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新しい友達

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 昼食を終えた美玲達はシャンボール城へと向かった。

「このシャンボール城、ヴァロワ朝の国王だっだフランソワ一世のために作られたお城です。フランソワ一世はルネサンス期を代表する王と言われています。彼はですね、芸術・文化の発展に貢献したり、教育の改革もおこないました。そして、このお城、レオナルド・ダ・ヴィンチが設計に関与した説があるんですよ。そして建築様式はイタリアのルネサンス様式とフランスの中世城郭建築が融合したものです」
 仁美の説明に頷くツアー参加者一同。
「では皆さん、中に入る前にこの辺で一旦写真を撮っておきましょうか」
 仁美にそう言われ、ツアー参加者達はスマートフォンでパシャパシャと写真を撮る。
 穂乃果はシャルトル大聖堂の時と同じで朱理に写真を頼んでいた。
「岸本さん、写真撮るぞ」
 誠一はニッと白い歯を見せ、美玲にスマートフォンを出すように促した。
「ありがとう。後で中川くんのも撮るよ」
 美玲は誠一に自分のスマートフォンを渡す。
「お、シャルトル大聖堂の時より表情が柔らかくなってる」
「ええ? そうかな?」
「おう。絶対そうだ」
 誠一はまるで自分のことのように嬉しそうである。
(まあ、旅行楽しんでるってことだよね。きっといいことじゃん)
 美玲はフッと笑った。
「お、その表情もいいな」
 誠一は美玲のスマートフォンでパシャリとシャンボール城を背景に微笑む美玲の写真を撮った。
「じゃあ次は中川くんの番だね」
 美玲は自身のスマートフォンを返してもらい、今度は誠一のスマートフォンを受け取る。
 パシャパシャと数枚、シャンボール城の前で大袈裟にポーズを取る誠一の写真を撮った。
「ありがとう、岸本さん。めちゃくちゃよく撮れてるな」
 誠一は楽しそうだった。
「あの、写真撮ってもらってもいいですか?」
 そこへ、関西訛りの声が聞こえた。
 晃樹である。そして隣には凛子もいる。
 神戸から参加している二人が美玲と誠一の元へやって来たのだ。
「あ、いいですよ。お二人で一緒にですよね?」
 誠一がそう聞くと、晃樹と凛子が「もちろんです」と口をそろえた。
「じゃあお願いします」
 関西訛りで晃樹が自身のスマートフォンを誠一に渡した。
 誠一はパシャパシャと複数枚、シャンボール城前で色々なポーズを取る晃樹とややクールな凛子のツーショット写真を撮った。
「じゃあ私のもお願いします」
 今度は凛子が自身のスマートフォンを美玲に渡してきた。
「え、私下手かもしれませんよ」
 美玲は人見知りを発揮し、ぎこちなく笑った。
「いや大丈夫でしょう、手元狂わん限り。普通にボタン押すだけですし」
 凛子はさっぱりと明るく笑った。紫色の眼鏡がキラリと光る。
「じゃあ、私でよければ」
 美玲は凛子の何となく笑みに好感を持てた。
 そして引き続きシャンボール城前で大きくポーズを取る晃樹と、クールだが楽しげに笑う凛子の撮影をした。
 晃樹は分かりやすく楽しそうな様子だ。そしてクールそうな凛子だが、彼女も楽しんでいる様子がその笑顔から伝わってくる。
「あの、お二人はそれぞれ一人参加ですよね?」
 撮影が終わった後、凛子が美玲達にそう問いかけてきた。
「はい、そうです」
 美玲は頷く。
「それにしては結構仲よく見えますよ。今日一緒にいること多いですし」
 晃樹がそう聞いてきた。
「実は私のポケットWi-Fiが電源切れてて、彼のに繋いでもらってるんです」
 美玲は困ったように笑った。
「あ、それは大変でしたね。海外とかはスマホが繋がらないと不安ですもんね」
 晃樹が思いっきり共感していた。
「あ、実はそれだけじゃないんです。俺達、同じ高校で高二、高三の時同じクラスだったんですよ」
 誠一がそうハハッと笑う。すると晃樹がまた質問してくる。
「じゃあもしかして久々の再会とかですか?」
「まあ、そうですね」
 美玲は少し困惑気味に微笑んだ。
「何かすごいですね。フランスで再会とかロマンチックじゃないですか」
 凛子がクスッと笑う。
「せっかく再会したことだし、お二人も一緒に写真撮ったらどうです? 僕撮りますよ」
「え、でも」
「じゃあお願いします。岸本さん、せっかくだしさ」
 晃樹の提案に美玲は驚いたが、誠一が微笑みながら美玲に一緒に撮ることを提案した。
「……分かった」
 美玲は誠一と共に、シャンボール城の前に立つ。
(中川くんとツーショット……。何でだろう? 何か緊張する……)
 美玲はぎこちなく笑った。
「何か表情硬いですよ! ほら、笑って笑って!」
 そう言い、晃樹が美玲と誠一のツーショットを何枚か撮った。
 その後、「ありがとうございます」と誠一は晃樹からスマートフォンを受け取った。
「岸本さんは撮らなくてもいい?」
 誠一がそう聞いてくると、美玲は「うん」と頷いた。
「そっか。じゃあ撮ってもらった写真後で送るわ。だからさ……連絡先教えてもらえるか?」
「分かった」
 美玲は頷き、誠一に連絡先を教えた。
「ありがとう。まさかこんなにあっさりと教えてもらえるとは思わなかった」
 誠一は苦笑した。
「まあ……そっか……」
 美玲も苦笑する。

 その後、美玲、誠一、晃樹、凛子の四人は少し談笑していた。
「ああ、やっぱウイルスのせいで二、三年は海外行けんかってんなあ。私、大学四年で卒業やったから、卒業旅行は晃ちゃんとイタリア行ったけど、大学院行った美玲ちゃんらは卒業旅行あの憎きウイルスと被ってしまったんやな」
 凛子が少し気の毒そうな表情になる。
「運が悪かったとしか言えないよね。まあ私も凛ちゃんと同じで一応大学四年の時は卒業旅行で友達とオーストラリアには行ったよ」
 美玲は苦笑した。
「俺仕事で一回アメリカに研修に行ったきりやった。語学研修やったけどあんま見につかんかったわ」
 晃樹が懐かしそうに笑う。
「それ意味ないよな。ただアメリカに行っただけだろ」
 誠一がそう突っ込む。
 美玲、誠一、晃樹、凛子の四人は何と同い年だった。それにより打ち解け、全員タメ口で話すようになっていた。
 ちなみに晃樹は大阪にある食品メーカーの営業、凛子は大阪や神戸などの企業を中心とした地元密着型の転職エージェントで働いているそうだ。
「ところで、凛ちゃんは宮本さんといつから付き合ってるの?」
 何となく興味本位で美玲は聞いてみた。
「えっと……確か高二の時からな気がする」
 凛子が目線を左斜め上に移し、思い出すような素振りでそう言った。
「高二の夏、一学期の終業式からやで。告白したんは俺からや」
 晃樹はドヤ顔である。
「てことはもう十年超えてるのか! 結構長いな。というか、晃樹よく覚えてるな。すげえわ」
 交際期間と付き合い始めた時期を覚えていた晃樹に対して驚く誠一。
「よう覚えとるなあ。一緒にいるんが長すぎでもう記憶薄れてるわ」
 当事者である凛子も驚きながら笑っていた。
「へえ、十年超えてるのすごいね」
 美玲は感嘆の声を上げる。
「いやあ、凛ちゃんこんな俺と一緒におってくれてほんまに感謝やわ」
 凛子の肩を軽く叩き、晃樹は話を続ける。
「凛ちゃんはな、身長高いし、しっかりしとるからクラスの女子から人気あったんよ。おまけに細かいこと気にせんし親しみやすさもあったから男子からも割と人気でもう当時は周りみんなライバルやったわ」
 懐かしむように美玲と誠一に語り始める晃樹。
「ちょっともう恥ずかしいからやめてよ」
 凛子が恥ずかしそうに晃樹の肩を軽く叩いた。
「だって自慢の彼女やって伝えたいねんもん。高校時代とか大学時代の友達には凛ちゃん自慢はもう聞き飽きたって言われてさ。職場でももうその話はええわって言われてんもん」
 困ったように笑う晃樹。
「何かごめんな晃ちゃんが。ほぼ初対面でこんな話されても困るよな」
 凛子が恥ずかしそうに頬を染めていた。
「ううん。二人の仲のよさがめちゃくちゃ分かる」
 美玲は少しニヤけていた。
「仲悪いよりはずっといいと思うけどな」
 誠一もクスッと楽しそうに笑っていた。
 その後、美玲と凛子の女性同士、誠一と晃樹の男性同士でシャンボール城をバックにツーショットを撮ったりもした。そして美玲は凛子と連絡先を交換したのである。
「そうや、こうして出会えたのも何かの縁やし、四人で、あ、添乗員の斉藤さんとガイドの仁美さんも交えて写真撮らん?」
 凛子がそう提案してきた。
「おお、凛ちゃんそれええな!」
 凛子の案に晃樹がテンション高く乗る。
「確かに、じゃあ俺、添乗員の斉藤さんとガイドの仁美さんに声かけてくる」
 誠一が早速明美と仁美に声をかけに行った。
 こうして、美玲達は明美と仁美を交えてシャンボール城をバックにして六人で写真を撮った。
 この時のカメラマンは神田姉妹の妹の方である菫に頼んだ。
「あ、そろそろシャンボール城の中に入るみたいやし、美玲ちゃんには私からさっきの写真送っとくわ」
 凛子が嬉しそうに笑う。
「ありがとう、凛ちゃん」
 美玲も柔らかな笑みを浮かべた。
(人生終わらせるためにツアーに参加したけど、まさか新しい友達ができるとは思わなかった)
 美玲の胸の中に、嬉しさが広がっていた。
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