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御曹司とオタクと婚姻届
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部屋に着いた瞬間、私は思わず後ずさりしそうになった。
だって、この部屋いくらなの!
私は顎が外れるんじゃないかというくらい口を開けたまま、室内を見渡した。
広いリビングルームと、それに併設された同じく広々としたベッドルーム。
――ちなみに、ベッドはダブルベッドだ。これは見なかったことにしたい。
書斎のような部屋に、大理石で設えられた豪奢なバスルーム。リビングルームとバスルームは、夜景の見える大きな窓に面している。
こんな部屋を、栗生さんは『一晩私と過ごすため』だけに用意したのか。
私が拒絶して、帰る可能性だってあっただろうに……!
「これが、噂のスイートルーム……」
呆然としながらつぶやくと、そっと優しく肩を抱かれる。肩を抱く手は大きく男らしくて、男性とこんな親密な触れ合いをしたことがない私は身を固くしてしまう。
「大丈夫。緊張しないで」
優しく囁くと、栗生さんはリビングルームにある大きなカウチソファまで私を導いた。腰を下ろすと、それはびっくりするくらいに柔らかい。
彼は設置されたミニバーからウイスキーとチョコレートを持ってくると、緊張したままの私の前にそれを置く。
……このウイスキーも高いんだろうなぁ。
なんてぼんやり考えているうちに、グラスに琥珀色の液体が惜しげもなく注がれた。
「ウイスキー、飲める?」
「……お酒は、なんでも好きです」
私はどちらかというと上戸である。
種類にこだわらずなんでも飲むし、深酒での失敗をしたこともない。
緊張を解したい気持ちに押されて、私は遠慮せずにグラスを手に取った。
「いただきます」
「うん、どうぞ」
ぐいっと勢いよく煽ると、滑らかな液体が喉を焼きながら胃に落ちていく。鼻腔に感じる香りは深く、甘い。
「……美味しい」
「よければ、チョコレートもどうぞ」
勧められるままにチョコレートを口にすると、それは少しビターでウイスキーと合いそうな味だった。また琥珀色の液体を口に含むと、予想の通りそれは互いの味を引き立てる。
「美味しい?」
「美味しい、です」
隣に腰掛けた栗生さんと、肩同士が触れ合う。
……ソファは広いのに、なんだか妙に距離が近い。
「近いですよ、栗生さん」
「そう? そんなことないと思うけど」
きょとりとした顔で悪びれずに言われると、どう対処していいのかわからなくなってしまう。
そして私は……隣から感じる体温から逃避するために、追加でウイスキーを何杯も煽った。
――それが、たぶん間違いだったのだ。
いつもよりも、ハイペースで飲みすぎた。
緊張からか、酔いが回るのも早かったのだろう。
そしてすっかり――
「気持ちいい……」
「酔ってる? 美也ちゃん」
「酔ってにゃいですよぉ」
『食べてください』と言わんばかりの女が、出来上がってしまったのである。
だって、この部屋いくらなの!
私は顎が外れるんじゃないかというくらい口を開けたまま、室内を見渡した。
広いリビングルームと、それに併設された同じく広々としたベッドルーム。
――ちなみに、ベッドはダブルベッドだ。これは見なかったことにしたい。
書斎のような部屋に、大理石で設えられた豪奢なバスルーム。リビングルームとバスルームは、夜景の見える大きな窓に面している。
こんな部屋を、栗生さんは『一晩私と過ごすため』だけに用意したのか。
私が拒絶して、帰る可能性だってあっただろうに……!
「これが、噂のスイートルーム……」
呆然としながらつぶやくと、そっと優しく肩を抱かれる。肩を抱く手は大きく男らしくて、男性とこんな親密な触れ合いをしたことがない私は身を固くしてしまう。
「大丈夫。緊張しないで」
優しく囁くと、栗生さんはリビングルームにある大きなカウチソファまで私を導いた。腰を下ろすと、それはびっくりするくらいに柔らかい。
彼は設置されたミニバーからウイスキーとチョコレートを持ってくると、緊張したままの私の前にそれを置く。
……このウイスキーも高いんだろうなぁ。
なんてぼんやり考えているうちに、グラスに琥珀色の液体が惜しげもなく注がれた。
「ウイスキー、飲める?」
「……お酒は、なんでも好きです」
私はどちらかというと上戸である。
種類にこだわらずなんでも飲むし、深酒での失敗をしたこともない。
緊張を解したい気持ちに押されて、私は遠慮せずにグラスを手に取った。
「いただきます」
「うん、どうぞ」
ぐいっと勢いよく煽ると、滑らかな液体が喉を焼きながら胃に落ちていく。鼻腔に感じる香りは深く、甘い。
「……美味しい」
「よければ、チョコレートもどうぞ」
勧められるままにチョコレートを口にすると、それは少しビターでウイスキーと合いそうな味だった。また琥珀色の液体を口に含むと、予想の通りそれは互いの味を引き立てる。
「美味しい?」
「美味しい、です」
隣に腰掛けた栗生さんと、肩同士が触れ合う。
……ソファは広いのに、なんだか妙に距離が近い。
「近いですよ、栗生さん」
「そう? そんなことないと思うけど」
きょとりとした顔で悪びれずに言われると、どう対処していいのかわからなくなってしまう。
そして私は……隣から感じる体温から逃避するために、追加でウイスキーを何杯も煽った。
――それが、たぶん間違いだったのだ。
いつもよりも、ハイペースで飲みすぎた。
緊張からか、酔いが回るのも早かったのだろう。
そしてすっかり――
「気持ちいい……」
「酔ってる? 美也ちゃん」
「酔ってにゃいですよぉ」
『食べてください』と言わんばかりの女が、出来上がってしまったのである。
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