から言ってるけど、人に見られて喜ぶ趣味ないから」
「お兄さまのへたれ」
俺達はそんな話をしていると、乗換駅に到着。
新幹線を降りてローカル線に乗る。
初めての駅で勝手が分からず、危うく乗り遅れるところだったが、ギリギリセーフだった。
みんな席について一息吐く。
宮が、
「あとは終点まで一直線だから、のんびりしていよう」
「はーい、わかりましたわ」
セルニアが楽しそう。
「セルニア、ホントに楽しそうだな」
「ええ、わたくし、クラスのみんなとこうして旅行をするのは初めてですので。
小学校の頃は習い事やピアノの稽古で忙しかったですし、中学校の時は、例の一件でみんなとは距離感がありましたから」
そうか。
セルニアは、こうやってクラスメイトと一緒にこういうことをするのは初めてなのか。
だから浮かれる気持ちを抑えられないのだろう。
五十分ほど揺れて、五つの目の駅で停車した。
時間調整の関係で五分ほど待機するそうだ。
宮が、
「早く出発しないかなー。後一駅で到着するのにー」
眞鳥さんが宥める。
「まあまあ。こういうのんびりしているところも、旅行の醍醐味ですよ」
セルニアも、
「スローライフというものですわね」
後ろの席では三バカトリオが浴衣美人について語っていた。
俺は喉が渇いてきた。
新幹線に乗ってから、一度も水分補給していない。
すぐそこに自動販売機が見えた。
俺は席を立つと、湖瑠璃ちゃんが、
「あら、お兄さま。どちらへ?」
「ちょっと飲み物を買いに」
「なら、私は午後ティーを所望します」
と言ってきた。
続けて五十嵐が、
「俺は綾鷹で」
海翔も、
「レモン水お願い」
さらに、眞鳥さんまで。
「アクエリアスをお願いします」
至極当然のようにぱしりにされてしまった。
「わかったよ、全員分買ってくるよ」
しくしく。
すると、宮が立ち上がった、
「あの、あたしが手伝うよ」
同時にセルニアも立ち上がった。
「あ、わたくしが手伝いますわ」
しかし伊藤 春樹さんが制した。
「いえ、お二人はくつろいでくださいやせ。ここはアッシが若にお付き合いしやす」
「あ、そうですか」
「わかりましたわ」
と二人はおとなしく座った。
「若、では行きやしょう」
「ありがとうございます」
で、自動販売機で全部買う。
持ちきれないので、春樹さんのコートを袋代わりにして電車に戻ろうとしたとき、春樹さんのコートからスマホが落ちた。
「あ、スマホ、落ちましたよ」
俺は拾おうとすると、その待ち受け画面が、最近 流行のアイドルだった。
春樹さんは鋭い眼光で断言した。
「それはアッシのスマホではありやせん」
「いや、完璧に春樹さんのですよね」
「違いやす」
「ポケットから落ちる瞬間をこの目で確かに見ました」
「目の錯覚です」
「推してるんですね。癒やしですか」
伊藤 春樹さんはブワッと滝のような汗が出始めた。
「このことは晶には黙っていただけやせんか。ばれたら殺されやす」
「秘密にしますから、早くスマホをしまってください」
なんかこの人、時々こういう面見せるよな。
「お兄さまー」
「どうしたの、湖瑠璃ちゃん。追加注文とかか」
「違います。急いでください。早くしないと電車が」
その時、電車のドアがプシューと音を立てて閉じた。
ガタンゴトンと電車が出発した。
「お兄さまー、春樹さーん」
湖瑠璃ちゃんが手を振る姿が、どんどん遠ざかっていったのだった。
俺達は置き去りになってしまった。
事前に席の予約を取っておいて良かった。
俺達は荷物を上に載せて、それぞれ席に座る。
宮は、
「新幹線に乗るのは久し振り」
眞鳥さんも、
「私もです。小学三年の家族旅行以来ですね」
三バカトリオも、
「俺も小学生の時以来だな」
「拙者もでござる」
「僕もだよ」
似たような発言。
しかしセルニアが、
「わたくしは新幹線に乗るのは初めてですわ。だからドキドキしていますの」
意外だった。
「今まで新幹線に乗ったことがないの?」
「はい。移動は、車以外は飛行機やヘリでしたから」
「言われてみれば、そう言う乗り物を使うと、逆に新幹線は乗る機会がないのか」
湖瑠璃ちゃんは、
「私はありますよ。十回は乗っていますね」
「湖瑠璃ちゃんはあるの? どうして?」
「一人旅行で。昔は一人旅をよくしていましたから」
そういえば、湖瑠璃ちゃん昔は男の子みたいにやんちゃだったっけ。
そんな会話をしていると、車内アナウンスが流れた。
「これより、発車いたします。お気を付けくださいませ」
三人娘は、温泉地の美味しいお食事処の話で盛り上がっていた。
「手打ちそばは外せないよね」
「団子の美味しお茶所もあるよ」
「山の幸の料理店も素敵ですわ」
三バカトリオは、温泉娘のトークで盛り上がっていた。
「温泉に浸かる美女のきめ細かい白い肌。たまんねえぜ」
「愛らしい娘たちが温泉で喜ぶ姿。素晴らしいでござる」
「さくらちゃんの温泉回で、あかねちゃんと たかねお嬢さまが お酒に酔っ払って……」
みんな そんな話しをしている中、湖瑠璃ちゃんが小声で話しかけてきた。
「お兄さま、今回の温泉はチャンスだと言うことを理解されていますか」
「もちろん理解している。完璧にだ。セルニアと急接近すると言うことだろう」
「わかっているならよろしいですけれど」
「しかし、しかしだ。これだけ邪魔者がいる中で、進展することはまず考えられないのだが。ここはおとなしく、みんなとの思い出を作ることに集中した方が、むしろセルニアと仲良くなるのではないかと思う所存」
「消極的ですね。もっとガツガツ行かないと。例えみんなに見られていても、大人の階段を上るくらいの気概を見せてください」
「いや、前から言ってるけど、人に見られて喜ぶ趣味ないから」
「お兄さまのへたれ」
俺達はそんな話をしていると、乗換駅に到着。
新幹線を降りてローカル線に乗る。
初めての駅で勝手が分からず、危うく乗り遅れるところだったが、ギリギリセーフだった。
みんな席について一息吐く。
宮が、
「あとは終点まで一直線だから、のんびりしていよう」
「はーい、わかりましたわ」
セルニアが楽しそう。
「セルニア、ホントに楽しそうだな」
「ええ、わたくし、クラスのみんなとこうして旅行をするのは初めてですので。
小学校の頃は習い事やピアノの稽古で忙しかったですし、中学校の時は、例の一件でみんなとは距離感がありましたから」
そうか。
セルニアは、こうやってクラスメイトと一緒にこういうことをするのは初めてなのか。
だから浮かれる気持ちを抑えられないのだろう。
五十分ほど揺れて、五つの目の駅で停車した。
時間調整の関係で五分ほど待機するそうだ。
宮が、
「早く出発しないかなー。後一駅で到着するのにー」
眞鳥さんが宥める。
「まあまあ。こういうのんびりしているところも、旅行の醍醐味ですよ」
セルニアも、
「スローライフというものですわね」
後ろの席では三バカトリオが浴衣美人について語っていた。
俺は喉が渇いてきた。
新幹線に乗ってから、一度も水分補給していない。
すぐそこに自動販売機が見えた。
俺は席を立つと、湖瑠璃ちゃんが、
「あら、お兄さま。どちらへ?」
「ちょっと飲み物を買いに」
「なら、私は午後ティーを所望します」
と言ってきた。
続けて五十嵐が、
「俺は綾鷹で」
海翔も、
「レモン水お願い」
さらに、眞鳥さんまで。
「アクエリアスをお願いします」
至極当然のようにぱしりにされてしまった。
「わかったよ、全員分買ってくるよ」
しくしく。
すると、宮が立ち上がった、
「あの、あたしが手伝うよ」
同時にセルニアも立ち上がった。
「あ、わたくしが手伝いますわ」
しかし伊藤 春樹さんが制した。
「いえ、お二人はくつろいでくださいやせ。ここはアッシが若にお付き合いしやす」
「あ、そうですか」
「わかりましたわ」
と二人はおとなしく座った。
「若、では行きやしょう」
「ありがとうございます」
で、自動販売機で全部買う。
持ちきれないので、春樹さんのコートを袋代わりにして電車に戻ろうとしたとき、春樹さんのコートからスマホが落ちた。
「あ、スマホ、落ちましたよ」
俺は拾おうとすると、その待ち受け画面が、最近 流行のアイドルだった。
春樹さんは鋭い眼光で断言した。
「それはアッシのスマホではありやせん」
「いや、完璧に春樹さんのですよね」
「違いやす」
「ポケットから落ちる瞬間をこの目で確かに見ました」
「目の錯覚です」
「推してるんですね。癒やしですか」
伊藤 春樹さんはブワッと滝のような汗が出始めた。
「このことは晶には黙っていただけやせんか。ばれたら殺されやす」
「秘密にしますから、早くスマホをしまってください」
なんかこの人、時々こういう面見せるよな。
「お兄さまー」
「どうしたの、湖瑠璃ちゃん。追加注文とかか」
「違います。急いでください。早くしないと電車が」
その時、電車のドアがプシューと音を立てて閉じた。
ガタンゴトンと電車が出発した。
「お兄さまー、春樹さーん」
湖瑠璃ちゃんが手を振る姿が、どんどん遠ざかっていったのだった。
俺達は置き去りになってしまった。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
私の婚約者は6人目の攻略対象者でした
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。
すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。
そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。
確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。
って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?
ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。
そんなクラウディアが幸せになる話。
※本編完結済※番外編更新中
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
サロン勤めで拘束時間は長く、休みもなかなか取れずに働きに働いた結果。
貯金残高はビックリするほど貯まってたけど、使う時間もないまま転生してた。
そして通勤の電車の中で暇つぶしに、ちょろーっとだけ遊んでいた乙女ゲームの世界に転生したっぽい?
あんまり内容覚えてないけど…
悪役令嬢がムチムチしてたのだけは許せなかった!
さぁ、お嬢様。
私のゴットハンドを堪能してくださいませ?
********************
初投稿です。
転生侍女シリーズ第一弾。
短編全4話で、投稿予約済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる