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公爵騎士様の部下がやってきました3
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「……なんだ、今のは」
ベンヤミン様の呆然とした声が背後から聞こえる。
だけど私は、それどころではない。大事な畑が、一瞬にして消失してしまったのだ。
以前も大神様のお怒りで畑の一部が焦げたことがあったけれど、それはあくまで一部だった。今度はぜんぶ。ぜんぶなのである。
「私の……畑」
大神様に成長を手伝ってもらって楽をしているとはいえ、石を除いたり、肥料を撒いたり、土を耕したり、畝を作ったり、雑草を抜いたり、種を植えたり、収穫したりは自分自身でやっているのだ。この畑は、可愛い我が子だと言っても過言ではない。
奇跡で再生していただいたとしても、それは違うもので……同じものではないのだ。
「私の、畑が」
畑との想い出が脳裏を次々と過る。頭の奥がじんと痺れるように痛くなって、涙がぽろぽろと零れていく。
「大神様の、バカ!」
天に向かって叫ぶと、大神様のしゅんとする気配がした。うう、ちょっと言い過ぎたかもしれない。
「大神様にバカなどと……! この淫婦が!」
ベンヤミン様がこちらに向かいながら叫べば、『お前のせいだ』と言わんばかりに彼の近くの地面に……今度は遠慮がちな雷が打ちつけられる。彼は尻もちをつきながら、「ひっ」と情けない悲鳴を上げた。
『聖女、聖女。悪かった。頭に血が昇ってしまってだな……! 本当に私が悪かった。もうしないから、許してくれ』
光がふわりと纏わりつき、優しく頬を撫でる。光は口づけをするように、頬に触れ、額にと触れる。ついでに、鼻血も綺麗に光に拭き取られてしまった。
「私も、言い過ぎました。ごめんなさい、大神様」
『いいんだ、聖女』
すんと鼻を鳴らしながら謝罪の言葉を口にすれば、光が嬉しそうに跳ねる。それを目にしていると、自然と口元が緩んだ。
光に手で触れるとそれは仄かに暖かい。大好きですよという意を伝えるためにそっと口づければ、光は嬉しそうに身? を弾ませた。
「大神様、こちらからも謝罪をさせてください。部下が聖女様に無礼を働き、申し訳ありません」
いつの間には側に来ていたスヴァンテ様が私の肩を抱きながら、天に向かって謝罪をする。
すると私に纏わりついていた光が、スヴァンテ様の頬にも優しく触れた。
『……許そう。本当はその男を殺してしまいたかったが』
「ゆ、許してくれるそうです!」
『殺してしまいたかった』という部分は無視して、スヴァンテ様にそう伝える。すると彼は、安堵の表情になった。
私にとってはちょっと嫌な人だけれど、スヴァンテ様の大事な部下なのだ。殺されてしまうのは、彼がたぶん困る。
私はただの穴になってしまった畑へ、歩を進めた。すごい。大きなスプーンで掬い取られたみたいに、畑がなくなってる。
「消失した土をどこかから持ってくるのは、現実的ではなさそうだなぁ」
その光景を呆然としつつ眺めながら、私はぽつりとつぶやく。
『再生してもよいという許可をもらえるなら、すぐにどうにかする』
大神様の焦った声が耳に届いて、私はくすりと笑った。
なくなったものをいつまでも嘆いていても、仕方がないよね。
「では、お願いします」
私が『あとで』とつけ加える前に、地面から湧き上がるように土が盛り上がっていく。そして、おまけとばかりに植えた覚えがないアマイモの芽が芽吹いた。
「ありがとうございます、大神様」
私は地面に膝をついて、祈りを捧げる。愛着が湧くように、また毎日お世話しよう。丁寧に世話をしているうちに、新しい畑にも愛着が湧くはずだ。
……ベンヤミン様に力のことを知られて大丈夫だったのかな。
彼の私への嫌悪感は、出会った頃のスヴァンテ様のものより強いように思えた。
それは淫婦が大事なスヴァンテ様を誑かした……という理由が大きいのだろう。
困ったな。腹いせにと誰かにばらされてしまったらどうしよう。
『やっぱり始末──』
「ダメですからね。大神様」
私の思考を読み取った大神様がぼそりと言うので、私はぐさりと釘を刺した。すると不服そうな気配が伝わってきた。
「……聖女、様」
ベンヤミン様のそんな声が聞こえて、私はそちらに視線を向ける。するとそこには──。
「も、申し訳ありませんでしたァ!」
謝罪をしながら思い切り土下座をしている、ベンヤミン様の姿があったのだった。
ベンヤミン様の呆然とした声が背後から聞こえる。
だけど私は、それどころではない。大事な畑が、一瞬にして消失してしまったのだ。
以前も大神様のお怒りで畑の一部が焦げたことがあったけれど、それはあくまで一部だった。今度はぜんぶ。ぜんぶなのである。
「私の……畑」
大神様に成長を手伝ってもらって楽をしているとはいえ、石を除いたり、肥料を撒いたり、土を耕したり、畝を作ったり、雑草を抜いたり、種を植えたり、収穫したりは自分自身でやっているのだ。この畑は、可愛い我が子だと言っても過言ではない。
奇跡で再生していただいたとしても、それは違うもので……同じものではないのだ。
「私の、畑が」
畑との想い出が脳裏を次々と過る。頭の奥がじんと痺れるように痛くなって、涙がぽろぽろと零れていく。
「大神様の、バカ!」
天に向かって叫ぶと、大神様のしゅんとする気配がした。うう、ちょっと言い過ぎたかもしれない。
「大神様にバカなどと……! この淫婦が!」
ベンヤミン様がこちらに向かいながら叫べば、『お前のせいだ』と言わんばかりに彼の近くの地面に……今度は遠慮がちな雷が打ちつけられる。彼は尻もちをつきながら、「ひっ」と情けない悲鳴を上げた。
『聖女、聖女。悪かった。頭に血が昇ってしまってだな……! 本当に私が悪かった。もうしないから、許してくれ』
光がふわりと纏わりつき、優しく頬を撫でる。光は口づけをするように、頬に触れ、額にと触れる。ついでに、鼻血も綺麗に光に拭き取られてしまった。
「私も、言い過ぎました。ごめんなさい、大神様」
『いいんだ、聖女』
すんと鼻を鳴らしながら謝罪の言葉を口にすれば、光が嬉しそうに跳ねる。それを目にしていると、自然と口元が緩んだ。
光に手で触れるとそれは仄かに暖かい。大好きですよという意を伝えるためにそっと口づければ、光は嬉しそうに身? を弾ませた。
「大神様、こちらからも謝罪をさせてください。部下が聖女様に無礼を働き、申し訳ありません」
いつの間には側に来ていたスヴァンテ様が私の肩を抱きながら、天に向かって謝罪をする。
すると私に纏わりついていた光が、スヴァンテ様の頬にも優しく触れた。
『……許そう。本当はその男を殺してしまいたかったが』
「ゆ、許してくれるそうです!」
『殺してしまいたかった』という部分は無視して、スヴァンテ様にそう伝える。すると彼は、安堵の表情になった。
私にとってはちょっと嫌な人だけれど、スヴァンテ様の大事な部下なのだ。殺されてしまうのは、彼がたぶん困る。
私はただの穴になってしまった畑へ、歩を進めた。すごい。大きなスプーンで掬い取られたみたいに、畑がなくなってる。
「消失した土をどこかから持ってくるのは、現実的ではなさそうだなぁ」
その光景を呆然としつつ眺めながら、私はぽつりとつぶやく。
『再生してもよいという許可をもらえるなら、すぐにどうにかする』
大神様の焦った声が耳に届いて、私はくすりと笑った。
なくなったものをいつまでも嘆いていても、仕方がないよね。
「では、お願いします」
私が『あとで』とつけ加える前に、地面から湧き上がるように土が盛り上がっていく。そして、おまけとばかりに植えた覚えがないアマイモの芽が芽吹いた。
「ありがとうございます、大神様」
私は地面に膝をついて、祈りを捧げる。愛着が湧くように、また毎日お世話しよう。丁寧に世話をしているうちに、新しい畑にも愛着が湧くはずだ。
……ベンヤミン様に力のことを知られて大丈夫だったのかな。
彼の私への嫌悪感は、出会った頃のスヴァンテ様のものより強いように思えた。
それは淫婦が大事なスヴァンテ様を誑かした……という理由が大きいのだろう。
困ったな。腹いせにと誰かにばらされてしまったらどうしよう。
『やっぱり始末──』
「ダメですからね。大神様」
私の思考を読み取った大神様がぼそりと言うので、私はぐさりと釘を刺した。すると不服そうな気配が伝わってきた。
「……聖女、様」
ベンヤミン様のそんな声が聞こえて、私はそちらに視線を向ける。するとそこには──。
「も、申し訳ありませんでしたァ!」
謝罪をしながら思い切り土下座をしている、ベンヤミン様の姿があったのだった。
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