13 / 14
アルフォンスは思い返す1(アルフォンス視点)
しおりを挟む
僕が八歳の時、母が亡くなった。
母はとても美しく陽だまりのような雰囲気の人だった。
そしてとても優しい手をしていた。その手に頭を撫でられるのが僕は好きで、よく撫でてもらいに行ったものだ。
母の記憶が朧気になりつつある今でも、その手の優しさのことはよく覚えている。
父には貴族家の嫡男が母にそんなに甘えて、みたいなことを言われていたけど。あれは多分ただの焼きもちだ。父は母のことをとても愛していたからね。
母が亡くなった後……母に瓜二つの僕を見るのが辛かったのだろう。父の僕への態度がぎこちなくなった時期があった。
目を合わせてもらえず、話しかけても辛そうな顔をする。
幼い僕はそれが悲しくて、一人で部屋の隅で泣いていたら……もっと幼い妹に見つかってしまった。
それが恥ずかしくて『ごめんねビアンカ。あちらに行っていて』って僕は言ったのだけれど、妹は少しつり上がった猫のような目をキラキラと輝かせながらこちらへと近づいてきた。
『お兄様、大丈夫? どこか痛い? ビアンカがいるから勿論平気でしょ?』
落ち込んでいる僕に小さな手を差し伸べて少し高慢にビアンカは言ったんだ。
慰めるというのは不遜すぎるその態度。だけどそれがとても可愛くて、愛おしくて。
その日からビアンカは僕の天使になったんだ。
数年後。
僕と父が全力で甘やかしすぎたせいか、少しばかり我儘になってしまった妹を膝に乗せて僕は庭でお茶を楽しんでいた。
すると膝の上の可愛い僕のビアンカが青い顔をしたり大量の汗をかき出したり……何か様子がおかしいんだ。
「ビアンカ、さっきからどうしたの。気分が悪そうだよ?」
くるり、と妹の体をこちらに向ける。
すると世界で一番可愛いお顔と向き合うことになった。
……いつ見ても可愛いなぁ。
肌は雪のように真っ白で、湖面の色の大きな瞳は銀色の睫毛に縁取られてキラキラと輝いてる。唇は思わずキスをしてしまいそうな薄紅色で綺麗な形だ。
銀色の髪は櫛を通さなくてもいいんじゃないかってくらいにサラサラと指通りがよい繊細な感触をしている。
顔立ちは幼いのにすでに驚くほどに整っていて……うん。これは絶世の美少女だ。間違いない。うちのビアンカが世界で一番可愛い。
どうしよう何度見てもビアンカが可愛くて、僕はどうしていいのかわからないよ。
「おっ……お兄様!!! 大切なお話がございます、人払いを、人払いをしてくださいませ!!」
ビアンカは突然そんなことを言い出した。
すごい、ビアンカは天才なの? まだ君は五歳だよ。『人払い』なんて難しい単語いつ覚えたの?
僕の天使は可愛い上に天才なの? どうしよう、世界中に自慢してしまいたい。
ああ、でもうちのビアンカが可愛すぎるのが世に知れるのは……僕だけが知っていればいい、なんてことも思ってしまうんだ。
この矛盾はどう解消すればいいんだろうね。
「ふふっ、どうしたのビアンカ。人払い? 難しい言葉を知ってるんだね。賢いなぁ、さすが僕のビアンカ。本当にすごいよ! 可愛い上に賢いなんてまさに天使だね!」
僕がそう言いながら頬ずりするとビアンカは少し嫌そうな顔をする。でも嫌がる顔も可愛いんだ。どうしよう、ビアンカの可愛くないところなんて存在しないんじゃないかな!
「お兄様。大好きなお兄様と二人っきりに、ビアンカはなりたいですわ」
……ビアンカ、それは可愛すぎる。ダメでしょう。
どうして君は妹なのかな。僕は君がこんなに大好きなのに。
こんな気持ちを持つのはダメだってわかっているのに……僕は女の子としての君が好きなんだ。
そして人払いをした上でビアンカがしてくれた話は、到底信じられない話だった。
……他の人が、するのならね。僕はビアンカの言うことなら、全て信じたい。
しかも可愛いビアンカの命に関わることなのだ。
僕の全力をもって君の万難を排除するよ。
ビアンカ六歳の冬が訪れようとしている頃。
マクシミリアンという少年が屋敷へとやって来ると父が教えてくれた。
……本当にビアンカの言う通りになったね。
父はマクシミリアンの魔法の才能を買ってビアンカの将来の護衛兼執事として彼を雇い入れたそうだ。
僕は普段我儘を言わない子供であるとの自負はある。だけどこの時ばかりは我儘を言ってマクシミリアンを僕付きの従僕にしてもらった。
彼が妹に危険を運ぶ人物なら……最初から近づけなければいいのだ。
……普段何かをねだったりしない僕に我儘を言われた父が少し嬉しそうな顔をしていたのが、ちょっとくすぐったかったな。
そして冬のある日。マクシミリアンが屋敷へと訪れた。
夜の色を纏った美しい少年を目にした時、ビアンカは怯えたように僕の後ろに隠れてしまったけれど。
ビアンカの目に仄かに宿った彼への思慕のような色に、僕は気づいてしまった。
……ダメだよ、ビアンカ。君はあげない。
そんな気持ちが湧いた瞬間、僕はビアンカに口づけていた。
初めて触れたビアンカの唇はとても柔らかくて、そんなはずがないのに甘いような気がして。
僕は舌を伸ばしてその口中まで味わってしまった。
幼いからか体温が高いビアンカの口の中は、舐めるととても心地がいい。
夢中になって舌を絡ませたっぷりと貪って口を離すと……ビアンカは真っ赤な顔で酷く動揺していた。
その後もビアンカはマクシミリアンのことばかり目で追っていて。
彼にビアンカが取られるんじゃないかって、僕は気が気でなかったんだ。
母はとても美しく陽だまりのような雰囲気の人だった。
そしてとても優しい手をしていた。その手に頭を撫でられるのが僕は好きで、よく撫でてもらいに行ったものだ。
母の記憶が朧気になりつつある今でも、その手の優しさのことはよく覚えている。
父には貴族家の嫡男が母にそんなに甘えて、みたいなことを言われていたけど。あれは多分ただの焼きもちだ。父は母のことをとても愛していたからね。
母が亡くなった後……母に瓜二つの僕を見るのが辛かったのだろう。父の僕への態度がぎこちなくなった時期があった。
目を合わせてもらえず、話しかけても辛そうな顔をする。
幼い僕はそれが悲しくて、一人で部屋の隅で泣いていたら……もっと幼い妹に見つかってしまった。
それが恥ずかしくて『ごめんねビアンカ。あちらに行っていて』って僕は言ったのだけれど、妹は少しつり上がった猫のような目をキラキラと輝かせながらこちらへと近づいてきた。
『お兄様、大丈夫? どこか痛い? ビアンカがいるから勿論平気でしょ?』
落ち込んでいる僕に小さな手を差し伸べて少し高慢にビアンカは言ったんだ。
慰めるというのは不遜すぎるその態度。だけどそれがとても可愛くて、愛おしくて。
その日からビアンカは僕の天使になったんだ。
数年後。
僕と父が全力で甘やかしすぎたせいか、少しばかり我儘になってしまった妹を膝に乗せて僕は庭でお茶を楽しんでいた。
すると膝の上の可愛い僕のビアンカが青い顔をしたり大量の汗をかき出したり……何か様子がおかしいんだ。
「ビアンカ、さっきからどうしたの。気分が悪そうだよ?」
くるり、と妹の体をこちらに向ける。
すると世界で一番可愛いお顔と向き合うことになった。
……いつ見ても可愛いなぁ。
肌は雪のように真っ白で、湖面の色の大きな瞳は銀色の睫毛に縁取られてキラキラと輝いてる。唇は思わずキスをしてしまいそうな薄紅色で綺麗な形だ。
銀色の髪は櫛を通さなくてもいいんじゃないかってくらいにサラサラと指通りがよい繊細な感触をしている。
顔立ちは幼いのにすでに驚くほどに整っていて……うん。これは絶世の美少女だ。間違いない。うちのビアンカが世界で一番可愛い。
どうしよう何度見てもビアンカが可愛くて、僕はどうしていいのかわからないよ。
「おっ……お兄様!!! 大切なお話がございます、人払いを、人払いをしてくださいませ!!」
ビアンカは突然そんなことを言い出した。
すごい、ビアンカは天才なの? まだ君は五歳だよ。『人払い』なんて難しい単語いつ覚えたの?
僕の天使は可愛い上に天才なの? どうしよう、世界中に自慢してしまいたい。
ああ、でもうちのビアンカが可愛すぎるのが世に知れるのは……僕だけが知っていればいい、なんてことも思ってしまうんだ。
この矛盾はどう解消すればいいんだろうね。
「ふふっ、どうしたのビアンカ。人払い? 難しい言葉を知ってるんだね。賢いなぁ、さすが僕のビアンカ。本当にすごいよ! 可愛い上に賢いなんてまさに天使だね!」
僕がそう言いながら頬ずりするとビアンカは少し嫌そうな顔をする。でも嫌がる顔も可愛いんだ。どうしよう、ビアンカの可愛くないところなんて存在しないんじゃないかな!
「お兄様。大好きなお兄様と二人っきりに、ビアンカはなりたいですわ」
……ビアンカ、それは可愛すぎる。ダメでしょう。
どうして君は妹なのかな。僕は君がこんなに大好きなのに。
こんな気持ちを持つのはダメだってわかっているのに……僕は女の子としての君が好きなんだ。
そして人払いをした上でビアンカがしてくれた話は、到底信じられない話だった。
……他の人が、するのならね。僕はビアンカの言うことなら、全て信じたい。
しかも可愛いビアンカの命に関わることなのだ。
僕の全力をもって君の万難を排除するよ。
ビアンカ六歳の冬が訪れようとしている頃。
マクシミリアンという少年が屋敷へとやって来ると父が教えてくれた。
……本当にビアンカの言う通りになったね。
父はマクシミリアンの魔法の才能を買ってビアンカの将来の護衛兼執事として彼を雇い入れたそうだ。
僕は普段我儘を言わない子供であるとの自負はある。だけどこの時ばかりは我儘を言ってマクシミリアンを僕付きの従僕にしてもらった。
彼が妹に危険を運ぶ人物なら……最初から近づけなければいいのだ。
……普段何かをねだったりしない僕に我儘を言われた父が少し嬉しそうな顔をしていたのが、ちょっとくすぐったかったな。
そして冬のある日。マクシミリアンが屋敷へと訪れた。
夜の色を纏った美しい少年を目にした時、ビアンカは怯えたように僕の後ろに隠れてしまったけれど。
ビアンカの目に仄かに宿った彼への思慕のような色に、僕は気づいてしまった。
……ダメだよ、ビアンカ。君はあげない。
そんな気持ちが湧いた瞬間、僕はビアンカに口づけていた。
初めて触れたビアンカの唇はとても柔らかくて、そんなはずがないのに甘いような気がして。
僕は舌を伸ばしてその口中まで味わってしまった。
幼いからか体温が高いビアンカの口の中は、舐めるととても心地がいい。
夢中になって舌を絡ませたっぷりと貪って口を離すと……ビアンカは真っ赤な顔で酷く動揺していた。
その後もビアンカはマクシミリアンのことばかり目で追っていて。
彼にビアンカが取られるんじゃないかって、僕は気が気でなかったんだ。
48
お気に入りに追加
4,887
あなたにおすすめの小説
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?
もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。
王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト
悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。
山に捨てられた元伯爵令嬢、隣国の王弟殿下に拾われる
しおの
恋愛
家族に虐げられてきた伯爵令嬢セリーヌは
ある日勘当され、山に捨てられますが逞しく自給自足生活。前世の記憶やチートな能力でのんびりスローライフを満喫していたら、
王弟殿下と出会いました。
なんでわたしがこんな目に……
R18 性的描写あり。※マークつけてます。
38話完結
2/25日で終わる予定になっております。
たくさんの方に読んでいただいているようで驚いております。
この作品に限らず私は書きたいものを書きたいように書いておりますので、色々ご都合主義多めです。
バリバリの理系ですので文章は壊滅的ですが、雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
読んでいただきありがとうございます!
番外編5話 掲載開始 2/28
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
冤罪モブ令嬢とストーカー系従者の溺愛
夕日(夕日凪)
恋愛
「だからあの子……トイニに、罪を着せてしまえばいいのよ」
その日。トイニ・ケスキナルカウス子爵令嬢は、取り巻きをしているエミリー・ギャロワ公爵令嬢に、罪を着せられそうになっていることを知る。
公爵家に逆らうことはできず、このままだと身分剥奪での平民落ちは免れられないだろう。
そう考えたトイニは将来を一緒に過ごせる『平民の恋人』を作ろうとするのだが……。
お嬢様を溺愛しすぎているストーカー従者×モブ顔お嬢様。15話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる