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もののけ執事とお座敷少女1

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 朝ご飯を食べ終えた座敷ちゃんは、「遊んでくる」と言い残してふっと消えてしまった。
 急に出てきたり、急に消えたり……心臓に悪いことこの上ないなぁ。
 食器を洗ってから部屋に戻り、座卓の上にノートパソコンを置く。そしてホームwifiを設置したら、仕事の準備は完了である。
 引っ越しでバタバタしていたので、昨日はメールのチェックをしていない。
 締め切りはまだ先だしなにもきていないだろうな、と思いながらメーラーを立ち上げると……

「あれ? 新着五件? しかも……」

 昔仕事した編集プロダクションからの仕事の相談、取引先からの追加発注、SNSを見た会社からの見積もり相談……どれも新規の仕事に関するメールだ。

 これが、座敷ちゃん効果か!

 そんなことを感動を覚えながら、私はメールへの返信を手早く済ませた。
 どの案件も文字単価がよくて、正直とても助かる。
 ちなみに私のようなフリーランスのwebライターは、一文字いくらでお仕事を請け負っていることが多い。
 そしてその文字単価はライターの経験年数などによって、大きく左右されるのだ。
 駆け出しの頃は一文字一円以下のいくら書いてもお金にならない仕事などもやっていたけれど、現在では一文字平均五円から八円程度の単価でやらせてもらっている。
 二千文字サイズの記事を一日に一、二本程度納品できればその日は上々……というペースで仕事をしている、と言えば私の収入の想像はつくだろう。
 仕事がコンスタントに入りさえすれば、女一人が生きていくにはじゅうぶん足りる。
 これからは、家賃分の出費もないわけだし。

「今日は、あの案件を終わらせてしまいたいな……」

 テキストソフトを立ち上げる前に、ブラウザを立ち上げる。
 今からやるのは『街歩き』に関する記事だ。事前に取材もしているけれど、情報の補足のための調べ物がまだまだ必要だった。
 カタカタとキーボードに指を滑らせて、作業に没入していく。
 少しずつエンジンがかかっていくこの感覚が、私は好きだ。
 そしてそのまま……エンジン全開で走り続けてしまうことも多い。

「芽衣様、まだお仕事をしているのですか?」

 そんな声で集中を解かれたのは、二十三時を回った頃合いだった。
 声の方を見ると、夜音さんがすぐ隣に立っている。ぜんぜん、気配に気づかなかった……!

「今日中に終わらせたい仕事があって……」

 二千四百文字の記事は、現在その三分の二が埋まったくらいだ。調べ物に、思った以上に時間を取られてしまった。

「ご飯はちゃんと食べましたか?」
「いえ、その。……朝は食べました」
「朝から、食べていないんですね」

 夜音さんはため息をつくと、私の額をデコピンで弾いた。それは地味に痛い。

「休憩しましょう。休憩をちゃんと取らないと体に悪いですし、効率も下がります」
「はい、そうですね……」

 それは元彼にもよく言われていた。『芽衣は根を詰めすぎる時がある』と。

「芽衣様、今日はなにが食べたいですか?」
「……お鍋が、食べたいです」

 夜になって空気が冷えていたので、そんな言葉が零れてしまう。
 というか、今日も作ってくれるんだ。

「ふむ、台所にあるものでは材料が足りませんね。ちょっとあちらから持ってくるので、待っていてください」

 夜音さんはそう言うと、狐姿になって天袋に消える。
 そしてしばらくすると、中身がパンパンに詰まったビニール袋を口に咥えてから戻ってきた。
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