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三章・いきなりですが冒険編

鼻毛

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 わたしは王宮に呼ばれた。
 わたしが聖女にされたことと、魔王復活、そして大魔王出現は、その日の夜に、あのロリ女神が世界中の王たちに、夢でお告げをしたそうな。
 だから王さまが大魔王討伐のメンバーを紹介するとのことだ。
 しかし問題がある。
 超大問題が。
 聖女とは清らかな女性でなければ選ばれない。
 ようするに処女でなければならないのだ。
 王子に性奴隷にされていた わたしが、なぜに聖女になるのか、王さまや大臣たちにそのことを説明しなくてはならないのだ。
 ちなみに あのロリ女神は、
「それくらいの嘘は自分で考えろ。卒業式のときのノリでなんとかごまかせ」
 マルっとわたしに丸投げしやがったよチクショウ。


 宮廷に到着した わたしに、王さまが、
「聖女よ。大魔王討伐のメンバーを紹介する前に、質問に答えて欲しい。実のところ、多くの者が疑問なのだ。
 穢された身であるそなたが、なぜ聖女に選ばれたのか? 女神はそのことについて説明はしなかったか?」
 わたしは顔をうつむかせ、口元を両手で押さえる振りをして、こっそり鼻毛を引っこ抜いた。
 よし、涙で目が潤んだ。
「……わたしは確かにこの身を汚されました。
 汚され続けました。
 ですが、わたしは心までは汚されまいと必死に抗ってきたのです。
 どんなに苦痛を与えられようとも、どんな快楽にも心では抵抗し続けました。
 最後の最後まで。
 その心の清らかさを女神さまが認めてくださり、わたしは聖女に選ばれたのです。
 ううぅうぅぅ……」
 と、わたしは涙しながら語った。
 王さまや大臣たちは貰い泣きして、
「そ、そうであったか……ううぅう……すまぬ。私の愚息のせいで……」
 なんか感動していた。


 悪友は心底あきれた顔で、
「あんた、よく そこまで大嘘つけるわね」
 わたしは鼻クソをほじりながら、
「身の保身のためなら いくらでも嘘をついてやるわよ。
 まあ、王妃さまだけ なんか笑顔で怖かったけど」
「それ絶対バレてるよ」
「それよりもね、問題だったのは紹介されたメンバーだったのよ。といっても三人だけなんだけど」
「二人は予想付くわ。お兄さんと中隊長さんでしょ」
「その通りよ。でも、問題なのは最後の一人なの。っていうか、あんたも知ってる人物なのよ」
 悪友は頭に疑問符でも浮かんでそうな表情で首を傾げた。
「私も知ってる人物? 私の知り合いに、大魔王討伐メンバーに選ばれるくらい凄い人っていたっけ?」
「わたしも紹介されたとき、ビックリしたんだけどね」


 王さまがメンバーを紹介する。
「まずは、そなたも予想が付いていたであろう。勇者である」
 勇者をやっている童貞オタク兄貴は、私の前に跪いて、
「旅の間、勇者である兄がマイシスターを守ると誓うでござるよ。デュフフフ」
 童貞オタク兄貴は気持ち悪かった。
「ああ、うん、よろしくね。でも半径三メートル以内に近寄らないでくれる」
「ううぅ、冷たいでござる、マイシスター」
 泣いている兄貴を無視して、王さまは次の人物を紹介した。
「そして精鋭中隊長である」
 中隊長さんはわたしの手を取り、
「旅の間、俺が必ず君を守ると誓うよ」
 中隊長さんはイケメンだった。
「お願いします、中隊長さん。ポッ」
 童貞オタク兄貴が、
「フォオオオ! なぜに その男に赤面しているでござるかー!?」
 あー、うっさい。
 そして王さまは、最後のメンバーを紹介した。
「我が王国の宮廷魔術師団において、最大の魔力を持つ者に贈られる称号。銀の月光。その称号を与えられし宮廷魔術師である」
 銀の月光の称号は、宮廷魔術師団で最も高い魔力量を持つ者に与えられる称号だ。
 つまり、単純な魔力量なら、この国で最強。
 いったい どんな人物なのか?
 私は期待して、その人物の登場を待った。


 そして 現れたのは、背の低いバーコードハゲのメタボの中年男だった。


 っていうか オッサンだった。
 以前、失われた少年時代を取り戻そうとして、変身薬で美少年に変身して学校に通い、企み通り人気者になり、そして調子に乗って百人のお姉さんのハーレムを作ろうと目論み、悪友とヒロインちゃんを狙った、オッサンだった。
 詳しいことは 二章の 「ね、素敵でしょー」と「泣きたい」を読み返してください。
 わたしはオッサンに、
「ちょっと待ってください。どうしてオッサンが出てくるんですか? また魔法を使って変なことをしたんですか。今度 見かけたら通報しますって言いましたよね。だから通報しますね。王さま、この人 捕まえてください。変質者です」
 王さまは困ったように、
「いや、疑いたい気持ちはわかるが、その者は本当に宮廷魔術師だ。一応 銀の月光の称号の」
 王さまの言葉に、私はオッサンに、
「え!? 貴方 ホントに宮廷魔術師なんですか?! しかも銀の月光の称号! そんな地位があって童貞なんですか!? 童貞卒業なんて お金とかで解決できるでしょう! お給料良いんでしょう! それなのに なんで童貞なんですか?!」
 オッサンは泣きそうな表情で、
「あの、そんな大声で 童貞 童貞って、みんなに言わないでくださいです」
「そんなことより なんで童貞なんですか?」
「それがですね、何度も女の人に騙されてですね、借金を抱えていましてですね……」
「ああ、だいたい わかりました。一瞬で想像が付いてしまいました。
 でも 大丈夫なんですか? 魔王に大魔王の討伐ですよ。貴方 戦えるんですか?」
「魔法は得意です。変身薬もですね、作るのかなり難しいです。
 それにですね、自分の人生を変えるチャンスだと思ってですね、一大決心して立候補したんです。
 聖女と一緒に旅してですね、世界を救った英雄になったらですね、大勢の女性がですね、英雄の称号に目が眩んでですね、言い寄ってくると考えたわけです。そうなればですね、童貞卒業も夢ではないとですね、考えたわけです」
「ううぅ……」
 わたしは鼻毛を引っこ抜いたわけでもないのに涙が溢れてきた。
「心にズシリと響く本音を言っていただいて、不安で一杯になりました」


 悪友はテーブルに突っ伏していた。
「……あのオッサン、宮廷魔術師だったの。しかも銀の月光の称号って、メチャクチャ凄いじゃん」
「まあ 王さまも、見た目は兎も角、魔法にかけては一流だから、旅の役に立つって保証したけどね」
「で、役に立ったの?」
「……」
「なんで答えないの?」
「……その、役に立ったことは立ったし、活躍もしたんだけど、正直 童貞卒業は無理だろうなー、みたいな感じで」
 悪友は当然 理解できないようで、
「どういう意味?」
「まあ、旅の話を聞いていれば、そのうち わかるわ」


 そしてわたしは出発時の話に切り替える。
「出発時は大勢の人が見送りに来てたわね。お父さんにお母さん。ヒロインちゃん。あんた以外は ほとんど来てたわ」
「冒険者ギルドの仕事で忙しかったのよ。あんたのバックアップを冒険者ギルドがやることになって、通信網のチェックとか色々あったんだから」
「ちなみに、見送りに来なかったのがもう一人いたの」
「誰?」
「公爵令嬢さん」
「以外ね。あんたにご執心の彼女なら絶対見送りに来ると思うのに」
「もっとヤバかった」
「と言うと?」
「旅の間、ずっと わたしの後をつけてたの」
「は?」


 公爵令嬢さんは、専属の若い執事と一緒に、私の後をつけていたのだ。
「いいですこと。下品で下劣で汚らわしい男が三人も一緒なのです。必ず彼女に良からぬことをしようとするに違いありませんわ。
 しかし、その時 わたくしが颯爽と現れて救出すれば、彼女は私の虜に……ウフフフ」
「お嬢様、一番ヤバいのは貴女です」
「お黙りなさい! さあ、気付かれないように彼女を追跡しますわよ」
「わかりました」


 前は大魔王。
 後ろは公爵令嬢さん。
 どっちに行ってもヤバいです。
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