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ぽっちゃり令嬢と黒猫王子は交流する6
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「ミ、ミーニャ王子!」
私の乱れた身だしなみを、なぜか甲斐甲斐しく整えてくれているミーニャ王子に思いきって声をかけると、彼は『ん?』と小さく呟いて少し意地悪な笑みを浮かべた。
ふぁ~! かっこいい。なんだかミーニャ王子の周囲がキラキラ輝いている気がする。これが恋の魔法とか、そういうヤツなのかな。
……私は今から、とてもはしたないことを言おうとしている。ミーニャ王子はこれを聞いても、まだ笑ってくださるのだろうか。
「あの、今の。本当に、すごくすごく気持ちよかったです」
触れるだけの行為は性交と言えるのかな。先ほどの行為の名称が私にはわからず、なんだか曖昧な言い方になってしまう。
ミーニャ王子は、猫の耳をぴるぴると揺らしながら、感情が読めない表情でこちらを見つめている。その視線にくじけそうになったけれど、私は続けて言葉を紡いだ。
「わ、私。こういう経験が今まで皆無でして。その。ミーニャ王子がお嫌じゃなければ、ご滞在中もっとご教示頂きたいなと……」
私の言葉を聞いたミーニャ王子の金色の瞳は、満月のようにまん丸になった。
……違うの。本当はもっと色っぽいお誘いの言葉を口にするつもりだったの。だけど私の口から飛び出したのは、師匠に教えを請う弟子のような言葉だった。
こんなんじゃ、ミーニャ王子を誘惑できない。焦りと恥ずかしさでどうしていいのかわからず、私は顔を伏せ、丸い白パンのような手でスカートをぎゅっと握った。
「……それは、ハナに触れてもいいということか?」
綺麗な手が頬に触れて、何度も撫でられる。その感触に先ほど覚えたての官能が刺激されて、体がふるりと震えてしまう。ミーニャ王子の言葉を額面通りに受け取ると、彼は乗り気のように思える。私は勇気を出して、次の言葉を紡いだ。
「え、ええ。そうです。ご滞在の間、存分に触れてください! ご不快じゃなければ、ですけど……」
声はどんどん小さくなる。私は他のご令嬢のように、綺麗じゃない。ミーニャ王子がぽっちゃりが好きかも、というのが完全なる勘違いだったら……
私は王子に厚かましいことを言っている、とても気味の悪い女だということになる。心臓がバクバクと大きな音を立て、汗がだらだらと額を伝う。みっともないことになっているのはわかっているのに、汗を拭く心の余裕もなく。私はただひたすらに、ミーニャ王子の返事を待った。
「……そうか」
長い指が、私の汗で濡れた前髪を軽くかき上げた。それにつられて視線を上げると、ミーニャ王子の優しげな笑顔が目に入った。ああ、笑ってくださっている。その事実だけで安堵で崩れ落ちそうになる。
「ハナ」
優しく名前を呼ばれ、額に口づけされた。次は頬に。そして、唇に。柔らかなその感触にうっとりとしながら目を閉じた私に、何度も何度も。ミーニャ王子は触れるだけの口づけを繰り返す。
「愛らしいな、ハナ」
彼は囁きながら私のふっくら丸い手を取ると、丁寧に何度も指先に口づけた。
「こんな愛らしいハナに、本当に触れてもいいのか」
「愛らしくなんて、ないです。お見合いも十連敗ですし。褒めてくれるのは、身内とミーニャ王子くらいですよ」
恥ずかしくなって顔を赤らめると、今度は鼻先に啄むような口づけが降ってきた。それはくすぐったくて、気持ちいい。
「……僕は、ハナが好きだ」
ミーニャ王子が囁いた言葉に、私は確信した。先ほど、触れられている時にも言われた、胸をときめかせるこの言葉。それは、きっと……
「えっと、私のようなものが、ということでよろしいのですか?」
「ああ、好きだ」
金色の瞳がキラキラと煌めきながら私を見つめる。白い頬は淡い赤に染まっていて、王子から溢れる色気がすごい。
彼はやっぱり、ぽっちゃりが好きなんだ! 王子の態度に私は改めて確信をした。
ああ、この体型に生まれてよかった。いえ、生まれた時は標準的な大きさの赤ん坊だったらしいけれど。お見合いの場では好まれない、この容姿がミーニャ王子のお好みだなんて。それはなんて幸運なことなんだろう。
「わ、わたしも。ミーニャ王子が……好きです」
「嬉しいぞ、ハナ」
拒絶されたらどうしようと緊張しながら紡いだ言葉は、驚くほど軽やかに受け入れられた。
ミーニャ王子は、額や、鼻の先を合わせてくる。それはまるで猫の挨拶のようで。そんなことをしてくる彼が、愛らしく思えて、そして愛おしい。
「好き、で……」
囁やこうとした唇は、また綺麗な唇に塞がれた。
こうやって囁き合い、睦み合っていると、まるで運命の番同士であるかのように思えてくる。だけど本当はそうじゃないのが、苦しくて。その苦しさを胸の奥底に押し込めて、考えないように蓋をした。
「そういえば明日。舞踏会に行くと、伯爵に聞いたのだが」
ミーニャ王子は私の唇を優しく撫でながら訊ねてきた。そういえば、そんな予定もあったなと。私は幸福で蕩けてしまった頭でぼんやりと思い出す。
「はい。セイレン伯爵家の舞踏会に、ご招待をされていて……」
私が婿を探していること知って、セイレン伯爵家の奥様がご招待してくださったのだ。それがご厚意なのか、哀れみなのかはわからないけれど。後二年でお嫁に行かねばと焦っていた私は、一も二もなくそれに飛びついた。
「パートナーは、僕ではダメか?」
ミーニャ王子の言葉に、私は数度瞬きをした。
私の乱れた身だしなみを、なぜか甲斐甲斐しく整えてくれているミーニャ王子に思いきって声をかけると、彼は『ん?』と小さく呟いて少し意地悪な笑みを浮かべた。
ふぁ~! かっこいい。なんだかミーニャ王子の周囲がキラキラ輝いている気がする。これが恋の魔法とか、そういうヤツなのかな。
……私は今から、とてもはしたないことを言おうとしている。ミーニャ王子はこれを聞いても、まだ笑ってくださるのだろうか。
「あの、今の。本当に、すごくすごく気持ちよかったです」
触れるだけの行為は性交と言えるのかな。先ほどの行為の名称が私にはわからず、なんだか曖昧な言い方になってしまう。
ミーニャ王子は、猫の耳をぴるぴると揺らしながら、感情が読めない表情でこちらを見つめている。その視線にくじけそうになったけれど、私は続けて言葉を紡いだ。
「わ、私。こういう経験が今まで皆無でして。その。ミーニャ王子がお嫌じゃなければ、ご滞在中もっとご教示頂きたいなと……」
私の言葉を聞いたミーニャ王子の金色の瞳は、満月のようにまん丸になった。
……違うの。本当はもっと色っぽいお誘いの言葉を口にするつもりだったの。だけど私の口から飛び出したのは、師匠に教えを請う弟子のような言葉だった。
こんなんじゃ、ミーニャ王子を誘惑できない。焦りと恥ずかしさでどうしていいのかわからず、私は顔を伏せ、丸い白パンのような手でスカートをぎゅっと握った。
「……それは、ハナに触れてもいいということか?」
綺麗な手が頬に触れて、何度も撫でられる。その感触に先ほど覚えたての官能が刺激されて、体がふるりと震えてしまう。ミーニャ王子の言葉を額面通りに受け取ると、彼は乗り気のように思える。私は勇気を出して、次の言葉を紡いだ。
「え、ええ。そうです。ご滞在の間、存分に触れてください! ご不快じゃなければ、ですけど……」
声はどんどん小さくなる。私は他のご令嬢のように、綺麗じゃない。ミーニャ王子がぽっちゃりが好きかも、というのが完全なる勘違いだったら……
私は王子に厚かましいことを言っている、とても気味の悪い女だということになる。心臓がバクバクと大きな音を立て、汗がだらだらと額を伝う。みっともないことになっているのはわかっているのに、汗を拭く心の余裕もなく。私はただひたすらに、ミーニャ王子の返事を待った。
「……そうか」
長い指が、私の汗で濡れた前髪を軽くかき上げた。それにつられて視線を上げると、ミーニャ王子の優しげな笑顔が目に入った。ああ、笑ってくださっている。その事実だけで安堵で崩れ落ちそうになる。
「ハナ」
優しく名前を呼ばれ、額に口づけされた。次は頬に。そして、唇に。柔らかなその感触にうっとりとしながら目を閉じた私に、何度も何度も。ミーニャ王子は触れるだけの口づけを繰り返す。
「愛らしいな、ハナ」
彼は囁きながら私のふっくら丸い手を取ると、丁寧に何度も指先に口づけた。
「こんな愛らしいハナに、本当に触れてもいいのか」
「愛らしくなんて、ないです。お見合いも十連敗ですし。褒めてくれるのは、身内とミーニャ王子くらいですよ」
恥ずかしくなって顔を赤らめると、今度は鼻先に啄むような口づけが降ってきた。それはくすぐったくて、気持ちいい。
「……僕は、ハナが好きだ」
ミーニャ王子が囁いた言葉に、私は確信した。先ほど、触れられている時にも言われた、胸をときめかせるこの言葉。それは、きっと……
「えっと、私のようなものが、ということでよろしいのですか?」
「ああ、好きだ」
金色の瞳がキラキラと煌めきながら私を見つめる。白い頬は淡い赤に染まっていて、王子から溢れる色気がすごい。
彼はやっぱり、ぽっちゃりが好きなんだ! 王子の態度に私は改めて確信をした。
ああ、この体型に生まれてよかった。いえ、生まれた時は標準的な大きさの赤ん坊だったらしいけれど。お見合いの場では好まれない、この容姿がミーニャ王子のお好みだなんて。それはなんて幸運なことなんだろう。
「わ、わたしも。ミーニャ王子が……好きです」
「嬉しいぞ、ハナ」
拒絶されたらどうしようと緊張しながら紡いだ言葉は、驚くほど軽やかに受け入れられた。
ミーニャ王子は、額や、鼻の先を合わせてくる。それはまるで猫の挨拶のようで。そんなことをしてくる彼が、愛らしく思えて、そして愛おしい。
「好き、で……」
囁やこうとした唇は、また綺麗な唇に塞がれた。
こうやって囁き合い、睦み合っていると、まるで運命の番同士であるかのように思えてくる。だけど本当はそうじゃないのが、苦しくて。その苦しさを胸の奥底に押し込めて、考えないように蓋をした。
「そういえば明日。舞踏会に行くと、伯爵に聞いたのだが」
ミーニャ王子は私の唇を優しく撫でながら訊ねてきた。そういえば、そんな予定もあったなと。私は幸福で蕩けてしまった頭でぼんやりと思い出す。
「はい。セイレン伯爵家の舞踏会に、ご招待をされていて……」
私が婿を探していること知って、セイレン伯爵家の奥様がご招待してくださったのだ。それがご厚意なのか、哀れみなのかはわからないけれど。後二年でお嫁に行かねばと焦っていた私は、一も二もなくそれに飛びついた。
「パートナーは、僕ではダメか?」
ミーニャ王子の言葉に、私は数度瞬きをした。
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