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10. 恋慕
➁ 尾張上屋敷
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築地の尾張徳川家蔵屋敷。
膨大な数の家臣団を支える扶持米や物産が、毎日大量に運び込まれて蓄えられている。東面を江戸湾に、南を汐留橋へ繋がる築地川に囲まれた埋め立て地に建つこの屋敷には、戸山の下屋敷で進行中の豪華な庭園作りの為に追い立てられるようにして流れてきた下士や中間らに紛れ、胡乱な連中も巣食っていた。
二代藩主光友が戸山下屋敷の庭園作りに没頭しているのを良い事に、嫡男・綱誠はこの蔵屋敷に密かに自分の居室を設け、御伽衆率いる風魔一統の隠れ蓑に提供していた。
綱誠は光友の次男にして、母は正室で三代家光公の息女である。尾張家は御三家筆頭でもあり、五代綱吉公に嫡子が無い以上、次期将軍家の座は綱誠が継いで然るべきである。
だが、綱吉公は娘可愛さに娘婿である紀州家嫡男・綱教を跡目に据えようとしていた。
それを助長しているのが、目の前で綱誠に鞭打たれて悶絶している男、柳沢保明であった。
増築された蔵の一角で、天下の美童と呼ばれた男が鞭打たれ、呻き声を上げ、賢しらな顔を苦痛に歪ませる姿は、綱誠の劣情を大いに煽った。
「切れ者よ、剃刀よなどと祭り上げられても、所詮は卑しい出の尻大名よ。ほれ、もそっと悦い声で啼いてみせよ、ほれ、ほれ……」
梁から垂れる鎖に両手を高小手に縛られ、両膝を床についた屈辱的な姿で裸体を晒す保明を、綱誠は執拗に陵辱した。
保明は遠のきそうになる意識を何とか保たせる為に舌の先を軽く噛んで耐えていた。
綱誠の執念深い性質の現れか、肉が削げ、血まみれになり、保明の菊門が既に出血して爛れていても、綱誠は陵辱の手を緩めようとはしない。
これが徳川の……忌むべき血なのだ。
保明は嬲られながら、己が一生を賭けて奉公の限りを尽くしてきた徳川家というものが一体何だったのかと、虚しい思いを抱えていた。
「しくじったぞ若殿、ここも直に嗅ぎ付けられる」
そこへ、当の保明に扮していた筈の紅丸が駆け込んできた。
綱誠は興を削がれたことで唸り声を上げ、やっと消沈した逸物を怠そうに納めた。
「この役立たずが。尾張柳生の猛者共を預ける故、うるさい蠅は叩き潰せ。保明は渡さぬ、地下牢に押し込めておくのじゃ」
気分を害した綱誠は腹立たし気に紅丸の腹を蹴り、小姓らに守られながら間もなく蔵屋敷を去った。
膨大な数の家臣団を支える扶持米や物産が、毎日大量に運び込まれて蓄えられている。東面を江戸湾に、南を汐留橋へ繋がる築地川に囲まれた埋め立て地に建つこの屋敷には、戸山の下屋敷で進行中の豪華な庭園作りの為に追い立てられるようにして流れてきた下士や中間らに紛れ、胡乱な連中も巣食っていた。
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だが、綱吉公は娘可愛さに娘婿である紀州家嫡男・綱教を跡目に据えようとしていた。
それを助長しているのが、目の前で綱誠に鞭打たれて悶絶している男、柳沢保明であった。
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「切れ者よ、剃刀よなどと祭り上げられても、所詮は卑しい出の尻大名よ。ほれ、もそっと悦い声で啼いてみせよ、ほれ、ほれ……」
梁から垂れる鎖に両手を高小手に縛られ、両膝を床についた屈辱的な姿で裸体を晒す保明を、綱誠は執拗に陵辱した。
保明は遠のきそうになる意識を何とか保たせる為に舌の先を軽く噛んで耐えていた。
綱誠の執念深い性質の現れか、肉が削げ、血まみれになり、保明の菊門が既に出血して爛れていても、綱誠は陵辱の手を緩めようとはしない。
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「この役立たずが。尾張柳生の猛者共を預ける故、うるさい蠅は叩き潰せ。保明は渡さぬ、地下牢に押し込めておくのじゃ」
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