15 / 33
全ては親の責任
前編
しおりを挟む
ウォーンリー王国王宮では夜会が開かれていた。
リーガード侯爵令嬢アンネッテ・ソルフリッド・リーガードは目の前の状況に心の中でため息をついていた。
「まあ! アンネッテお義姉様がまた壁の花になっているわ!」
品のない声でそう笑うのは、アンネッテより一つ年下の義妹リッケ・グレーテ・リーガード。
ふわふわとした黒褐色の髪にエメラルドのような緑の目。小動物を彷彿とさせるような可愛らしい顔立ちのリッケ。
アンネッテは真っ直ぐ伸びたアッシュブロンドの髪にサファイアのような青い目。美形ではあるのだがリッケとは違い、どこか冷たそうな雰囲気だ。
「あんな地味なドレスを着て辛気臭い顔をしているから壁の花になっても仕方ないな。少しは可愛らしいリッケを見習えば良いものの」
下卑た笑みでそう話すのは、ブロック侯爵家次男ゲイル・トリグヴェ・ブロック。赤毛にグレーの目の、派手な青年だ。
彼はアンネッテの婚約者なのだが、アンネッテではなくリッケを優先している。
また、リッケの周囲にいる者達も、アンネッテを蔑み笑っていた。
(いつものことだから、気にしていたら切りがないわ)
アンネッテは再び心の中でため息をついた。
リーガード侯爵家の長女として生まれた今年十六歳のアンネッテ。彼女が十歳の時に実母ソルフリッドが亡くなった。その後、父でありリーガード侯爵家当主のモルテンは後妻として男爵令嬢だったグレーテを迎えた。モルテンはソルフリッドの生前からグレーテと通じていたようで、モルテンとグレーテの間に生まれた九歳の娘リッケもリーガード侯爵家に引き入れられた。
そこからアンネッテは存在しない者として扱われていたのだ。食事や身の回りの準備などもアンネッテは自分自身でしなければならなくなった。使用人のように扱われたり、虐げられたり、ドレスやアクセサリーを奪われたりすることがなかったのは不幸中の幸いである。しかし、アンネッテは義妹リッケからことあるごとに小馬鹿にされていた。
「アンネッテ様、リッケ様を放置しておいてよろしいのです?」
アンネッテの元へやって来たウレフェルト伯爵令嬢メリアン・マルテ・ウレフェルトが眉を顰めている。
「あの子は言っても聞きませんわ」
力なく笑うアンネッテ。サファイアの目は諦めに染まっていた。
「ですが、リッケ様のあのような態度はこのウォーンリー王国の貴族社会の秩序を乱しかねませんわ。アンネッテ様の婚約者だけでなく、他の方の婚約者にもベタベタとはしたない真似をしておりますのよ」
メリアンはリッケの態度に憤慨していた。そのヘーゼルの目は、ギロリとリッケを睨んでいる。
リッケはメリアンの婚約者にも馴れ馴れしく接していたのだ。
「メリアン様にもご迷惑をおかけして申し訳ございません……。リッケは私の言うことなど聞きませんし、両親もリッケに甘いので……」
アンネッテは憂いを帯びた表情でため息をついた。
「アンネッテ様も大変ですわね」
メリアンもため息をつきながら、自身のダークブロンドの髪を耳にかき上げる。
その時、リッケがゲイルやその他の令息達を引き連れてアンネッテの元へやって来る。
「お義姉様、今私の悪口を言っていたでしょう!? お義姉様の分際でそんなこと言って良いと思っているの!? お父様とお母様に言い付けてやるんだから!」
エメラルドの目を吊り上げるリッケ。
「アンネッテ、お前はリッケに嫉妬しているからそんなことを言ったんだろう!? 心まで醜い奴だな!」
ゲイルのグレーの目はギロリとアンネッテを睨み付けている。
「さっさとリッケ嬢に謝れ!」
「そっちのメリアン嬢もリッケ嬢に謝ったらどうだ!」
リッケの周囲にいる令息達もアンネッテ達を責め立てる。
アンネッテは諦めたようにため息をつき、口を噤む。
そしてそこへアンネッテの父モルテンと義母グレーテまでやって来た。
「アンネッテ、お前はまたリッケを虐めたのか!」
「本当にろくでもない子ね! それに一緒にいる娘もレベルが低そうだわ!」
モルテンとグレーテは一緒になってアンネッテを責め立てる。
メリアンは伯爵家の娘なので強く出たとしても握り潰されてしまう。
アンネッテは諦めてただ嵐が過ぎ去るのを待つかのようであった。
しかしそこへ第三者が現れる。
「一体何をしているのかしら?」
威厳と品のある声だ。
アンネッテ達の目の前には、太陽の光に染まったようなブロンドの髪にターコイズのような青い目の長身の女性がいた。
「これは……ガルトゥング公爵夫人……!」
モルテンは目を大きく見開いた。
アンネッテ達の前に現れたのは、リスベット・グンヒル・ガルトゥング。ウォーンリー王国女王であるヴィクトリアの妹なのだ。
元々ウォーンリー王国の王族であるハルドラーダ王家に生まれたリスベット。その髪色と目の色は王家の特徴でもある。彼女は筆頭公爵家であるガルトゥング公爵家に降嫁したのだ。
「リーガード侯爵、貴方は侯爵夫人と共にアンネッテ嬢に虐待をしているように見えるけれど」
有無を言わさぬ強い口調のリスベッド。
「そんな、我々は虐待など」
モルテンは必死に言い訳をしようとするが、上手く言葉が出て来ない。
「アンネッテだけでなく、貴方達はリッケにも虐待をしているわね」
リスベッドの言葉にモルテンとグレーテは驚愕して目を大きく見開く。
「リッケにも虐待!? 何かの冗談でございましょう!?」
「ええ! リッケは可愛がっておりますのに!」
するとリスベッドは呆れながら口を開く。
「きちんとした教育を受けさせていないでしょう。リッケはウォーンリー王国の貴族の秩序を乱すような行動をしているわ」
「え? 私そんなことしていないわ」
リッケは完全に戸惑っている。
「アンネッテもそうだけど、リッケもある意味では被害者ね。大丈夫よ。私に任せてちょうだい。悪いようにはしないわ」
リスベッドはアンネッテとリッケを憐れんでいた。
突然リスベッドがやって来たことで、その場は一旦収まったのである。
リーガード侯爵令嬢アンネッテ・ソルフリッド・リーガードは目の前の状況に心の中でため息をついていた。
「まあ! アンネッテお義姉様がまた壁の花になっているわ!」
品のない声でそう笑うのは、アンネッテより一つ年下の義妹リッケ・グレーテ・リーガード。
ふわふわとした黒褐色の髪にエメラルドのような緑の目。小動物を彷彿とさせるような可愛らしい顔立ちのリッケ。
アンネッテは真っ直ぐ伸びたアッシュブロンドの髪にサファイアのような青い目。美形ではあるのだがリッケとは違い、どこか冷たそうな雰囲気だ。
「あんな地味なドレスを着て辛気臭い顔をしているから壁の花になっても仕方ないな。少しは可愛らしいリッケを見習えば良いものの」
下卑た笑みでそう話すのは、ブロック侯爵家次男ゲイル・トリグヴェ・ブロック。赤毛にグレーの目の、派手な青年だ。
彼はアンネッテの婚約者なのだが、アンネッテではなくリッケを優先している。
また、リッケの周囲にいる者達も、アンネッテを蔑み笑っていた。
(いつものことだから、気にしていたら切りがないわ)
アンネッテは再び心の中でため息をついた。
リーガード侯爵家の長女として生まれた今年十六歳のアンネッテ。彼女が十歳の時に実母ソルフリッドが亡くなった。その後、父でありリーガード侯爵家当主のモルテンは後妻として男爵令嬢だったグレーテを迎えた。モルテンはソルフリッドの生前からグレーテと通じていたようで、モルテンとグレーテの間に生まれた九歳の娘リッケもリーガード侯爵家に引き入れられた。
そこからアンネッテは存在しない者として扱われていたのだ。食事や身の回りの準備などもアンネッテは自分自身でしなければならなくなった。使用人のように扱われたり、虐げられたり、ドレスやアクセサリーを奪われたりすることがなかったのは不幸中の幸いである。しかし、アンネッテは義妹リッケからことあるごとに小馬鹿にされていた。
「アンネッテ様、リッケ様を放置しておいてよろしいのです?」
アンネッテの元へやって来たウレフェルト伯爵令嬢メリアン・マルテ・ウレフェルトが眉を顰めている。
「あの子は言っても聞きませんわ」
力なく笑うアンネッテ。サファイアの目は諦めに染まっていた。
「ですが、リッケ様のあのような態度はこのウォーンリー王国の貴族社会の秩序を乱しかねませんわ。アンネッテ様の婚約者だけでなく、他の方の婚約者にもベタベタとはしたない真似をしておりますのよ」
メリアンはリッケの態度に憤慨していた。そのヘーゼルの目は、ギロリとリッケを睨んでいる。
リッケはメリアンの婚約者にも馴れ馴れしく接していたのだ。
「メリアン様にもご迷惑をおかけして申し訳ございません……。リッケは私の言うことなど聞きませんし、両親もリッケに甘いので……」
アンネッテは憂いを帯びた表情でため息をついた。
「アンネッテ様も大変ですわね」
メリアンもため息をつきながら、自身のダークブロンドの髪を耳にかき上げる。
その時、リッケがゲイルやその他の令息達を引き連れてアンネッテの元へやって来る。
「お義姉様、今私の悪口を言っていたでしょう!? お義姉様の分際でそんなこと言って良いと思っているの!? お父様とお母様に言い付けてやるんだから!」
エメラルドの目を吊り上げるリッケ。
「アンネッテ、お前はリッケに嫉妬しているからそんなことを言ったんだろう!? 心まで醜い奴だな!」
ゲイルのグレーの目はギロリとアンネッテを睨み付けている。
「さっさとリッケ嬢に謝れ!」
「そっちのメリアン嬢もリッケ嬢に謝ったらどうだ!」
リッケの周囲にいる令息達もアンネッテ達を責め立てる。
アンネッテは諦めたようにため息をつき、口を噤む。
そしてそこへアンネッテの父モルテンと義母グレーテまでやって来た。
「アンネッテ、お前はまたリッケを虐めたのか!」
「本当にろくでもない子ね! それに一緒にいる娘もレベルが低そうだわ!」
モルテンとグレーテは一緒になってアンネッテを責め立てる。
メリアンは伯爵家の娘なので強く出たとしても握り潰されてしまう。
アンネッテは諦めてただ嵐が過ぎ去るのを待つかのようであった。
しかしそこへ第三者が現れる。
「一体何をしているのかしら?」
威厳と品のある声だ。
アンネッテ達の目の前には、太陽の光に染まったようなブロンドの髪にターコイズのような青い目の長身の女性がいた。
「これは……ガルトゥング公爵夫人……!」
モルテンは目を大きく見開いた。
アンネッテ達の前に現れたのは、リスベット・グンヒル・ガルトゥング。ウォーンリー王国女王であるヴィクトリアの妹なのだ。
元々ウォーンリー王国の王族であるハルドラーダ王家に生まれたリスベット。その髪色と目の色は王家の特徴でもある。彼女は筆頭公爵家であるガルトゥング公爵家に降嫁したのだ。
「リーガード侯爵、貴方は侯爵夫人と共にアンネッテ嬢に虐待をしているように見えるけれど」
有無を言わさぬ強い口調のリスベッド。
「そんな、我々は虐待など」
モルテンは必死に言い訳をしようとするが、上手く言葉が出て来ない。
「アンネッテだけでなく、貴方達はリッケにも虐待をしているわね」
リスベッドの言葉にモルテンとグレーテは驚愕して目を大きく見開く。
「リッケにも虐待!? 何かの冗談でございましょう!?」
「ええ! リッケは可愛がっておりますのに!」
するとリスベッドは呆れながら口を開く。
「きちんとした教育を受けさせていないでしょう。リッケはウォーンリー王国の貴族の秩序を乱すような行動をしているわ」
「え? 私そんなことしていないわ」
リッケは完全に戸惑っている。
「アンネッテもそうだけど、リッケもある意味では被害者ね。大丈夫よ。私に任せてちょうだい。悪いようにはしないわ」
リスベッドはアンネッテとリッケを憐れんでいた。
突然リスベッドがやって来たことで、その場は一旦収まったのである。
6
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
【完結】旦那様、契約妻の私は放っておいてくださいませ
青空一夏
恋愛
※愛犬家おすすめ! こちらは以前書いたもののリメイク版です。「続きを書いて」と、希望する声があったので、いっそのこと最初から書き直すことにしました。アルファポリスの規約により旧作は非公開にします。
私はエルナン男爵家の長女のアイビーです。両親は人が良いだけで友人の保証人になって大借金を背負うお人好しです。今回もお父様は親友の保証人になってしまい大借金をつくりました。どうしたら良いもにかと悩んでいると、格上貴族が訪ねてきて私に契約を持ちかけるのでした。いわゆる契約妻というお仕事のお話でした。お金の為ですもの。私、頑張りますね!
これはお金が大好きで、綺麗な男性が苦手なヒロインが契約妻の仕事を引き受ける物語です。
ありがちなストーリーのコメディーです。
※作者独自の異世界恋愛物語。
※コメディです。
※途中でタグの変更・追加の可能性あり。
※最終話に子犬が登場します。
(完結)お姉様、私を捨てるの?
青空一夏
恋愛
大好きなお姉様の為に貴族学園に行かず奉公に出た私。なのに、お姉様は・・・・・・
中世ヨーロッパ風の異世界ですがここは貴族学園の上に上級学園があり、そこに行かなければ女官や文官になれない世界です。現代で言うところの大学のようなもので、文官や女官は○○省で働くキャリア官僚のようなものと考えてください。日本的な価値観も混ざった異世界の姉妹のお話。番の話も混じったショートショート。※獣人の貴族もいますがどちらかというと人間より下に見られている世界観です。
くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。
音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。>
婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。
冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。
「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」
(完)僕は醜すぎて愛せないでしょう? と俯く夫。まさか、貴男はむしろイケメン最高じゃないの!
青空一夏
恋愛
私は不幸だと自分を思ったことがない。大体が良い方にしか考えられないし、天然とも言われるけれどこれでいいと思っているの。
お父様に婚約者を押しつけられた時も、途中でそれを妹に譲ってまた返された時も、全ては考え方次第だと思うわ。
だって、生きてるだけでもこの世は楽しい!
これはそんなヒロインが楽しく生きていくうちに自然にざまぁな仕返しをしてしまっているコメディ路線のお話です。
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。転生者の天然無双物語。
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる