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三章・いきなりですが冒険編

シリアスな方向へ行って

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 わたしたち九人が北極大陸へ旅立つのをみんなが見送りに来ていた。
 賢姫さまや聖姫さまに、そのほかの王さま達。
 ツインメスゴリラや元女騎士隊長に、武闘大会での八人。
 本来なら一緒に北極大陸へ向かうはずだった人たちが見送っていた。
 賢姫さまが代表になって、
「みなさんの勝利をここで祈っていますわ。そして必ず全員 無事に帰ってきて下さい。
 特に勇者さま。貴方はわたくしの豚奴隷となるのですから、必ずわたくしの元に戻ってきてくださいませ」
 賢姫さまの言葉に、兄貴はわたしに、
「マイシスター。拙者は戦いが終わった後、直行で国へ戻るので、賢姫殿には戦死したと報告してくださらぬか」
「バカ言ってないでさっさと行くわよ」
 こうして わたしたちは出発した。


 北極大陸に到着した わたしたちは、精霊将軍と魔兵将軍の案内で、なんの障害もなく大魔宮殿へ進んだ。
 そして大魔宮殿正門前。
 魔王と五鬼が待ち構えていた。
「待っていたぞ。聖女達よ。大魔宮殿へ入りたくば、俺たちを倒してからにしろ」
 以前とは気迫がまるで違う魔王は、ドラゴンスレイヤーを兄貴に向ける。
「まずは勇者よ。貴様との一騎打ちを申し出る。かつての敗北の汚名を濯ぐ。貴様も戦士ならば、この意味が分かるはずだ」
 わたしは兄貴に小声で、
「どう? 勝てそう?」
「無理でござる。力を二重に使っても、魔王のほうが上でござるな」
 やっぱりか。
 一騎打ちなんて愚の骨頂。
 かといって団体戦をしたとしても、正直 全員 無事でいられる確率は低い。
 犠牲が出ると話がシリアスな方向へ行って、わたしに命の危険がある。
 命の危険があることは避けたい。
 って いうか イヤ。
 でも 逃げられない。
 逃げたいけど 逃げられない。
 どうすればいい?
 どうすりゃいいのよコレ!?
 悩んでいると、竜騎将軍が前に出た。
「待て、魔王よ。勇者の前に、俺が相手をする」
「貴様が? なぜだ?」
「どちらが大魔王軍の真の最強か、決着を付けようではないか」
「……いいだろう。まずは貴様との決着からだ」


 わたしたちは一騎打ちの前に話をする。
「どうして魔王と戦おうと思ったんですか?」
「おまえたちの話を聞いたときは半信半疑だったが、今は確信できる。造魔となった魔王に勝てるのは俺だけだ。
 集団戦となれば話は別かも知れないが、しかし 戦いはここで終わりではない。大魔王との戦いも控えている。戦力は温存しておかねば」


 こうして魔王と竜騎将軍の一騎打ちが始まることになった。


 わたしたちが見守る中、魔王と竜騎将軍は剣を構えて対峙している。
 二人とも微動だにしない。
 戦いの素人のわたしでもわかる。
 二人の実力は拮抗している。
 最初の一手が、最後の一手なんだ。
 こういう時は 卑怯な手段で横やりを入れるのが効果的なんだけど……
 わたしは五鬼を見る。
 魔王の戦いの邪魔をすれば五鬼が動く。
 そうなると乱戦になって わたしに命の危険が。
 と いうわけで 動くわけにはいかない。
 わたしにできるのは あのロリ女神に祈ることだけ。
 お願いです、竜騎将軍を勝たせてあげてください。
 一陣の風が吹いた。
「剛竜撃!」
「竜魔剣衝撃斬!」
 二人の攻撃が同時に放たれた。


 ドドドォーン!


 それが激突し すさまじい衝撃が吹き荒れる。
 そして それが収まると、立っていたのは竜騎将軍。
 魔王は倒れている。
 やった!
 勝ったんだ!


「なんだと!?」
 勝利した竜騎将軍が突然 驚愕の声を上げた。
「いかん! 魔王に爆弾が仕掛けられている!」
 魔王が竜騎将軍から受けた傷口から、なんか青い光が放たれ始めた。
 その青い光は物凄い嫌な感じがした。
 兄貴が叫んだ。
「核でござる!」
 核って……
「核爆弾のこと!?」
「そうでござる! 周囲十数キロは吹き飛ぶでござるよ!」
 魔王が愕然とする。
「な、なんだと!? 俺に爆弾が?!」
 魔王も知らないの!?


「フフフ……」
 執事が現れた。
「みなさん、ごきげんよう。
 事態が飲み込めないようなので、かいつまんで 説明させていただきます。
 妖術将軍は魔王に造魔改造手術を施しました。そのさい、大魔王様の命令で核爆弾を仕掛けておいたのです。
 もし 魔王が敗北することがあれば、起爆するようにと」
 竜騎将軍が叫ぶ。
「馬鹿な! 大魔宮殿も吹き飛ぶぞ!」
「ご安心を。大魔宮殿には核攻撃にも耐えられるほどの結界が張ってあります。よって、大魔宮殿は無傷。
 聖女一行だけを始末することができるのです」
 魔王は驚愕し、
「大魔王様は 俺に愛を与えると言っておきながら 捨て駒にするつもりだったのか!」
 執事は微笑んで、
「貴方は大魔王に愛を示すことができるのです。喜んでください。
 そうそう、五鬼には大魔王様から伝言が。至急 戻るようにとのこと。犠牲となるのは魔王 一人だけで十分。貴方たちまで死ぬ必要はありません」
 執事に対し、獣鬼が叫ぶ。
「ふざけるな! 俺たちが兄弟を見捨てると思ってやがるのか!」
 魔鬼も同意して、
「私たちは大魔王様に忠義も愛も捧げてはいません」
 竜鬼も、
「俺たちは兄弟と共にある」
 闘鬼と戦鬼が執事に戦闘態勢を取った。
 執事は答えを予想していたようで、
「そうですか。まあ、好きにすると良いでしょう。では、わたくしめは これにて失礼」
 一礼すると、その姿が影に消えた。


 竜騎将軍が叫ぶ。
「全力で魔王から離れるんだ! 爆発に巻き込まれれば一巻の終わりだぞ!」
「無理です! むりムリ無理!!
 今から全力で逃げたところで核爆発から逃げられるわけありません!」
 竜騎将軍は闘気を魔王に放った。
 すると青い光が弱まった。
「俺が爆発を最小限に食い止める! 魔兵将軍! 緊急転移装置を使い全力で聖女を連れて逃げろ!」
 わたしは竜騎将軍に、
「貴方はどうなるのです!?」
「……おまえ達が大魔王を倒すことを信じているぞ」
 その顔は覚悟を決めた表情だった。
 ……ダメ。
「そんなのダメです!」
 犠牲者が出たら この小説がシリアスな方向に行って わたしに命の危険が出てきちゃうじゃないのよー!
 魔兵将軍がわたしに叫ぶ。
「聖女さま! 転移装置を使います! 皆さんもボクの周りに集まって!」
 ダメよ。
 ここで見捨てたら間違いなくジャンルの方向性が変わってヤバいことに。
 考えないと。
 なにか手を考えるのよ!
 なにか手はないの!?
 ……あ!
 そうだ!
 あの方法がある!
 わたしは魔王に聖女の杖を向けた。
 魔王は理解不能といった感じで、
「聖女よ! なにをするつもりだ!」
「一か八か! 貴方の秘められた力を解放させます!」
 そう、魔王には秘められた力がある。
 魔王は以前は秘められた力はなかった。
 だけど、造魔には秘められた力があった。
 南の国での武闘大会の時、造魔の秘められた力を暴走させることで倒すことができた。
 つまり、造魔改造手術を受けた今の魔王には秘められた力がある。
 その秘められた力を解放させる。
 そして魔王自身に核を押さえ込ませる。
「魔王! 歯を食いしばりなさい!」
 わたしは聖女の力を魔王に使った。


 魔王が光り輝いた。


 周囲は静寂に包まれていた。
 魔王の身体から出てきた核爆弾が地面に転がっている。
 それは不発に終わった。
 竜騎将軍と、そして魔王自身が秘められた力を使うことで、核爆発を押さえ込むことに成功したのだ。
 魔王は呆然と、
「お、俺は、助かったのか……」
 わたしは涙しながら魔王を抱きしめた。
「よかった。貴方が死ぬことがなくて、本当に良かった」


 魔王はこの時 思った。
 この女は敵である俺の命をそれほどまでに心配したというのか。
 自らの危険も顧みず、敵の命を救うために、敵に力を与え、そして敵が生きていることに喜びの涙を流しているというのか。
 なんという無償の愛。
 この者こそ、まさに聖女。


「って感動してたらしいんだけど」
 わたしの説明に悪友は質問してくる。
「あのさ、あんた 自分が助かりたいからやったのよね?」
「そうよ」
「自分が助かれば 魔王と竜騎将軍のことはどうでもよかったのよね?」
「あたりまえじゃない」
「なのに魔王を完璧に誤解させちゃってるんだけど」
「どうでもいいわよ そんなこと」
「そう言うと思った」


 この聖女は自分の事しか考えてない。
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