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三章・いきなりですが冒険編

真の姿

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 大魔王 秘密のお部屋を出たわたしたちは、大魔王のいる玉座の間へ到着した。
 しかし、いきなり正面に出ることはしなかった。
「みなさん、少しの間、待機していてください」
 わたしたちは物陰に隠れて、様子を伺う。
 大魔王は優雅にくつろいでいたが、腕時計を見ると、
「おっと、そろそろ時間か。聖女が来る前に飲んでおかなくては」
 と、部屋の脇に置いてあった瓶に手をかけようとした。
 そこにわたしは、
「姫騎士さん、あの瓶を破壊してください」
「わかった」
 姫騎士さんは光の矢で瓶を砕いた。
「なにっ!?」
 明らかに動揺する大魔王。
 そこにわたしたちは前に出る。
「待たせたわね、大魔王。二回戦目よ」
 大魔王は忌々しげに、
「おのれ、聖女め」


 こうして大魔王との戦いが始まったわけなんだけど、
「おかしいでござる。以前ほど強くないでござるよ」
「確かにそうだ。俺たちだけでも対等に戦える」
 兄貴と中隊長さんは、大魔王が弱くなっていることに、拍子抜けしているほどだった。
「ふふふ、やっぱり。これは大魔封陣の魔法の効果だけじゃないわ。さっき破壊した瓶の中に入っていた飲み物に秘密があるの」
 王子が、
「秘密ってなんだい?」
「まあ、もうしばらく待って見てください。アレの効果は長続きしないから、もうすぐ効果が切れるはず」


 なんて わたしたちがやっていた頃、魔兵将軍と精霊将軍VS隠密将軍と執事の戦いは、決着が付いた。
 執事の首が転がっており、隠密将軍は仮面は半分が破壊され、膝を付いて息切れしていた。
「まさか短期間でここまで強くなるとは」
 魔兵将軍は隠密将軍に語る。
「おまえの負けだ。そして おまえが負けたからには、大魔王も負ける」
 精霊将軍が怪訝に聞く。
「それはどういう意味だ? 隠密将軍が負けると、大魔王も負けるとは」
「隠密将軍と大魔王が、なぜ同じ顔なのか、その理由に僕は気付いている。聖女さまも気付いておられたようだが、ハッキリ言おう。
 大魔王の あの美貌は偽りだ。
 大魔王は変身薬を飲んでいるんだ」
 変身薬。
 魔法薬の一種で、別の人間の体の一部、例えば髪の毛や爪など、そう言った物を混ぜて飲むと、その人に変身できるという物。
 以前、オッサンが失われた少年時代を取り戻そうと使ったことがある、しょーもない薬だ。
 精霊将軍は変身薬と聞いて察しが付いた。
「つまり、大魔王は隠密将軍の姿に化けているだけだということか」
「そういうことだ」
「では、大魔王の本当の姿とは……」
 隠密将軍は歯ぎしりをしながら、
「その姿を、今頃 聖女たちは見ているだろう。そして恐怖するはずだ。大魔王さまの本来の姿に」


 そして、わたしたちのほうでは、大魔王が戦いのさなかに苦しそうにうめき声を上げ始めた。
「うぐぐぐ……」
 姫騎士さんが、
「なんだ? なにが起こっている?」
「みなさん、見てください。大魔王が本当の姿になります」
 わたしは大雑把に変身薬について説明した。
 兄貴は、
「つまり、大魔王は隠密将軍に変身していただけでござるか」
 王子が、
「ってことはぁ、大魔王の姿はぁ……」


 大魔王の真の姿。
 それは、七つの龍の玉を集めるマンガに登場した、ドドリアとザーボン第二形態を足して二で割らなかったような姿。
 百五十キロは超えていそうな ぶくぶくの脂肪に、皮膚はガマガエルのよう。
 それも種族的な問題ではなく、たんなるニキビの類い。
 よーするにデブなぶ男。
 っていうか予想以上に気持ち悪い。
 大魔王は怒りを押し殺した表情で、
「おのれ、よくも私の本当の姿を見たな」
「予想以上に気持ち悪かったです」
「黙れ!」
「でも、それ どー考えても自業自得でしょう。貴方の秘密の部屋 見ましたよ。あんな体に悪いジャンクフードばっかり食べていれば、そうなります」
 そう、大魔王は生まれつきだとか、種族的な問題ではなく、不摂生がたたって化け物みたいな体になっただけ。
「黙れ! 私は我慢するのが嫌いなのだ! 好きな物を好きなだけ食べて何が悪い!?」
「それは貴方の勝手ですけど、でも不健康になるのは自覚しないと」
「くそう! 貴様ら皆殺しにしてくれる!」
 とか言って戦おうとしているけど、デブな体ではまともに動くのも大変。
 中隊長さんと兄貴に殴られて、
「ブヒィッ!!」
 吹っ飛んだ。


 なんだか しょーもない秘密が明かされて続く……
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