上 下
62 / 221
第三部 〜新たな力〜

第六十話

しおりを挟む
フィーネさんと食事に行った翌日から王都へ行くための準備に入る。
手持ちのアイテムボックスの中には武器がかなりの量入っているので、
最長3ヶ月の長旅になる予定なのでなるべく準備はしておきたいが、
欲しい物全てを入れることはできないので、多少は現地調達ができそうな食料品などは減らしておく必要があるだろう。

ミスティさんはギルドマスターの部屋で出ていったきり見ていないが、
父に話をすると言っていたので恐らく家に戻っているのだろう。

「どれくらいでミスティさん達戻ってくるんだろう」
アルージェはルーネを撫でながら呟く。

ルーネは丸まり、尻尾を振りながら目を瞑っている。

「ん?そもそも、辺境伯は一度しか会ったことが無いただの平民の男に愛娘を預けるんだろうか、いや無いな、これは辺境伯から許可が出ずに一緒に王都に行けないのワンチャンあるな、ルーネと2人なら王都までもきっとあっさり着くだろうしそっちの方が助かるな」
どこの馬の骨かわからない男に愛娘を預ける父親は居ないだろうとタカを括る。


「とりあえず、テントとかは遺跡に届けに行った時に買ったのがあるし、その他の必需品探しに行こうかな」

アルージェが立ち上がると、ルーネも目を開けて、立ち上がり伸びをする。

「よく考えたら必要な物自体は大体揃えてるから、同じもの買い足すくらいかな、それと少しお金も稼いどこうかな、きっとどれだけあっても足りないだろうし、またしばらくラベックさんのとこでお世話になろう!よしそうと決まれば行こうルーネ!」

そして、ミスティ達から連絡がないまま1週間が経過したが、
今日の仕事が終わってからで問題無いのでギルドに来て欲しいと通達があった。

この間にラベックさんのところで運送の仕事をしていたので、
アルージェの懐はかなりホクホクで、ルーネは毎日シュークリームを食べられてホクホクで非常に満足度の高い1週間だった。

ただ、王都に行くことをラベックさん話したときはかなり大変だった。
まずは行かせまいと引き留めから始まり、従業員達からの「飯いこうぜ!ここ居心地最高だろ!胃袋掴むぜ!」作戦、極め付けはラベックの娘さんリリィさんからの色仕掛けでどうしても手放したくないようだったが、全てを鋼の精神で乗り切り、ラベックさんも今回は諦めてくれた。

「初めて仕事に来た時、そして今回二連敗だアルージェ、ここまで頑なだとは思わなかったぜ!だが俺は諦めねぇ!王都から戻ってくることがあればまたウチにきてくれや仕事は捌ききれない程あるからよ!王都にいっても達者でな!ハハハハッ!」
アルージェの背中をバンバンとラベックは叩く。
間違いなく紅葉が出来ているだろう。

「では、これで失礼します!」
ラベックさんに頭を下げて、倉庫から出ていく時、従業員がアルージェとルーネに声を掛けてくれて温かい気持ちになった。
中には最後になるかもしれないからルーネをモフモフさせて欲しいという従業員もいて、
ルーネは満更でも無さそうにモフモフさせてあげていた。

「ほんと、居心地いいんだよね、ここ」
アルージェが呟く。

ルーネをモフモフしていた従業員は満足げに
「あんがとな!ルーネ最高!モフモフ最高!」と言い残し仕事に戻っていってルーネもこちらに戻ってきた。

「フンスッ!」
自身の毛並みを自慢するかのように鼻息が漏れる。

「ルーネも満足したみたいだね!それじゃあギルドに行こうか」
ルーネに跨り、ギルドへ移動を開始する。

ギルドに到着すると見覚えのある馬車が停まっていた。

バァンッとウェスタンドアを開くと、
音に反応してギルドにいた人が入り口を見る。

アルージェはそんなことお構いなくすぐに対応してもらえそうな受付がないかを見渡していると、奥からふわふわ茶髪の元気っこの受付嬢さんがこちらに気付きフィーネさんに声をかけに行っているのが見えた。

「あれ?このパターン夢で見たかな?デジャブ?」

奥からフィーネさんが笑顔で近づいてくる。

「アル君、今日もお疲れ様!ミスティさんが個室で待ってるわよ、ほら行きましょ」
フィーネはアルージェの手をとり個室へ移動を始める。

手を繋いで向かうのもだいぶ慣れてきたな、周りなんていつものことだと気にしてもないんだもんな。
人間の適応力ってすげぇよ!

個室前でフィーネが止まりノックをすると、「どうぞ」と返事があったので、
「失礼します」と扉を開けて入る。

アルージェとルーネもフィーネに続いて入ると
中にはミスティさんとマイアさん、それとブレイブライン辺境伯が優雅に紅茶を飲んでいた。

「え!?」
辺境伯がいると思わず、声が出てしまう。

「配達依頼の時以来だな、アルージェ君と言ったか、そんなとこに突っ立ってないで座りたまえ」

嫌な予感しかしないが、言葉に従い辺境伯の向かい側に腰をかける。

「それで早速だがアルージェ君、娘に物品の配達を依頼しただけでどうやったら魔法契約を結ぶことになるのかな」

「あー、えーと、僕から言い出した訳ではなくて・・・」

「ミスティが赤の他人である君の生活を保護すると言い出したということかね」

「まぁ、そういうことですね、経緯をお伝えさせていただいてもよろしいですか?」

「いや、必要ない、そこはミスティから全て聞いたよ、それを聞いて少し君に興味が出てね、命を救ってくれたんだろ?」

「僕が何かしなくてもミスティさん達ならどうにかなっていたかもしれないので命を救ったと言えるほど大層なことではないかもしれません」

「ふっ、具体的にどのようにして助けたのか聞きたいところだが、ミスティも君も何かを隠しているのは明白だな、まぁいい」
そういうと辺境伯はフィーネの方へ目線を送り、
「ギルドマスターに訓練場が空いてるか確認してくれないか?」

「えっ?訓練場ですか?」
フィーネは一瞬動きが止まったが、そのまま部屋から出てギルドマスターに確認にむかう。

「さて、アルージェ君、私は辺境伯だ、つまりこの国境に近い街フォルスタと周辺一帯が私の領地だ、必然的に戦いが起こった時すぐに対処出来るように備えている」

「えぇ、当然そのように理解しております」
アルージェは嫌な予感がするなぁと思いながら答える。

「そのせいか我が一族は少し変わった風習があってね、ーーー強いものが正義なんだ、何か気に食わないことがあれば決闘で決着をつける、変わっているだろう」

「そ、そうですね、すごく変わっていると思います」
目線を辺境伯から逸らす。

「是非ともミスティとマイアの命を救ったその力を見せてほしい」
辺境伯から殺気?オーラ?何かはわからないがアルージェに敵意が向けられる。

ドアがガチャリと開くとそれは収まった。

「辺境伯様、ギルドマスターに確認したところ訓練場は空いているようです」

「わかった、すぐに向かうとしよう、アルージェ君、受けるという認識で問題ないか?」
辺境伯がアルージェに確認をする。

辺境伯、外敵が侵攻してきた際に、本隊が到着するまで持ち堪えることが強いられる。
その為、武に対する思いは貴族の中では随一だと分かる。
それはつまり武に対して誠実で力こそ全てを体現する、言っていた風習も理にかなっている。

そこまで武に向き合ってきた辺境伯にどこまで対抗できるかはわからない。
幼少期から剣を振ってきたが、恐らく辺境伯だって同じだろう。

そこに辺境伯の一族が培ってきた技術、経験、太刀打ちできないとは思うがどこまで通用するのかは知りたい。


「君のその顔」
ブレイブライン辺境伯が指摘する。

無意識の内に笑っていたようだ

「武の人間だな」
辺境伯は嬉しそうに笑う。

「辺境伯と剣を交えられるなんて光栄です!」
アルージェは自身の感情を抑えられず大きな声で返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...