あなたの作品をもう一度

本編

伝えたい想いを言葉に

「私はそれなりに様々な人を取材してきました。その中には私達では考えられない思想や理念を持つ人もいる。はたまた『報道する上ではこういうのがベストだろうけど、きっとこの人は違うんだろうな』と、多種多様な人々の関わりや過ごす様子を観察してきたからこそ確信できることがあるんです」
　北島は一泊を置き、真剣な眼差しで言った。「それは、相手のことを分かりきることは出来ないということです」
　「故に誤った解釈や歪んだ結論に辿り着いてしまう。しかし、そういった歪みのある見え方をした本人の対象者への印象も嘘ではない」
　「そして、誰しもが無自覚に、無作為に、無意識のうちに状況や心情など柊さん本人にしか分からない部分を表面的に分かる情報だけで点と点を強引に結びつけて決めつけることがあるんです」そういうと北島は少し微笑みこういった。
　「だからね、柊さん。貴方が書きたいと思う小説を書いてください。もちろん、『誰の意見も聞くな』なんて乱暴なことは言いません。それでも、柊さんが良いと思う小説を書き続けて良いんです。顔も見たことのない人達の事なんて気にしなくていいんですよ」「続編だからって前回を越えなければならないわけではない、こんな展開なら楽しそうだなと柊さんの思う小説を書いてくれればいいんです。私は貴方が書く小説がまた見てみたいんです」
　「僕の…書きたいと思う小説…か…そういえば書きたいと思ったアイデアも全部ボツにしてたんだったな…」「そっか…全部僕の好きだと思う小説でいいのか…」気づけば、柊の目からは一筋の涙が流れていた。
「…！あ、あれ？お、おかしいな…なんでこんなっ…」
　「さっきも言った通り私も柊さんの全てを把握しているわけではない。それでもこれは、言ってもいいと思うので言います。本当に大変でしたね。味方も頼れる人も足りなくて辛かったよね。自分が信じていたものが見えなくなって怖かったよね。でも、大丈夫だよ。貴方が信じたいと思うものを信じて好きでいていいんだよ」
　その後、柊は大粒の涙をこぼして泣いた。北島は柊が泣き止むまでそっとそばにいた。
「…っご迷惑を…おかけしました」「いえいえ、これで柊さんの作品が見られるなら本望ですよ」柊は袖で涙を拭う。目はまだ赤いままだが対面した最初に比べて明らかに面構えが良くなっていた。
　「では、インタビューをしていきますがよろしいですか？」
　「はい、よろしくお願いします。」そういう柊の顔はどこか晴々とした表情をしていた。