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三章・いきなりですが冒険編

ポツーン

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 ……続き。


 わたしが賢者の宮殿の前に到着すると、ちょうどみんなも来たところだった。
 童貞オタク兄貴。
 姫騎士さんと精霊将軍さん。
 お父さんと中隊長さん。
「中隊長さん、無事でしたか」
 わたしは中隊長さんの胸に飛び込もうとして、
「マイシスター! 愛しの兄が作戦成功させたでござるよ!」
 兄貴がわたしの胸に飛び込んで来やがった。
「抱きつくんじゃないわよ! うっとうしいわね!」
 わたしは童貞オタク兄貴を蹴飛ばす。
「ううぅ、相変わらずマイシスターが冷たいでござる」


 そこに獣士将軍が現れた。
 獣士将軍は、山羊と蛇の魔獣を従え、不敵な笑みで、
「他の将軍どもはみんな負けたのかよ。しかも魔王様まで。
 だが、考えにようによっちゃ、俺にとって都合が良いかもな。
 ここで 聖女どもと裏切り者どもをまとめて始末すれば、大魔王様から褒美がたんまりもらえそうだ」
 わたしは、
「貴方 一人で勝ち目があると?」
「俺一人じゃねえんだよ」
 獣士将軍が指をパチンと鳴らすと、百騎の魔獣に騎乗した獣人が現れた。
 魔王城の円形闘技場に現れた奴らだ。
「同じ失敗を繰り返しやがって。聖女ってのはとんでもねえアホだぜ。
 ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
 不愉快な笑い声を上げる獣士将軍。
 しかしお父さんが、
「失敗したのは貴殿だ」
 炉歩徒の全身から無数の砲台が出現し、一斉にビーム光線が百騎の魔獣に放たれ始めた。
 しかも直進じゃない。
 曲がったりして、必ず命中している。
 誘導レーザー。
 物凄いハイテク兵器じゃない。
 この世界ってホントにファンタジーなの?
 百騎の魔獣を次々倒していくお父さん。
「百騎の魔獣を倒すために作った、特別仕様の炉歩徒だ。円形闘技場で召喚した量産型の魔法兵とはわけが違う」
 さらに精霊将軍も、
「では私もだ」
 水の上位精霊を召喚し融合する。
「聖女よ。ザコは私たちが引き受ける。おまえたちは獣士将軍を倒せ」
 そして剣を振るって百騎を倒し始める。
 火炎ブレスを魔獣が吐くけど、水の魔法で防御し、お父さんがダメージを与えた魔獣に次々とどめを刺していく。
 獣士将軍は忌々しげに、
「ちぃっ! 裏切り者どもが!」
 その獣士将軍に中隊長さんが剣を向ける。
「貴様はここで倒す!」
 勇者の兄貴も剣を構えた。
「賢姫殿の呪いを解除させて貰うでござる!」
 そして姫騎士さんが、
「そして賢姫は勇者と必ず結ばれるのだ!」
 兄貴は急に冷めた感じで、
「いや、それは全力で拒否するでござるよ」
 姫騎士さんは理解不能といった感じで
「なぜだ? あんな超美人に愛されて、なぜ拒否するのだ?」
「理解してはいけないこともあるのでござる」


 獣士将軍は忌々しげだったが、不意に次には、
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!
 まったく。恐れ入るぜ。この程度で俺に勝てると思っているとはな。
 この俺様が手下に頼るようなヤワな奴だと思っているのか?
 俺は策略で大魔王軍の将軍になったんじゃねえ。
 強いから将軍なんだよ。
 こんなふうにな!」
 獣士将軍は、従えていた山羊と蛇の魔獣と融合し始めた。
 そして それが収まると、そこには、ライオンの頭部、胴体は山羊、尻尾は大蛇の姿。
「これが俺様の真の奥の手!
 獣士複合魔獣キマイラだ!」
 圧倒的パワーを感じさせるその姿。
 だけど、三人の聖なる戦士たちは臆してはいなかった。
 中隊長さんは啖呵を切る。
「貴様のような小賢しい手に頼る者の奥の手などたかが知れる!」
 勇者の兄貴も、
「真に勇気ある者の闘いをみせるでござる!」
 そして姫騎士さんも、
「貴様が三つの魔獣の力を持つというならば、我々も三人! 力は対等だ!」
 わたしは聖女の力を使い、中隊長さんは竜戦士に、姫騎士さんは戦乙女に。
 そして兄貴も雷電白虎に。
 獣士将軍は闘気をみなぎらせて叫ぶ。
「グダグダうるせぇ! 全員 まとめて かかってきやがれ!!」


 そして闘いが始まった。


 闘いが始まったわけなんだけど、わたしは闘いの邪魔にならないように、隅っこに避難して 体育座りで みんなの活躍を観戦していた。
 正直 心は ポツーンって感じだった。
 そしてわたしのお隣にはオッサンも体育座りでポツーン。
 わたしはオッサンに、
「思うんですけど、解説役って ある意味 疎外感ハンパないですよね」
 竜円斬!
「僕も子供の頃からそう思ってましたです。元気な男子は人気があって活躍しますですけど、インドアって女子から解説とかは求められますが、説明が終わったら用済みで、ボッチになるんです」
 電撃爆雷ライトニングエクスプロージョン
「あ、童貞オタク兄貴が最大威力の魔法を使いました。
 っていうか 初めから出せばいいのに、なぜにもったいぶってるんでしょうね、あのアホ兄貴」
 光羽刃!
「以前から気になっていましたですが、勇者様のことを兄と呼びますですけど、どういった関係なんですか? 聖女さまに兄弟はいないはずです」
 三魔獣複合ブレス!
「信じてもらえないと思いますけど、わたし 前世の記憶があるんですよ。その前世でアホ勇者とは兄妹だったんですよ。
 それで変態勇者も前世の記憶を持っていて、わたしのことを自分の妹って意味のマイシスターって呼ぶんですよ。
 まあ、信じないでしょうけど」
 竜斬破!
「信じますです」
 電撃突撃ライトニングランス
「え? 信じるんですか?」
 光羽矢!
「そう言う人の相談を時々受けるです。異世界から転生してきたけど、小説とかと違って全然 活躍できないっていう相談です。
 一応 銀の月光の宮廷魔術師ですから、その手の相談が回ってくるんです」
 三魔獣ダイレクトアタック!
「ああ、そうなんですか。わたしたちの他にも異世界転生してる人っているんですね」
 竜撃斬!
「結構いますです。でも、なんのチートもないから、活躍できないとか、成り上がれないとかって嘆いているんです。
 でも、それが普通です。チートなんて そんな都合の良い話 あるわけないです。それに、前世の記憶があっても、前世で怠けてたら 今世でも結局たいしたことはないです」
 電撃雷雨ライトニングスコール
「わたしはある意味チートですけどね。公爵家ですから、財力も権力も家柄も、全部揃ってました。生まれたときから勝ち組ですよ。オーホッホッホッ」
 光羽剣!
「でも、王子に陵辱されてたんですよね」
 三魔獣フライングプレス!
「……オッサンって とんでもなく無神経ですよね。女性の心と体の傷に塩を塗り込む発言を平気でするんですから。だから童貞なんですよ」
 三聖戦士合成攻撃!
「ごめんなさいです」


 なんて話をオッサンとしている内に、闘いは終盤を迎えていた。
 みんなボロボロ状態。
 獣士将軍も力尽きる寸前で、複合魔獣の姿から、元の獣人の姿に戻っていた。
「テメェら……よくも この俺様をここまで追い詰めやがって」
 明らかにフラフラで倒せるチャンスだけど、みんなも精魂尽き果てる寸前。
 剣を持つのもやっとの状態だ。
 獣士将軍は怒りを滲ませながら、
「敵ながらよくやったと褒めてやる。だが、これで終わりだ。最後の手段は用意しておくもんなんだよ」
 そして懐から取り出したのは、拳銃。
 そんな物まで。
 魔法を使えば簡単に拳銃を弾くなり破壊するなりできるけど、みんな その力が残っていない。
 オッサンが声を上げて、
「みなさん! 頑張ってください! 諦めないで!」
 と 応援して、そしてわたしに、
「ほら、貴女も応援してくださいです」
 だけど わたしは気付いてしまった
「あれ? これってチャンスなんじゃ?」
 わたしは体育座りを止めて立ち上がり、獣士将軍のところへ。
 獣士将軍は怪訝にわたしに、
「な、なんだ? なんか用か?」
 わたしは聖女の杖を野球バットを振る要領で、拳銃を思いっきり弾き飛ばした。
「な! なにしやがる!?」
 驚愕する獣士将軍に、わたしはさらにヤクザキック。
「グアッ!」
 獣士将軍はよけることもできずにまともに腹に受ける。
「こ、このアマ! 俺様を蹴りやがって! どうなるかわかってんのか!? コラ!」
 弱々しい状態で怒り狂う獣士将軍に、わたしは冷淡に、
「思ったんですけど、力尽きる寸前の貴方なら、わたしでも倒せますよね」
「……え?」
 右ボディブロー。
「ゴベェ!」
 左ジャブ五連打。
「ブッ!ブッ!ブッ!ブッ!ブ!」
 デンプシーロール十三連発。
「グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!グボ!」
 右ストレートパンチ。
「ブゴッ!」
 左アッパーカット。
「ボビシッ!」
 ノックアウト。
 そして わたしは大魔道士さまから貰った首輪を獣士将軍につけた。
 みるみる内にその姿が変化し、子豚ちゃんになった。
 わたしは拳を天に掲げた。
「勝った」


 オッサンが呟いた。
「こんなんで良いんですか?」


 賢姫さまにかけられた呪いは無事に解け、獣戦士軍団も賢者の国から撤退。
 賢者の国に平和が戻った。
 そして祝賀会が上げられたのだが、その場で 勇者は子豚になった獣士将軍を賢姫さまに献上した。
「この獣士将軍を好きにしていいでござるから、拙者を狙うのは止めてくだされ」
「わかりましたわ。この子豚ちゃんを勇者さまの練習台にして欲しいですのね。いつか勇者さまを豚奴隷にする日まで、この子豚ちゃんを勇者さまと思って、練習に励みますわ」
「ぜんぜん分かっておられぬでござる。トホホ」
 そして賢姫さまは、女王さまの笑みを子豚ちゃんの獣士将軍へ向けた。
「さぁ、子豚ちゃぁん。いっぱい可愛がってあげますわよぉん」
「ブヒィー!」


 その頃、最近 出番のなかった公爵令嬢さんは、崩壊した魔王城に到着していた。
「……」
「お嬢様。これ 完全に闘いが終わった後って感じですよ」
「……」
「やっぱり道を間違えたのがタイムロスになりましたね」
「……」
「とりあえず、近くの村に行って宿を取りましょう」
 公爵令嬢さんは叫んだ。
「いったい いつになったら追いつけますのー?!」


 追いつける日は来るのだろうか?
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