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お兄様が実は〇〇〇だったのですが1※

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 お兄様の婚約のことを知った翌日。わたくしは倒れ、寝込んでしまった。
 どれだけショックだったのよ、情けない。
 お兄様の婚約が決まったのであればお兄様のことが諦められる。だから、これでいいのよ。
 ……いいはずなのに。

「ぅう……っ」

 じわり、と目尻に涙がせり上がり頬を伝って次々と流れていく。
 溢れる雫を何度も手で拭うけれど涙はまったく止まらず、終いには嗚咽まで漏れ出した。

「ずるい……っ。わたくしも、お兄様が好きなのにっ……」

 妹へのものではない、恋人への愛をお兄様に囁かれる誰かのことが、羨ましくて、妬ましくて、憎らしい。
 ……こんな浅ましい気持ちを抱くなんて、わたくしはなんて醜いんだろう。
 お兄様の『妹』になんて転生しなければよかった。
 そうよ、王子の登場シーンで『きゃあー! フィリップ王子だわ、素敵ぃ!』って言うだけの女生徒Aでもよかったじゃない! 神様のバカ!
 ……それはそれで、苦労したのかもしれないけど。

「ビアンカ、入るよ」

 そんなことを思いながらぐすぐすと涙でシーツや上掛けを濡らしていると、軽いノックの音と共にお兄様が部屋を訪れた。

「お兄様……」
「ビアンカ、大丈夫!? ああ……可哀想に、こんなに泣き腫らした目をして……」

 お兄様はわたくしの泣き腫らした顔を見ると慌てて歩み寄り、わたくしの頬を両手で挟んでから心配そうに眉を下げこちらを見つめた。
 美しい顔が近づいて来たかと思うと、お兄様は瞳から流れ頬を伝う涙を舌で次々と舐めとっていく。
 その柔らかでしっとりした舌の感触がくすぐったくて、わたくしは思わず身をよじらせた。

「お兄様、舐めちゃ嫌ですわっ……」
「ごめんね、美味しそうでつい……いや、えっと」

 美味しそうってなんなんですかお兄様……聞き逃してあげますけど。

「ビアンカ、体調が辛い? それとも悲しいことがあった?」

 お兄様は手を伸ばし、わたくしの頬を壊れ物を扱うような柔らかな動きでなぞった。次に髪を何度か手で梳いてから優しく頭をなでてくれる。
 お兄様の大きな手にふわふわとなでられ、せっかく涙が止まったのに涙腺はまた決壊してしまった。

「おにーさまっ……婚約するのですかっ……」

 感情に押し出されるように発したわたくしの言葉に頭をなでるお兄様の手の動きがピタリと止まり、困惑した顔を向けられた。

「えっ……どうして知って……」
「やっぱり、するのですね」

 わかっていたことでも、本人の口から聞くと尚更ショックだ。
 今のわたくしは涙まみれの汚い顔をしている……それがもっと涙でぐちゃぐちゃになるのは目に見えていたから。
 お兄様にこれ以上見られたくなくて上掛けの中に隠れようとしたけれど、それよりも早く奇麗な長い指で軽く顎を掴まれてお兄様に顔を覗き込まれてしまった。

「ビアンカは婚約が……嫌なのかな?」

 お兄様の必死な表情。そして何かを懇願するような視線に射抜かれ、わたくしは戸惑った。
 お兄様の婚約が嫌かと聞かれれば、嫌に決まってる。だから悲しくて、こんなに泣いたのだもの。

「やですっ……だってわたくしは……っ」

 お兄様の噛み付くようなキスに遮られ、言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

「ふぅっ……」

 いつもは優しいお兄様の唇が荒々しくわたくしの唇を捕らえ、何度何度も食み、吸い付く。
 その激しさに呼吸は絶え絶えになり大きく息をしようと口を開くと、にゅるり、と生き物のようにお兄様の舌が侵入した。
 前歯をゆるりと舐められたと思うと、深く唇を合わせられ一気に舌を差し込まれて、ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てながら口中を蹂躙される。
 お兄様らしくない喉奥まで犯す獣のようなキスに翻弄され、お兄様が口を離す頃にはわたくしは茫然としながらベッドの上で荒く息を吐いていた。

「おに……さま……どうしてっ……」
「ビアンカ、愛してるんだ。どうか……僕を受け入れて欲しい」

 そう言いながらお兄様は自分の上着を荒々しい動作で脱ぎ床に投げ捨ててから、寝台に乗り上げるとわたくしの上に覆いかぶさった。
 お兄様の奇麗な顔は今まで見たことないくらいに悲壮な表情で、その目元は泣く寸前かのように僅かに赤く染まっていた。
 というかこれって、お兄様に押し倒されてる……?
 愛してるって必死な顔で言われて押し倒されて、こんなのまるで女としてお兄様に求められてるみたいじゃない。

「お兄様、何をするの……?」
「君に今から、酷いことをする」

 訳がわからなくなり訊ねたわたくしに、お兄様はそう言うと苦しげに顔を歪めた。
 そして上掛けを剥ぎ取り、わたくしの小さな胸を薄いナイトドレスの上から両手で包み込んでやわやわと揉みしだく。
 お兄様の大きな手に触れられるのは恥ずかしいけれど心地がよくて、思わず切なげな息を漏らしてしまった。
 スキンシップが常に過多なお兄様だけどこういう性的ないやらしさを感じる部分には今まで触れて来なかった。
 ……つまりお兄様は今からわたくしを抱く。そういうことで……いいのよね?
 妻を迎えるお兄様がどういう気持ちでわたくしを抱くのかなんてわからないけれど……。
 浅ましくも嬉しいだなんて思ってしまう自分がいる。
 だって実の兄妹なんだもの。抱いてもらえるだけで、十分だ。
 処女を失ったわたくしはお嫁には行けなくなるのだろうけど、思い出を胸にお兄様を想いながら修道院で過ごすのも一つの幸せなのかもしれない。

「お兄様、わたくしを抱いてくれるの? 途中で嫌になって止めるだなんて言わない?」

 途中で血の繋がった兄妹だと我に返られ中断されてしまっても困る。
 そう思って必死にお兄様に問うと彼は不思議そうな顔でわたくしを見た。

「……ビアンカは僕に抱かれるのが、嫌じゃないの?」
「わたくしはお兄様を愛しているから……。思い出をもらって修道院に入るのも悪くないと思っていますわ」

 わたくしが頬を染めながら答えるとお兄様はぽかんと口を開けた。
 美形ってぽかんとした顔でも美形なのね……なんて思いながらマジマジとお兄様を眺めていると、お兄様は首を捻りながら少し唸って悩むような表情になった。

「待って、ビアンカ。何か君は誤解していない?」
「……誤解?」

 お兄様は一息つくと、わたくしに言い含めるようにゆっくりと言葉を紡いだ。

「……僕が婚約するのは、君となのだけど。伝わってなかったりする?」

 お兄様の言葉に、今度はわたくしがぽかんとする番だった。
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