35 / 59
花屋のうさぎと銀狼の朝3
しおりを挟む
「リオネル様。僕、その、お腹が空きました」
『犯人』たちからとにかく意識を逸らそうと、リオネル様に声をかける。
するとリオネル様は「そうだな」と静かな声で返事をして、縦抱きにしていた僕をひょいと横抱きに抱き直した。……大の大人、しかも男がされるにはなかなかに恥ずかしすぎる体勢だ。
「では食事にしようか。……と言ってもこのあたりの早朝から開いている店に心当たりがないな。ニルスに聞いておけばよかったか」
「い、いえ。僕が作りますので!」
「……レイラが?」
リオネル様は綺麗な瞳を大きく開いて僕を見つめる。僕の手作りなんて、嫌だったかな。この時間だとどこのお店が開いていたっけ。宿の食堂なら、朝から食事を出しているかも? それなら割と近くにある。
毎日自宅で朝食を済ませる僕は、早朝から開いている店について詳しくない。どうしようかと思いながら、オロオロとしてしまったのだけれど……
「レイラの手作りか。……それは嬉しいな」
リオネル様がふっと無防備な笑顔を浮かべて、額に優しく口づけなんてするものだから。僕は真っ赤になってしまった。その笑顔は反則です、リオネル様……!
周囲の野次馬たちもリオネル様の笑顔に当てられたようで、顔を赤くしたり蹲ったりしている。……罪な男とはこの人のことを言うのだろうな。
「……私たちが食事をしている間に。きっと店の前は綺麗になっているだろう」
笑顔から一転、その瞳の色を濁らせ怒りを滲ませた表情になったリオネル様が、野次馬へと鋭い視線を向ける。すると犯人たちだけではなく、他の野次馬たちまで首を激しく上下させた。美しい人の怒りの表情は、それだけ恐ろしいものだったのだ。
「リオネル様。とっておきの珈琲を淹れますから、早くご飯にしましょう!」
リオネル様の意識をこちらに戻そうと、話しかけながらくいくいと服を引っ張る。するとリオネル様の表情はふっと緩んだ。
「……とっておき? それは嬉しいな」
「友人のロランにオススメされて買ったんですけど、とても美味しいんですよ」
「レイラの友人か。いずれ会ってみたいな」
「ロランも喜ぶと思います。……ちょっと喜びすぎるかもしれませんけど」
会話をしつつ、恥ずかしながら横抱きのまま屋内へと運ばれる。扉が閉まったその瞬間に、外のゴミに人々が殺到するのが見えた。……朝食を食べている間に、外はピカピカになっていそうだ。
リオネル様は僕を台所に運ぶとそっと床に下ろした。そしてこちらに期待するような視線を向けながら、ブンブンと尻尾を振る。そんなお顔をされても、大したものは出ないんだけどなぁ……
「その、粗末なものしか出ませんよ?」
「レイラが作るものが、粗末なわけがない」
粗末です、貴方がふだん食べているものより絶対に粗末です。
パンとベーコンエッグとスープくらいしかお出しできません。
「……頑張ります。長椅子でゆっくりされていてくださいね」
「手伝えることはないのか?」
「この通り、台所は狭いので」
一人暮らし用で、しかもうさぎ族規格の台所には、二人並んで料理をするスペースなんてものはない。
なぜか残念そうな表情になったリオネル様は、少し肩を落としながら長椅子へと向かった。
……リオネル様、そんなに一緒に料理をしたかったんですか?
貴族は自分で料理なんてしないだろうし、物珍しかったのかな。
僕だって……好きな人と並んで料理はしてみたいけれど。
そんなことを考えてしまい、僕はぶんぶんと首を横に振った。
『犯人』たちからとにかく意識を逸らそうと、リオネル様に声をかける。
するとリオネル様は「そうだな」と静かな声で返事をして、縦抱きにしていた僕をひょいと横抱きに抱き直した。……大の大人、しかも男がされるにはなかなかに恥ずかしすぎる体勢だ。
「では食事にしようか。……と言ってもこのあたりの早朝から開いている店に心当たりがないな。ニルスに聞いておけばよかったか」
「い、いえ。僕が作りますので!」
「……レイラが?」
リオネル様は綺麗な瞳を大きく開いて僕を見つめる。僕の手作りなんて、嫌だったかな。この時間だとどこのお店が開いていたっけ。宿の食堂なら、朝から食事を出しているかも? それなら割と近くにある。
毎日自宅で朝食を済ませる僕は、早朝から開いている店について詳しくない。どうしようかと思いながら、オロオロとしてしまったのだけれど……
「レイラの手作りか。……それは嬉しいな」
リオネル様がふっと無防備な笑顔を浮かべて、額に優しく口づけなんてするものだから。僕は真っ赤になってしまった。その笑顔は反則です、リオネル様……!
周囲の野次馬たちもリオネル様の笑顔に当てられたようで、顔を赤くしたり蹲ったりしている。……罪な男とはこの人のことを言うのだろうな。
「……私たちが食事をしている間に。きっと店の前は綺麗になっているだろう」
笑顔から一転、その瞳の色を濁らせ怒りを滲ませた表情になったリオネル様が、野次馬へと鋭い視線を向ける。すると犯人たちだけではなく、他の野次馬たちまで首を激しく上下させた。美しい人の怒りの表情は、それだけ恐ろしいものだったのだ。
「リオネル様。とっておきの珈琲を淹れますから、早くご飯にしましょう!」
リオネル様の意識をこちらに戻そうと、話しかけながらくいくいと服を引っ張る。するとリオネル様の表情はふっと緩んだ。
「……とっておき? それは嬉しいな」
「友人のロランにオススメされて買ったんですけど、とても美味しいんですよ」
「レイラの友人か。いずれ会ってみたいな」
「ロランも喜ぶと思います。……ちょっと喜びすぎるかもしれませんけど」
会話をしつつ、恥ずかしながら横抱きのまま屋内へと運ばれる。扉が閉まったその瞬間に、外のゴミに人々が殺到するのが見えた。……朝食を食べている間に、外はピカピカになっていそうだ。
リオネル様は僕を台所に運ぶとそっと床に下ろした。そしてこちらに期待するような視線を向けながら、ブンブンと尻尾を振る。そんなお顔をされても、大したものは出ないんだけどなぁ……
「その、粗末なものしか出ませんよ?」
「レイラが作るものが、粗末なわけがない」
粗末です、貴方がふだん食べているものより絶対に粗末です。
パンとベーコンエッグとスープくらいしかお出しできません。
「……頑張ります。長椅子でゆっくりされていてくださいね」
「手伝えることはないのか?」
「この通り、台所は狭いので」
一人暮らし用で、しかもうさぎ族規格の台所には、二人並んで料理をするスペースなんてものはない。
なぜか残念そうな表情になったリオネル様は、少し肩を落としながら長椅子へと向かった。
……リオネル様、そんなに一緒に料理をしたかったんですか?
貴族は自分で料理なんてしないだろうし、物珍しかったのかな。
僕だって……好きな人と並んで料理はしてみたいけれど。
そんなことを考えてしまい、僕はぶんぶんと首を横に振った。
23
お気に入りに追加
3,840
あなたにおすすめの小説
ワイ、TS魔法少女と都市マスターになる
あ・まん@田中子樹
ファンタジー
【2日に1回更新中】
武士のような名前の士郎宗近(シロウ ムネチカ)は社畜ブラックの新人企業戦士だった。
入社3日目で、闇落ちメンブレして二重人格になった彼はブラック上司のとばっちりで電車に轢かれてまさかの異世界転移。それもなぜか二重人格のせいで2人に分離していた。
もう一人の人格シロは心が乙女だったせいか、かわいい白髪の女の子になっていた。
「尾田●一郎先生、ワイ、ラ●テル見つけたよ」
「いや、ここ異世界ですから!」
「ツッコミ欲しがりなん?」
「なぜ私ぃぃぃっ!」
ボケ担当クロとボケを華麗にスルーしまくるシロは召喚された都市の未来を任された。
ふたりの凸凹コンビが織りなす壮大な異世界冒険がついに幕が開く――かも?
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
転移したら獣人たちに溺愛されました。
なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。
気がついたら僕は知らない場所にいた。
両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。
この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。
可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。
知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。
年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。
初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。
表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。
婚約破棄と言われても・・・
相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」
と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。
しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・
よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
***********************************************
誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。
婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。
元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。
だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。
先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。
だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。
ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。
(……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)
家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。
だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。
そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。
『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる