深夜の自転車

salmon mama

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 ピンポーン

 無機質なチャイムの音。

 ピンポーン

 二度目。

「ごめんくださーい。」

 平べったい女の声。生気がない。

 ピンポーン

 三度目。

「ごめんくださーい。水をくださーい。」

 さっきと同じ声。声に力がない。感情もない。やけに間延びした声だ。赤ん坊の鳴き声も混ざっている。

 ピンポーン

 四度目のチャイム

「ごめんくださーい。ごめんくださーい。さっき、入っていかれましたよね。ごめんくださーい。水くださーい。あの、水くださーい。水くださーい。」

 早く何処かへ行ってくれ。早く、早く。

 トントン、トントン

 ノックの音。耳のすぐ近くでなっているような気がする。

「いるんでしょう?開けてくださーい。水をくださーい。水をくださーい。ごめんくださーい。水をくださーい。水をくださーい。」

 トントントントン、ドンドンドンドン

 ノックの音が大きくなる。加速する。

「水をくださーい。お願いしまーす。水をくださーい。水をくださーい。開けてくださーい。水をくださーい。水をくださーい。水をくださーい。」

 平たく冷たい声が響く。布団を強く握る。

 ドンドンドンドン、ドンドンドンドン

「開けて下さーーい。開けて下さーーい。水をくださーい。水をくださーい。水をくださーい。水をくださーい。水をくださーい。水をくださーい、水をくださーい、、、、。」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

「開けてくださーい。開けてくださーい。」

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 岩雪崩みたいな音だ。今にも扉が壊れてしまいそうだ。

ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

 人間が叩く音だとは思えない。もうだめだ。壊される。侵入される。助けてくれ、助けてくれ。

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン

「水なんかない!!!!!」

 叫んだ。自分でもびっくりするほど大声で叫んだ。


 静まり返る。


 ジャーーーーーーーーーーーーーー!!!

 水がシンクと衝突する音。

 ドガドダドダドダドダバタドダ



「あるじゃないですか、水。」



 布団一枚隔てたところから、のっぺりとした女の声が聞こえた。
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