上 下
11 / 221
第一部 〜始まり〜

第十話

しおりを挟む
グレンデがカンカンと農具を修理している傍らで、アルージェが目をキラキラと輝かせながらグレンデを見つめている。

「そんなにマジマジと見られるとやりづらいぞい」
最近は弟子も取らず一人で黙々と作業をしていたので、久しぶりに見られながら作業にグレンデは戸惑う。

「まぁこんな感じじゃ。見てて楽しいか?」
グレンデは手を止めて、アルージェと向き合う。

「楽しい!なんでかわからないけど、鍛冶ってすごく興味があるんだよね!」
鍛冶場にあるもの全てが新鮮で全てが懐かしいそんな気持ちでアルージェは鍛冶場を見渡す。

「小さいのに珍しいな!カカカカ!儂が見てやるから形だけでも少しだけやってみるか?」
グレンデは小さい子供によくあるちょっとやったら満足するあれだろうと考え、少しだけ触らせてみることにする。

「いいの!?やりたい!!」
鍛冶場の外から見ていたアルージェは中に入ってくる。

「ふむ、まずはこのハンマーからやってみるか。普通お主くらいの歳だとまだ厳しいじゃがな。フリード達に鍛えられてるおかげか、いい具合に体が出来とるからの。んじゃやってみるか!」

「うん!!」

アルージェはグレンデの指導の下、言われたことを淡々とこなしていく。
初めはグレンデもお遊び程度でやっていたが、アルージェがなかなかに筋がいいので指導に熱が入っていく。

「おうふ!なんじゃかお主の筋がいいから儂も楽しくなってしもうて、めちゃくちゃ教え込んでしまったわ。農具の修理があっという間にできてしまったな・・・。どうじゃろ、剣術はやめて儂の弟子にならんか?お主なら、今から始めれば余裕で王都でも自分で店構えられるくらいの腕にはなりそうなんじゃがなー」
グレンデは王都にいた時の癖でつい誘ってしまった。

「剣術はやめられないよ!でも、鍛冶って楽しいね。やりたいけどなぁ・・・。あっ、でも僕ロイさんに弓教えてもらって、お父さんとお母さんに剣教えてもらって、あんまり時間とれないかもしれない・・・。」

「ふむ、そうか残念じゃ・・・。一応儂の方からもフリードに声を掛けてみるかのぉ。やりたいっていう気持ちはあるんじゃな?」

「できるならやってみたいよ!カンカンするの楽しかったし!自分で自分の武器作れるなんてすげぇじゃん!」
アルージェは目を輝かせながら答える。

「ふむ、なら儂からも聞いてみるかのぉ」
グレンデは汗だくの服を脱ぎ体を拭き、外に出る準備を始める。

「今からいくの??」

「んあ?そうじゃな、こういうのは早いうちから始めたほうがいいからの!よし準備完了じゃ!」

グレンデ宅から出るとき修理した農具をうんしょうんしょとアルージェが持ち上げようとしていると、それに気付いたグレンデが寄ってきて軽々と全部持ってくれた。
アルージェの家に向かう。

「お主は小さいのに色々としてるんじゃな。少しびっくりしたわい。お主位の子達はあの丘の上に集まって遊んでいるじゃろうに」

「シェリーとは毎日剣の打ち合いして遊んでるよ?シェリーのお家に行ったら弓で的当てもしてるし、僕もずっと遊んでるよー?」
アルージェは不思議そうに答える。

「そうかそうか、お主にとっては剣を学ぶことも弓を学ぶことも遊びという認識なのか。それは長続きするわな。楽しそうでなによりじゃな!」
グレンデはアルージェの言葉に頷き、呟く。

「シェリーもいるし、毎日楽しいよ!あっ、お家見えてきたよ!」

「おぉ、ほんとじゃな。フリードは今家にいるのかのー??」

「僕が農具持って行ったときは畑でお仕事してたけど、もう終わって戻ってきてるはず!」
アルージェはトテトテと家に駆けていく。

「ただいまー!」
アルージェの声を聞いて、奥の部屋からサーシャがひょっこりと顔を出す。

アルージェはサーシャに抱き着き、顔を見る。

「あらっ、おかえりー。思ってたよりゆっくりしてたのねぇ」
サーシャはアルージェを抱きしめてアルージェを見下ろす。

「はじめてのおつかいお疲れ!」
フリードもアルージェを労う。

抱きつくアルージェにサーシャは微笑む。

後から農具を持ったグレンデが家に到着する。
「よう、サーシャ元気にしとったか」
農具を玄関に置き、グレンデがサーシャに声をかける。

「あら、グレンデさんどうしたのー?なんだか久々に会うけど見た目全然変わらないわねぇ、羨ましいわー」

「お邪魔するぞ。儂から見たらサーシャも大して変わってる様にはみえんけどな」

グレンデの声を聞きフリードも奥からこちらへ移動してきた。
「おっ、どうしたんだ爺さん。家から出てくるなんて珍しいな」

「儂だって酒を買いに行ったり、外にちゃんとでとるわい!」

「あはは、そうか悪い悪い!んで、久々に顔でも見に来たって感じじゃねぇな。なんかあったか?」

「あぁ、アルージェのことなんじゃが。今日、儂の家で遊び半分で鍛冶をさせてみたんじゃがな。これがなかなか、いやだいぶ筋がよくてな。儂のところに修行に来てもらえんかなと思って、頼みに来たんじゃよ、聞いたところまだ小さいのに色々とやってるみたいじゃからの」
グレンデはアルージェに視線を向ける。

「んー、まぁ別に週に一回、二回ならいけるんじゃないか?毎日何かしらすることになって休息日が無くなるが、アルはどうしたいんだ?」
子供にしてはハードだがアルージェの意思を優先しようと、フリードはアルージェに確認する。

「鍛冶やってみたい!!」
アルージェは元気よく答える。

「そうかそうか、ならやってみてもいいんじゃないか?将来、何をするか選ぶのはアルだしな、選択肢は多い方がいい」

「ホント!?やった!」
嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねているアルージェを見て、サーシャもにっこりと微笑む。

「なら、ちょっとアルージェの為に用意するわい。準備が終えたら、また儂から声を掛けるからの!」
グレンデはいい返事が聞けてそそくさと帰ろうとする。

「まぁ、待てよ爺さん。せっかく来たんだ、飯でも食っていきなよ。大したもんはだせないが、たまには思い出話でもどうだ?」

「んあ?そうじゃな、せっかく来たし話でもするか。それで酒はあるんじゃろうな?」
グレンデは立ち止まり、一瞬考えてから提案に乗ることにした。

ドワーフ族は飯はほどほどで酒をガバガバと飲むものが多く、グレンデもそのタイプだ。故に酒の心配をしていた。

「今日だけなら爺さんを溺れさせることもできるぜ」
フリードはニィと笑って、奥に置いてあった酒樽を親指でチョイチョイと指す。

「はん、笑わせるわ。あれくらいなら夜の晩酌だけで飲み干せるわい!」
グレンデは上機嫌で、食卓の椅子に腰かける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...