上 下
53 / 94
三章・いきなりですが冒険編

後はアドリブで

しおりを挟む
 ……続き。


 中隊長さんは聖姫さまの治療を受けていた。
「外傷はありません。しかし、体全体の細胞にダメージがあるような感じです。
 竜騎将軍が竜の力を共鳴させ、竜戦士様の竜の力を暴走させたことによって、竜戦士様は自分自身の竜の力でダメージを受けてしまったんです。
 聖女さま、貴方も気をつけてください。伝承では、聖女の力を過剰に使うと、これと同じ事が起きるとの事です。
 おそらく、竜騎将軍はこのことを知っていて、それで同じ竜の力を持つ者になら可能なのだと考えたのでしょう」
 わたしは嫌な汗が出てきた。
 聖女の力、いままで上手くいっていたから、ポンポン簡単に使ってたけど、こんなにヤバかったの。
 っていうか、聖姫さまのほうが聖女の力を使うの上手いんだから、なぜにあのロリ女神は 聖姫さまを聖女にしなかったのか。
 絶対 間違いなく 人選ミスってる。
 聖姫さまは続けて、
「とにかく 竜戦士さまは、当分の間は動けません。
 試練を受けることができないのはもちろん、次に竜騎将軍が来たときも、戦うことはできないでしょう」
 オッサンが震えながら、
「勝ち目がないから逃げましょうです」
 わたしは一瞬 全面的に賛成したくなったけど、そこをグッとこらえた。
 聖姫さまが そんな わたしを見て、
「聖女さま、そんなに耐え忍んでおられて。竜戦士様のことをそんなに心配されるとは。まさに聖女にふさわしい お方」
 なんか誤解していたけど、それもスルーして、とにかく考える。
 精霊将軍が携帯電話で魔兵将軍親子に連絡していた。
 二人は急いでここに向かっているとのことだけど、次の竜騎将軍の襲撃には間に合わないだろう。
 正直 勝ち目はない。
 だけど、一つだけ事態を解決する方法がある。
 それは、
「みなさん。わたしは竜騎将軍を説得したいと思います」
 みんな驚きの眼を向けた。
 わたしの女の勘が、竜騎将軍は真性のBLではないと告げていた。
 BLに走ったのは何か理由があるはず。
 それを聞き出すことができれば、説得の糸口になるかも知れない。
 中隊長さんが戦えない今、わたしがなんとかする。
 わたしは竜騎将軍の正面に立つ覚悟を決めた。
 ダンディーなオジサマをノーマルにしたらわたしにもチャンスがあるかも知れないし。


 魔兵将くんが尊敬の眼差しで、
「さすがです、聖女さま。やっぱり貴女は聖女にふさわしい方です」
「当然よ。清く正しくビューティホーな私の身と心がなんかそんな感じの……」
「あんたマジで良心の呵責がないの」


 三日後、中隊長さんの身体がほとんど回復しないまま、竜騎将軍が完全回復して戻ってきた。
「予想以上に早いですね」
 わたしが聞くと、竜騎将軍が応える。
「竜の祠と言う場所がある。そこでは 竜や 竜の力を持った者の回復が早くなるのだ。新しき竜戦士にも、大魔王様に付けば教えてやったのだがな」
 ともかく説得開始だ。
「戦う前に貴方と話がしたいのです」
「話だと?」
「貴方はなぜ大魔王に付いたのですか? 貴方は人間が悪だと言いました。そう断言する理由があるはず。それはなんです?」
 竜騎将軍は語り始めた。



 百年前。
 俺はこの国、聖王国で生まれた。
 そして優れた戦士となり、勇者となった俺は、現在の魔王とは別の魔王と戦った。
 世界を救おうなどと大それた事を考えていたわけではなかった。
 まして英雄になろうなどという利己的な理由でもない。
 俺が救いたかったのは彼女だった。
 俺の幼馴染み。
 そして俺の初恋。
 魔王討伐の旅に出るとき、俺は彼女に誓った。
 必ず魔王を倒し世界を平和にしてみせる。
 だから帰ったら結婚しようと。
 その間、聖王国の王は約束した。
 俺の代わりに彼女を守ると。
 そして長い旅の果て、死闘を繰り広げた末に、俺は魔王を倒し、故郷へと戻った。
 俺を王が呼んだ。
 そして見せつけられた。
 彼女が王と交わっている姿を。
 王は俺に言った。
「ご苦労だったな。もう帰って良いぞ。おまえは用済みだ。ブヒャヒャヒャヒャヒャ」
 彼女は言った。
「ヘタレの貴方は一生童貞だろうけど、私がこの人のモノをくわえ込んでるのをオカズに、一生一人寂しくシコシコしててねぇ」
 俺は言葉を失い、その場を立ち去るしかなかった。
 王はこの話を国中に広めた。
 俺は魔王を倒した勇者の栄光から 一転、恋人を寝取られたダメ男の烙印を押され、どこへ行っても笑いものにされた。
 王は初めから俺をこうするつもりだった。
 王の地位を脅かされる前に、栄光から笑い物へと陥れる、魔王を倒すためだけの捨て駒として、俺を使うつもりだった。
 彼女は そんな王に媚びていた。
 民も誰一人として俺に味方する者はいなかった。
 俺は人間に絶望し、魔界の辺境で隠遁生活をしていた。
 そして八十年ほどたって、大魔王様が声をかけてくださった。
 女など所詮 すぐに快楽に溺れる惰弱な存在。
 真実の愛を教えよう と。


「彼女も、王も、民衆も、俺を利用するだけ利用して、用済みになったとたんゴミのように捨てた。
 そんな存在を悪と呼ばずして なんと呼ぶのだ」
 わたしは脂汗が出ていた。
 なんというか、NTRがリアルに起きると、ドン引き物というかなんというか。
 っていうか、大魔王側に付いた理由がマジでかなりキッツイんだけど、これをどうやって説得すれば良いのよ?
 ああぁー、頭を抱えたくなってきた。
 みんなに説得してみせるなんて啖呵切るんじゃなかった。
 落ち着け わたし。
 呼吸を整えよう。
 ヒッヒッフー。
 そうよ、わたしは天才軍師の才能を持つ 出来る女。
 前世の十八禁同人誌作家の知識をフル活動させるのよ。
 そう、NTRで唯一ハッピーエンドになれる方法がある。
 その方向で話を進めよう。
 後はアドリブで。


「今の話で理解できました。
 貴方は愛というものを思い違いしていると。
 貴方は彼女を愛していなかった。
 貴方は彼女に愛されたかったのです。
 貴方は、彼女はどんなことがあっても、貴方を愛し続けると思っていた。
 どんなことがあっても、誰にも体を許さないだろうと思い込んでいた。
 でも人にはそれぞれ事情があります。
 ただの町娘に過ぎない彼女が、王に逆らうことなどできるはずがない。
 彼女はただ耐えるしかなかった。
 貴方が帰ってくるまで、王に慰め物にされるのを、黙って耐えるしかなかった。
 そして貴方が助けてくれると信じていた。
 貴方が助けてくれると信じることだけが、彼女の希望だった。
 でも、貴方は彼女に絶望した。
 王に慰め物にされていた彼女を、貴方は穢れた者として見たのです。
 その目を、その心を見抜かれ、彼女の心は折れてしまった。
 彼女が快楽落ちしたのは、貴方の脆弱な心が原因です。
 奪われたのなら、奪い返せば良かったのです。
 寝取られたのなら、寝取り返せば良かったのです。
 勇者の力を持っている貴方なら、力で彼女を王から奪い返すなど簡単だったはず。
 その後で、彼女をゆっくりと癒やし、真実の愛を育んでいけば良かった。
 でも貴方はなにもしなかった。
 黙ってその場から去った。
 快楽の悲鳴を上げる彼女を放置して、逃げたのです。
 貴方は彼女を幸せにしてあげたがったんじゃない。
 貴方が彼女に幸せにして欲しがっていた。
 貴方は甘えた子供と同じだったのよ!」
 わたしのセリフに竜騎将軍は怒りの表情になる。
「貴様に彼女のなにがわかる!」
「私も同じだからです。
 私も陵辱された身です。
 いっそ快楽に落ちてしまえば、どれだけ楽だろうかと思いました。
 でも、そこから救い出してくれた人がいる。
 わたしと彼女は同じ。
 異なるのは、貴方は彼女を見捨て、彼らはわたしを助けてくれた。
 そして、わたしは女神に聖女と認められました」
「ぐうぅ……」
 竜騎将軍はうめき声を上げて、そして沈黙した。
 そしてわたしの眼を真っ直ぐに睨んだ。
 わたしは臆することはなかった。
 竜騎将軍はどんなに強くても、その心が伴っていない。
 その証拠に、竜騎将軍は言い返せなくなっている。
 しばらくして、竜騎将軍は眼光をやわらげた。
「……おまえは、穢されても なお、清らかなのだな」
 わたしは胸を張って応える。
「そのとおりです。わたしを愛してくれる みんながいるから」
 まあ 穢されたってこと自体が大嘘なんだけど。
 竜騎将軍は、
「しばらく自分の行いを考えるとしよう」
 そして背を向けて去って行った。


 こうして竜騎将軍との戦いは避けられた。


 魔兵将くんは わたしの手に手を添えてきた。
「聖女さま。僕も貴女を愛しています。もし同じ事が貴方に起きたら、僕は必ず貴女を助けます」
「んー、魔兵将くんってば良い子ねー」
 頭なでなで。
 ふと 悪友を見ると、地上最強生物の如き物凄い形相でわたしを睨んでいた。
「な、なによ? 怖い顔して どうしたのよ?」
「貴様ッ! 今の魔兵将くんのセリフの意味を全く理解してないなッ! そして理解できていないがゆえに今回は見逃してやろうッ! だがッ!  次は 見逃さぬから そう思えいッッ!!」
 なんの話してるのよ?
「パパからお電話だよ。パパからお電話だよ」
 魔兵将くんの携帯電話の着信音だ。
 相手はもちろんお父さん。
 魔兵将くんは電話に出る。
「もしもし、パパァ。そうなんだぁ、今 聖女さまと一緒なのぉ。うん、わかったぁ。すぐに戻るねぇ。あ、そうそう。僕、ついに聖女さまに告白しちゃったぁ。詳しいことは帰ってからお話しするからねぇ」
 魔兵将くんは電話を切ると、
「それじゃ 聖女さま。父が呼んでいるので、僕は帰ります。告白の答えは 今度 聞かせて貰いますから」
「うん、分かった」
 そして魔兵将くんは帰った。
 ところで、告白の返事って何のことだろう?
 まあ、いいか。
「ふー」
 魔兵将くんが帰って、わたしは一息吐く。
「いやー、魔兵将くんがいるから、話にオチとかつけられなくて苦労したわ。あの子には知られたくないし」
「ああ、やっぱり くだらないオチがあったんだ」


 次回でオチがつきます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

高貴な血筋の正妻の私より、どうしてもあの子が欲しいなら、私と離婚しましょうよ!

ヘロディア
恋愛
主人公・リュエル・エルンは身分の高い貴族のエルン家の二女。そして年ごろになり、嫁いだ家の夫・ラズ・ファルセットは彼女よりも他の女性に夢中になり続けるという日々を過ごしていた。 しかし彼女にも、本当に愛する人・ジャックが現れ、夫と過ごす夜に、とうとう離婚を切り出す。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

私には何もありませんよ? 影の薄い末っ子王女は王の遺言書に名前が無い。何もかも失った私は―――

西東友一
恋愛
「遺言書を読み上げます」  宰相リチャードがラファエル王の遺言書を手に持つと、12人の兄姉がピリついた。  遺言書の内容を聞くと、  ある兄姉は周りに優越を見せつけるように大声で喜んだり、鼻で笑ったり・・・  ある兄姉ははしたなく爪を噛んだり、ハンカチを噛んだり・・・・・・ ―――でも、みなさん・・・・・・いいじゃないですか。お父様から贈り物があって。  私には何もありませんよ?

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
2021 宝島社 この文庫がすごい大賞 優秀作品🎊 24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん
恋愛
本編完結済み。 6/5 他の登場人物視点での番外編を始めました。よろしくお願いします。 王太子の婚約者である、公爵令嬢のクリスティーヌ・アンガス。両親は私には厳しく、妹を溺愛している。王宮では厳しい王太子妃教育。そんな暮らしに耐えられたのは、愛する婚約者、ムルダー王太子様のため。なのに、異世界の聖女が来たら婚約解消だなんて…。 私のお話の中では、少しシリアスモードです。いつもながら、ゆるゆるっとした設定なので、お気軽に楽しんでいただければ幸いです。本編は3話で完結。よろしくお願いいたします。 ※お気に入り登録、エール、感想もありがとうございます! 大変励みになります!

すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く

狭山ひびき@バカふり160万部突破
恋愛
サーラには秘密がある。 絶対に口にはできない秘密と、過去が。 ある日、サーラの住む町でちょっとした事件が起こる。 両親が営むパン屋の看板娘として店に立っていたサーラの元にやってきた男、ウォレスはその事件について調べているようだった。 事件を通して知り合いになったウォレスは、その後も頻繁にパン屋を訪れるようになり、サーラの秘密があることに気づいて暴こうとしてきてーー これは、つらい過去を持った少女が、一人の男性と出会い、過去と、本来得るはずだった立場を取り戻して幸せをつかむまでのお話です。

思い込み、勘違いも、程々に。

恋愛
※一部タイトルを変えました。 伯爵令嬢フィオーレは、自分がいつか異母妹を虐げた末に片想い相手の公爵令息や父と義母に断罪され、家を追い出される『予知夢』を視る。 現実にならないように、最後の学生生活は彼と異母妹がどれだけお似合いか、理想の恋人同士だと周囲に見られるように行動すると決意。 自身は卒業後、隣国の教会で神官になり、2度と母国に戻らない準備を進めていた。 ――これで皆が幸福になると思い込み、良かれと思って計画し、行動した結果がまさかの事態を引き起こす……

【完結】呪いで異形になった公爵様と解呪師になれなかった私

灰銀猫
恋愛
学園では首席を争うほど優秀なエルーシアは、家では美人で魔術師の才に溢れた双子の姉の出涸らしと言われて冷遇されていた。魔術師の家系に生まれながら魔術師になれるだけの魔力がなかったからだ。そんなエルーシアは、魔力が少なくてもなれる解呪師を秘かに目指していた。 だがある日、学園から戻ると父に呼び出され、呪いによって異形となった『呪喰らい公爵』と呼ばれるヘルゲン公爵に嫁ぐように命じられる。 自分に縁談など来るはずがない、きっと姉への縁談なのだと思いながらも、親に逆らえず公爵領に向かったエル―シア。 不安を抱えながらも公爵に会ったエル―シアは思った。「なんて解除のし甲斐がある被検体なの!」と。 呪いの重ねがけで異形となった公爵と、憧れていた解呪に励むエル―シアが、呪いを解いたり魔獣を退治したり神獣を助けたりしながら、距離を縮めていく物語。 他サイトでも掲載しています。

処理中です...