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二章・色々な日々

キャラがかぶってる

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 賢者の国と呼ばれるところから、賢姫という人が、わたしたちの国にやって来た。
 先ず 賢者の国について簡単な説明をしよう。
 学問が盛んな国で、学校類の施設が世界最多。
 世界中から留学生を多く受け入れており、私たちの国の王妃様も、賢者の国の王立学園を卒業されている。
 そんな賢者の国では、国の指導者の一人として、賢姫という地位がある。
 学問に秀でている女性の中から、推薦で候補を数名挙げ、その後 国民投票によって選ばれる。
 女性の中で最も頭脳明晰であると、多くの人に認められた人でなければなれないのだ。
 そして現在の賢姫は史上最年少で賢姫に選ばれたという人だ。
 賢姫になった歳は八歳。
 そして現在は わたしと同じ歳の十八歳で、十年間 賢姫を務めているという。
 外見も綺麗で、眉目秀麗、容姿端麗。
 しかも頭が良い。
 つまり才色兼備。
 同じ女としてなんか憧れちゃう。


 さて、その賢姫さまがなぜ わたしたちの国に来たのかというと、なんと わたしに会うためだそうだ。
 賢姫さまはわたしのマンガのファンで、それで是非とも作者に直接 会いたいとのこと。
 その賢姫さまを王宮にて国王さまから紹介され、わたしは即座に最初に質問した。
「賢姫さま、日本って何のことかわかりますか? というか 今 わたし 日本語で話をしているんですけど、この言語を理解できますか?」
 賢姫さまがわたしに会いたいという話を聞いたときに真っ先に思い浮かんだのは、童貞オタク兄貴の勇者のこと。
 勇者は前世の兄だった。
 じゃあ、七つの竜の玉を集める話のファンの賢姫さまは?
 わたしの質問に賢姫さまは首を傾げ、
「申し訳ありませんが、貴方の話している言葉がわかりませんの。それは どこの国の言葉ですの?」
 賢姫さまは転生者じゃなさそうだ。
 わたしは手をパタパタと振って、
「いえ、気にしないでください。ちょっと試しただけなんです。どうか気になさらず」
 賢姫さまは当然 理解できないようだったが、追求はしなかった。


 そして王宮の庭園で賢姫さまと三人でお茶をする。
 三人。
 そう、三人だ。
 わたしを女同士の関係に誘う公爵令嬢さんが、なぜか一緒にいる。
「わたくし、彼女とは深い仲ですのよ。オホホホ」
 と 公爵令嬢さんは不自然なまでに友好的な良い笑顔。
「まあ、そうですの。仲が良いのは良いことですわ。私もぜひ仲良くなりたいですわ」
 と 賢姫さまも友好的な良い笑顔。
「わたくし、彼女と一緒にマンガの取材でリゾート島に行ったりもしましたのよ」
 わたしは帰りましたが、その辺りはどんな風に脳内処理されてるんだろう。
 賢姫さまはポンと手を叩き、
「あの無人島のサバイバルのマンガですわね。性事情などが生々しくて、リアリティがありましたわ。それは貴女の協力の賜物かしら。おほほほ」
 あれ?
 なんか賢姫さま、公爵令嬢さんに探りを入れているような。
 その公爵令嬢さんも探りを入れるように、
「それにしても、彼女のマンガが好きで会いに来るなんて、貴女はどれだけ彼女にご執心なのかしら」
「いやですわ。まだ 彼女とは会ったばかりですわよ。これから親しくなっていきますの」
「まあ、会ったばかりで もう親しくなりたいだなんて、偉い地位の方は図々しいのですわね」
「あらあら、親しくなりたいだけで図々しいだなんて、貴女は彼女のいったい何なのかしら」
「親友を超えた仲ですのよ。初対面の貴女とは付き合いの長さが違いますの」
「まあ、付き合いの時間で親しさを計るなんて、貴女は上っ面の人間関係しか築いていないのではないかしら」
「会ったばかりでもう親友面するような人に言われたくありませんわ。オホホホ」
 あ、あれ?
 なんか公爵令嬢さんと賢姫さま、喋り方が一緒だから、誰がどっちでなにを話しているのかわからなくなってきた。
 っていうか この二人、ひょっとしなくても張り合ってる?
 キャラがかぶってるから張り合ってる?
 それと わたしを巡って恋のさや当てしてる?
 え?
 なに?
 一人の女を巡って 二人の女が戦ってるの?
 ヤバイわね。
 二重の意味で。
 これ以上 禁断の愛が増えると話がややこしくなるし、よその国の偉い人と問題起こすと、わたしに責任が追及されそうだし。
 話の方向性を変えないと。
 わたしは不自然にまでに明るい笑みを浮かべて、
「ところで賢姫さま、わたしのマンガはどんなところが面白かったですか。やはり作者としてはそういった所が気になりまして」
 賢姫さまはキラキラした眼で、
「それはもちろん、強い女性を描いているところですわね。守って貰うだけのか弱い女など時代遅れ。やはり今は自ら戦う女が最先端ですわ」
 そこに公爵令嬢さんが、
「では主人公の女の子と お金持ちのお嬢様が 恋人になったりするのを期待していらっしゃるのかしら」
 公爵令嬢さんんんんん!
 ストレートに聞きやがった。
 話の方向を変えようとしたのに 台無しにしやがったよ こいつ。
 しかし賢姫さまはいたずらっぽい笑みを浮かべて、
「貴女はなにを言っていますの? あのマンガはそういうお話ではありませんわよ」
 あれ?
 この人 違う?
 公爵令嬢さんもそのことに気付いて、
「ああ、そうでしたの。ごめんなさい。わたくしったら勘違いしていたみたいで」
 賢姫さまは優しく微笑んで、
「謝るのはわたくしのほうですわ。あなたが焼き餅を焼いているのが可愛らしいので、つい からかってしまいましたの。安心してください。わたくしは純然たる異性愛者ですわ。貴女はわたくしを恋のライバルと思ったようですが。うふふふ」
 公爵令嬢さんは変に可愛らしくうろたえて、
「な、なにを言われますの?! 恋のライバルだなんて、わたくしは彼女とはまだそんな関係ではありませんわ。ですが、その、将来的には、オホホホ」
 うん、さりげなく周囲に認知させようとしてるね、公爵令嬢さん。
 賢姫さまは笑顔で、
「それに、わたくしには心に決めた方がおりますの」
 あ、なんかフツーの恋バナになりそうな予感。
 今までにまともな恋バナをしたことがないから、新鮮な気持ちになってその話に乗る。
「賢姫さまが心に決めた方とは どんな男性ですか?」
 賢姫さまは恋する乙女の表情で答えた。


「勇者さまですわ」


 ……え?
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