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第四部 〜止まった時間と動き出す歯車〜
第百九十二話
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「初めは少し不安だったけど、アルージェに頼んで本当によかった。本当にありがとう」
アインはアルージェに頭を下げる。
「いえいえ、アインさんは命の恩人ですから。これくらい気にしないでください!」
魔鋼への付与。
アルージェもこの鎧への付与で勉強になったのは事実だ。
そもそも魔鋼素材を手に入れるのもめんどくさいので、店を構えたりしないと触ることも難しいだろう。
「何度も調べたんですけど、アインさんの鎧は本当にブランクで何も付与されてませんでした。けどそれだけ付与効果があれば十分だと思います!さらに強化したくなったら刻印っていう手も有りますので、その時は是非僕にまた!」
アルージェは目を輝かせてアインを見る。
「ははは、そうだね。刻印で効果を追加したくなったら、また声を掛けるよ。報酬はこれでいいかな?」
アインは巾着型のアイテムボックスから巾着袋を取り出し、アルージェに渡す。
巾着袋を開き、アルージェは目をギョッとする。
「こ、こんなに金貨が・・・」
「僕はゴールド帯の冒険者だからね。後輩をタダ働きさせる訳ないだろ?しかるべき報酬だ。受け取っておいてくれ」
アインは爽やかな笑顔をアルージェに向けて、颯爽と屋敷に戻っていった。
異世界に転生してからこれまでお金のことほとんど気にしたことがなかった。
それはフォルスタ到着後にラベックさんに出会い割の良い仕事を振ってくれたから。
それはミスティさんと出会って本気でぶつかって、お互いの信念を賭けて戦ったから。
ここまで色々あったなぁとなんだか感慨深さを感じた。
「なんでもう終わり感出してるんだ。まだまだこれからやりたいこといっぱい有るだろ!」
アルージェは頬をペシっと叩き、気合を入れ直す。
「アインさんの鎧はひと段落したし、そろそろ僕が考える最強の槍についても考えないとな」
アルージェは意気揚々と別館に戻る。
別館に戻ると中からメイドが出てきた。
「あっ、こんにちはー!」
アルージェが人懐っこい笑顔で挨拶すると、メイドさんは壁側に避けて片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま「アルージェ様、こんにちは」と笑顔で返事してくれる。
アルージェはメイドさんの前を通り抜けて、そのまま別館の中に入る。
ここ一月くらいでメイド達のミスティに対する認識が変わったようで、ミスティがメイド達とよく話しているのを見かける。
ミスティも積極的にメイドさん達に挨拶したり、そのついでに世間話をしたりしているらしい。
なんの話をしているのかは全く教えてくれないけど、非常に良い傾向だと思う。
別館に入るとエマとミスティがソファに腰掛け紅茶を嗜んでいた。
「おっ、アルージェ戻ったか」
「はい、戻りました。さっきアインさんに頼まれていた鎧を渡したんで、やっと自分のやりたいことが出来ます!」
「アルージェ君のやりたいことってなんですか?」
ミスティの前に座っていたエマもアルージェに話しかける。
アルージェは仁王立ちして宣言する。
「ふふふ、聞いてください!僕が考えた最強の槍を作るんです!」
アルージェの後ろからババーンと効果音が聞こえてきそうである。
「なんだ。それじゃあいつもと変わらんではないか」
ミスティが紅茶を口の方へ運ぶ。
「ミスティさんの言うとおりですね」
エマも置いてあったクッキーを頬張る。
「いや、違いますよ!今回はかっこよさではなくて強さを求めるんです!ね?意味合いが全然違うでしょ?」
「でも付与をやってることには変わらんだろ?」
「・・・。まぁ、そうですね」
ミスティの言葉に何も言い返せなくなり、アルージェは言葉に詰まる。
「たまには私達との時間を過ごしてくれても良いと思うんだ。エマもそう思うだろ?」
「ミスティさん、ほんとその通りです!」
二人は言いたいことだけ言ってアルージェの方に視線を向ける。
二人の視線からは非常に強い圧を感じる。
「あぁ・・・。でも、最強の槍を・・・」
二人は更にアルージェに圧を送る。
「あっ!明日、明日一日空きました!うわー一日空くなんて僕計画性無いなー。何処かに明日一緒に遊んでくれる人いないかなぁー?」
ちらりと二人の方へ視線を移す。
「むっ、私も明日一日空いているぞ」
「私も空いてます!みんなで一緒にピクニックでも行きましょう!」
「えぇ、ほんとですか!二人とも空いてるなんて偶然ですね!なら僕料理長さんに明日サンドウィッチとか作ってもらえないか交渉してきますね!ルーネ!行くよ!何丸まって寝転んでるの!」
アルージェは丸まって眠っていたルーネを無理やり起こしすぐさま別館から本館に向かう。
アルージェはルーネに跨り、腕組みしながらぶつぶつと呟く。
「はぁ、危なかった。何とか危険は免れたね。まぁ確かに最近休んでなかったし、ちょうど良い気分転換になるかな。あっ、ルーネも強制参加だからね?」
「バウッ!?」
アルージェの言葉にルーネが驚く。
「当たり前じゃん!僕とルーネは一心同体。二人で一人だよ?一人だけお家でゴロゴロできると思ったら大間違いだからね!」
「ワウゥ・・・」
ルーネは本当にお家でゴロゴロと過ごそうとしていたらしい。
「そんな落ち込まなくても!あっ、ほら料理長に頼んだらシュークリーム作ってもらえるかもしれないし!」
シュークリームの言葉に耳をピンと立ててルーネが反応する。
「おっ、乗り気になったじゃん!よし、ならお願いしてみよ!」
ルーネとアルージェは勇足で炊事場に向かい、見事にシュークリームを勝ち取った。
アインはアルージェに頭を下げる。
「いえいえ、アインさんは命の恩人ですから。これくらい気にしないでください!」
魔鋼への付与。
アルージェもこの鎧への付与で勉強になったのは事実だ。
そもそも魔鋼素材を手に入れるのもめんどくさいので、店を構えたりしないと触ることも難しいだろう。
「何度も調べたんですけど、アインさんの鎧は本当にブランクで何も付与されてませんでした。けどそれだけ付与効果があれば十分だと思います!さらに強化したくなったら刻印っていう手も有りますので、その時は是非僕にまた!」
アルージェは目を輝かせてアインを見る。
「ははは、そうだね。刻印で効果を追加したくなったら、また声を掛けるよ。報酬はこれでいいかな?」
アインは巾着型のアイテムボックスから巾着袋を取り出し、アルージェに渡す。
巾着袋を開き、アルージェは目をギョッとする。
「こ、こんなに金貨が・・・」
「僕はゴールド帯の冒険者だからね。後輩をタダ働きさせる訳ないだろ?しかるべき報酬だ。受け取っておいてくれ」
アインは爽やかな笑顔をアルージェに向けて、颯爽と屋敷に戻っていった。
異世界に転生してからこれまでお金のことほとんど気にしたことがなかった。
それはフォルスタ到着後にラベックさんに出会い割の良い仕事を振ってくれたから。
それはミスティさんと出会って本気でぶつかって、お互いの信念を賭けて戦ったから。
ここまで色々あったなぁとなんだか感慨深さを感じた。
「なんでもう終わり感出してるんだ。まだまだこれからやりたいこといっぱい有るだろ!」
アルージェは頬をペシっと叩き、気合を入れ直す。
「アインさんの鎧はひと段落したし、そろそろ僕が考える最強の槍についても考えないとな」
アルージェは意気揚々と別館に戻る。
別館に戻ると中からメイドが出てきた。
「あっ、こんにちはー!」
アルージェが人懐っこい笑顔で挨拶すると、メイドさんは壁側に避けて片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま「アルージェ様、こんにちは」と笑顔で返事してくれる。
アルージェはメイドさんの前を通り抜けて、そのまま別館の中に入る。
ここ一月くらいでメイド達のミスティに対する認識が変わったようで、ミスティがメイド達とよく話しているのを見かける。
ミスティも積極的にメイドさん達に挨拶したり、そのついでに世間話をしたりしているらしい。
なんの話をしているのかは全く教えてくれないけど、非常に良い傾向だと思う。
別館に入るとエマとミスティがソファに腰掛け紅茶を嗜んでいた。
「おっ、アルージェ戻ったか」
「はい、戻りました。さっきアインさんに頼まれていた鎧を渡したんで、やっと自分のやりたいことが出来ます!」
「アルージェ君のやりたいことってなんですか?」
ミスティの前に座っていたエマもアルージェに話しかける。
アルージェは仁王立ちして宣言する。
「ふふふ、聞いてください!僕が考えた最強の槍を作るんです!」
アルージェの後ろからババーンと効果音が聞こえてきそうである。
「なんだ。それじゃあいつもと変わらんではないか」
ミスティが紅茶を口の方へ運ぶ。
「ミスティさんの言うとおりですね」
エマも置いてあったクッキーを頬張る。
「いや、違いますよ!今回はかっこよさではなくて強さを求めるんです!ね?意味合いが全然違うでしょ?」
「でも付与をやってることには変わらんだろ?」
「・・・。まぁ、そうですね」
ミスティの言葉に何も言い返せなくなり、アルージェは言葉に詰まる。
「たまには私達との時間を過ごしてくれても良いと思うんだ。エマもそう思うだろ?」
「ミスティさん、ほんとその通りです!」
二人は言いたいことだけ言ってアルージェの方に視線を向ける。
二人の視線からは非常に強い圧を感じる。
「あぁ・・・。でも、最強の槍を・・・」
二人は更にアルージェに圧を送る。
「あっ!明日、明日一日空きました!うわー一日空くなんて僕計画性無いなー。何処かに明日一緒に遊んでくれる人いないかなぁー?」
ちらりと二人の方へ視線を移す。
「むっ、私も明日一日空いているぞ」
「私も空いてます!みんなで一緒にピクニックでも行きましょう!」
「えぇ、ほんとですか!二人とも空いてるなんて偶然ですね!なら僕料理長さんに明日サンドウィッチとか作ってもらえないか交渉してきますね!ルーネ!行くよ!何丸まって寝転んでるの!」
アルージェは丸まって眠っていたルーネを無理やり起こしすぐさま別館から本館に向かう。
アルージェはルーネに跨り、腕組みしながらぶつぶつと呟く。
「はぁ、危なかった。何とか危険は免れたね。まぁ確かに最近休んでなかったし、ちょうど良い気分転換になるかな。あっ、ルーネも強制参加だからね?」
「バウッ!?」
アルージェの言葉にルーネが驚く。
「当たり前じゃん!僕とルーネは一心同体。二人で一人だよ?一人だけお家でゴロゴロできると思ったら大間違いだからね!」
「ワウゥ・・・」
ルーネは本当にお家でゴロゴロと過ごそうとしていたらしい。
「そんな落ち込まなくても!あっ、ほら料理長に頼んだらシュークリーム作ってもらえるかもしれないし!」
シュークリームの言葉に耳をピンと立ててルーネが反応する。
「おっ、乗り気になったじゃん!よし、ならお願いしてみよ!」
ルーネとアルージェは勇足で炊事場に向かい、見事にシュークリームを勝ち取った。
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