上 下
163 / 221
第四部 〜止まった時間と動き出す歯車〜

第百六十一話

しおりを挟む
エマはアルージェの無駄のない殺し方をぼーっと眺める。

「エマ大丈夫?」
返り血も浴びることなく、アルージェは短剣に付いた血を払う。

アルージェに声を掛けられ、エマはビクッと体を震わす。
「あっ、はい。すいません、ボーとしてしまって。アルージェ君の手際が良かったので驚いてただけです」

「ん?そうかな?昔、森での戦い方教えてもらったから、それかなぁ?」

「アルージェ君、色々と学びすぎじゃないですか・・・」

「あはは、まぁ気になったことは全部やろうって決めてるからね!さぁ、集落見つけよう」
ゴブリンを殺した場所から五分程歩いたところに集落を発見した。

「あれだね。入り口は・・・、あそこだけかな?」
ゴブリンの集落は、周りを岩壁に囲まれた場所に作られている。

アルージェとエマは高台から集落の様子を伺う。

「作戦なんだけど・・・?」
アルージェがエマから返事がないことを不審に思い、視線をエマに向ける。

エマは緊張で体が震えていた。

「エマ、大丈夫?」
震えるエマの手をアルージェが握る。

「怖かったら、ここで待っててもいいよ?」
エマはアルージェの手の温もりを感じ、少し震えがおさまる。

「これからのことを考えたら、ここで慣れないとダメですよね。アルージェ君ありがとうございます。落ち着きました」

「そっか、ならちゃっちゃっと終わらしちゃお!んで、フォルスタに戻ったら稼いだお金でミスティさんに内緒でご飯行こう!」
アルージェは自分の出来る範囲でエマを元気付ける。

「は、はい!」

アルージェはエマの体の震えが無くなったのを確認して、二つの作戦を提案する。

一つはアルージェが広域殲滅魔法を発動して、ほとんどのゴブリンを倒してから進む方法。
もう一つは姿を隠して一体ずつ確実に仕留めていく方法。

前者は時間をかけずに短期決戦で決着をつける方法なので、イレギュラーが発生する可能性が非常に高い。
後者は時間はかかるが確実に仕留めていくので、イレギュラーが発生する可能性が少ないが、集中力を欠いてしまえば失敗する。

「ア、アルージェ君は広域殲滅魔法を発動したら動けなくなりますか?」

「いや、動けなる程では無いと思う。けど、魔力の大半を消費するから怠くなって、少し動きは鈍くなるかもしれない」

「そうですか。なら、私がアルージェ君を守りながら戦います。だから広域魔法の準備お願いします」

「わかった。エマに僕の命預けるよ」
アルージェが体内の魔力を操作する。

エマは新魔法体系で魔法を学んだので、アルージェの中で膨大な量の魔力が動いているのが分かる。

「本当に綺麗」
アルージェの魔力を見て、エマは呟く

「よし、いつでも発動可能。集落全域に破裂する小球ブラストボールを降らせるね。魔法が終わったら、二人で中に入って全滅させよう」

「いつでも、いけます」
エマがアルージェをグッと見つめる。

「分かった。行くよ」
アルージェが練っていた魔力を解放して魔法を行使すると、数多の魔法陣が展開されてゴブリン集落の空を覆いつくす。

そして、全ての魔法陣から破裂する小球ブラストボールが降り注ぎ、ゴブリンの集落を襲う。

ゴブリン達は初め空の魔法陣をただ眺めているだけだった。
だが、そこからブラストボールが降ってきたことで攻撃だと認識する。

だが空からの攻撃に打つ手はなく、ただ一方的に破裂する小球ブラストボールの餌食になる。

「そろそろ魔法が終わるよ。エマ準備はいい?」

「はい!いつでもいけます」
障壁を出す魔法で拳も覆う手甲と脛当てを形作り、全身に軽微な身体強化を施す。

「行くよ!」
アルージェがエマの手を握る。

「な、何するんですか・・・?」
エマは首を傾げる。

アルージェは手を握ったまま走り出し、崖を飛び降りる。

「きゃー!!!!」
エマが絶叫する。

アルージェは魔力を操作して、徐々に落ちる速度を落としていく。

ふわりと着地してから、アルージェもアイテムボックスから斧と剣を取り出す。
そして身体強化を全身に施す。

魔法が収まり、ゴブリンの集落はひどい有様だった。
それでも生き残ったゴブリンが他のゴブリンを必死に救助していた。

だが、一匹のゴブリンが集落に猛スピードで近寄ってくる二人を見てゴブリンが叫ぶ。

他のゴブリンも叫び声に気付き、アルージェとエマを見て救助の手を止めて臨戦態勢になる。

「思ったより生き残ってるね。エマ、気を抜かないように」

「はい!アルージェ君も魔力少ないからって、やられたりしないでくださいね」

「うわっ!そんなこと言うんだ!さっきまでエマ震えてたじゃん!」

「し、知りません!」
エマは先行して障壁魔法を纏った拳でゴブリンを殴りつける。
ゴブリンは一撃で頭が凹み、絶命する。

ゴブリンがエマに集まる。
だが、エマは囲まれないように、常に一対一で戦えるように立ち回り。
一体ずつ確実に蹴りや殴りで仕留めていく。
刃物を持ったゴブリンに対しては手甲で刃物を受け流し、反撃をする。

だが、どれだけエマが一対一になるように立ち回ってもゴブリンは数で圧倒し、徐々にエマを囲んでいく。

そして一斉に攻撃して仕留めようとするが、後ろにも目が有るのではないかと思う動きでエマは後ろからの攻撃にもしっかり対応する。

ゴブリン達はエマに攻撃を当てられずに次々と仕留められる。

「エマ、いつの間にそんな武闘派に・・・。すごっ!」
アルージェは斧でゴブリンの刃物を受け流して、剣でゴブリンの首を斬りながらエマの活躍に驚く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

処理中です...