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第四部 〜止まった時間と動き出す歯車〜

第二百二話

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アルージェはカレンの様子を見ることなく無心で梯子を降り続けて、ようやく地面に足をつける。
「お待たせしました。何か変わった様子とかありますか?」

「いや、この部屋は何も無さそうだ」
アインはアルージェ達が降りてくる間に一通り部屋を見回ってくれていたらしい。

「なるほど。ならカレン教授が来たらあの扉の奥も確認しましょう。あっちから魔力が流れてきているように見えます」

「あぁ、そうだね。それにしてもカレン遅いな?」
アインが上を見上げようとした時、頭上から叫び声が聞こえてくる。

「いやぁぁぁぁぁ、助けてぇぇぇぇぇぇ!」
アルージェとアインが頭上を見ると、足を滑らせたのだろうか。
カレン教授が降ってきていた。

「はぁ、こうなるから普段から運動しろって言ってるのに」
アインはやれやれと首を振り、金色に輝く魔力を体に纏い跳躍する。
そのままカレンを華麗にお姫様抱っこで受け止めてスタッと地面に着地する。

「論文も大事だけど、ラーニャを見習ってたまには運動もしたほうがいいよ」
カレンを地面に下ろすとカレンはペタリと地面に座りこむ。

「そ、そうね。たまには出たほうがいいかもしれないわね」
カレンは相当怖かったのだろう。
アインの言葉に反発することなく、珍しく素直だった。

数分掛けて気持ちを整えて、何事も無かったかのように立ち上がる。

「それにしてもかなり長い梯子でしたね」
アルージェは梯子の方へ近づき、上を見上げる。

外からの光が入ってきているところは見えるが点としか認識できないほどだ。

「そうだね。僕もこんなに深いとは思っていなかったよ」
アルージェの隣でアインも上を見上げている。

「それよりもアルージェ分かる?この先から魔力が溢れてきてるわ」
カレンは梯子の反対側にある扉を睨む。

「はい、分かります。魔力探知マジックソナーで少しだけ様子を伺ってみますか?」

「えぇ、お願いするわ」

アルージェは魔力を操作して魔力探知マジックソナー発動する。

魔力探知マジックソナーで建物の構造は分かったが、部屋の中は魔力が充満していて何が有るかまでは確認することが出来なかった。

「建物の構造はわかりました。この先とんでもなく広い空間が広がってます。なんて表現したら良いだろう。歌うための大広間みたいな」

「あぁ、なるほど。元は教会だから聖歌隊とかがいたのかもしれないね。こんなに長い梯子っていうのは理解できないけど」

魔力探知マジックソナーで分からないんじゃ、実際にこの目で見てみるしか無いわね」

カレンはアインとアルージェに視線を移す。
「どうする?今ならまだ戻れるわよ?」

「戻ってどうするんだい?僕達が戻ってもここから闇の魔力が溢れ続けていることには変わりないんだろ?」

「そうね。けど王都から応援を呼べるかもしれないわよ。ダイヤ帯・オリハルコン帯の冒険者に任せることだって出来る」

「この闇の魔力がいつ町まで到達するかわからない以上、僕達で解決出来るならしたほうが良いと思います」
アインとアルージェは何が有るか分からない大広間に行く気満々だった。

アインは自分より人の為に行動する男。
依頼が終わって暗くなっていた森でアルージェを助けたのだって、行く先々で問題に首を突っ込んで仕事を増やすのだってカレンは隣でずっと見てきている。

アルージェも学園内で暴食スライムグラトニースライムが出た際に、周りの生徒を気にしながら戦っていたと聞く。

カレンは何となくこうなるんじゃないかと予想はしていた。

「はぁ・・・。そうね、聞くだけ無駄だったわね。なら行きましょうか」
カレンは杖を取り出す。

「さすがカレン。話が早い!」
アインも盾と剣を構える。

アルージェはアイテムボックスから可変式片手半剣トツカノツルギを取り出す。
「『可変式片手半剣トツカノツルギ・弐式=ヤタノカガミ』」
アルージェの言葉に呼応し、可変式片手半剣トツカノツルギの形状が変化する。

デゾルブ鉱石で出来た剣を手に持ち、ミスリルで出来た盾がアルージェの周りをフヨフヨと浮く。

「二人とも準備出来たみたいだね。それじゃあ行こうか」
アインが大広間への扉を開くとボワッと闇の魔力が噴き出す。

三人は警戒を緩めず中に入ると、中央付近で男の子が一人倒れていた。

アルージェが男の子に気付き、駆け寄る。
「ライナ!おい、ライナ!しっかりしろ!」
アルージェが呼びかけるとライナが目を覚ます。

「ん、んん。ここは・・・。」
目を開けて、周りを見渡す。
そしてアルージェに視線を向ける。

「ゲッ!なんで、お前が居るんだよ」

「アルージェ、知り合いかい?」
アインとカレンも後ろから駆け寄ってくる。

「知り合いというか、ミスティさんの弟でちょっと色々ありまして・・・」

「辺境伯様のお子さんか。君は早くここから出た方がいい」
アインが扉の方を指差し、ライナに逃げるように指示する。

「お前に言われなくても、それくらい分かってんだよ!すぐにでもこんなとこ出ていってやる!」
走って扉の方に向かい梯子を登っていくライナを三人は見送る。

「あれがブレイブライン家の跡取りになるかも知れないなんて、先が思いやられるわね」
カレンは呆れて、首を横に振る。
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