30 / 92
問3 条件による分岐を辿れ
答3-1
しおりを挟む
「知らなかったのならしょうがないな、うん。しょうがない」
「言ってくれれば良かったのに~」
「ごめんなさい、どうしても……その……言い出すタイミングが無くて……」
その気持ち、よーく分かるぞ。
というか、ミューミューのその落ち込んだ顔を見て、申し訳ないが俺はホッとしていた。
2人きりというのがハードルを感じていたのだが、どうやらそれはこちらだけの事情では無かったらしい。
「私、昨日の火香さんとシトラスさんに声をかけた時も、二人が話している間に一所懸命話すことをシミュレーションして、明るい『私』というキャラクターを作ってから挑んだんです」
「挑んだ、ってそんな大げさな」
「大げさじゃないです。だって私、全然友達と呼べる方がいないので……」
まずい、安心している場合じゃない。案外事態は深刻だ。
みんなのアイドル、20万超のユーザーに愛されているミューミューが実はぼっちだったなんて、おそらく今ここに居る俺達3人しか知らないだろう。
そう考えると彼女を悲しませてしまっている現状に何やら責任を感じてしまう。
「ごめんなさい! こんな辛気臭い話をしてしまって。次こそ頑張ります!」
空気を読んで、ミューミュー自身が声を上げてくれた。
「いや、こっちこそごめんな、ミューミューちゃん! 俺も頑張るぜ!」
「私も! あ、でももう私は友達だよね?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
「そうだ、ついでに俺もフレンド登録してくれない?」
「もちろんです。チョッキさん、よろしくお願いします」
「あー……俺も、これからよろしく。ミューミュー……さん」
「こちらこそ。午後もありますので、よろしくお願いしますね、シトラスさん」
俺はまだ恥ずかしいのでちゃん付けではとても呼べない。
それに比べると、やっぱこの2人はコミュニケーションモンスターだ。すぐに誰とでも仲良くなれるスキルはきっと大人になっても重宝するだろう。
しかし、こんなに礼儀正しくて可愛くて強いのに、何故友達がいないのだ。
「なんでミューミューちゃんってこんなに良い娘なのに友達いないんだろうね」
そしてそういう聞きにくいことをすぐ聞く奴。みずちお前なぁ……。
「今まで私自身が誰かと接したいと思ってなかったので、避け続けて来たんです。でも最近、変わらなきゃって思って。だから昨日は同じランカーで女性の火香さんを探していたんです」
「そっか! じゃあ私は記念すべきミューミューちゃんの最初の友達候補だったって訳だね! いえーい!」
無駄にテンションが高い。
「でも、そこでシトラスさんの強さを見つけて、そこからはランカーの血が騒いだと言いますか……」
「おいなんだよシトラスばっか目立ってよー。うらやましいなぁ」
「声に出てるぞチョッキ」
「出してんだよ。こーんな娘にこう言われてんだから、頑張らないとだぜ? シ・ト・ラ・スさん」
「うるせー、言われなくとも頑張るわ」
「よーしじゃあ4度目の正直! 行っちゃいますかー!?」
みずちが砂利をはねのけて勢い良く立ち上がった。
「よし、じゃあ次の目標はボスの『カグツチ』討伐だ。目前までは行けてるし、次こそしっかり挑んで倒そうぜ」
チョッキもみずちに合わせて腰を上げながら目標を宣言する。本人は気づいていないが、こういうさり気ない所でリーダー感が醸し出されているのだ。
「時間も時間だしね。今日は記念にバチッとカグツチ倒して、やったーって終わろうね、ミューミューちゃん!」
「はい。でも私、カグツチはソロでは何度か倒しましたけど、パーティではやっぱり初めてなので……」
まぁそんな事言ったら、
「俺もまだパーティでは初だな」
「私もソロばっか」
「っていうか、全員初めてだろ。イベントも始まったばっかりだし」
俺とミューミューも砂利を払って立ち上がり、ふと思った。
「じゃあ今更攻略とか、ガチになるのも変な話だな」
「ん?」
「どゆこと?」
「あーっと……なんつーか。俺達らしくないっていうかさ。いつもこんな丁寧に攻略考えて、連携確認したりしてないだろ?」
「確かにー」
「まあなぁ。俺もちょっとミューミューちゃんの前でだせーこと出来ないって気張ってたかも」
「チョッキ、私への攻撃はスルーして、ミューミューちゃんに向かってる攻撃はめちゃくちゃ丁寧に防いでたもんね」
「バレてた?」
「バレバレ。ひどくない?」
「そうだったんですか? ご迷惑おかけしてたんですね……」
「チョッキがカッコつけるのはいつものことだから無視していいよ、ミューミューさん」
「カッコつけてるんじゃねえ、カッコついちゃうんだよ、輝き過ぎて」
「おっ、輝いてるね! その鎧!」
「鎧かよ。俺本体は?」
「くすんでる」
「ひでぇ」
「「あはははは」」
クスッ、と声が聞こえた。
「「「あっ」」」
「え、なんですか?」
俺達は顔を見合わせた。
「笑った」
「今日初笑いだな」
「笑顔、すっごいかわいいよね。ミューミューちゃんって」
そう言われ、すぐに顔を伏せてしまったミューミューだったが、まんざらでもなさそうだった。
多分気張っていたのだろう。緊張もしていただろう。動きが昨日のゲームとは全然違っていた。
笑えたなら、次はもっと楽しく行けそうだ。
「よっしゃ、じゃあチョッキ、みずっち。『アレ』行こうぜ」
「おー、行っちゃう? 『アレ』」
「キタキタキター! やっぱ私達なら『アレ』だよね!」
「え、え、なんですか? アレって」
3人とも慣れた手付きでデッキを変える。
「アレ」は、いつもなら攻略済のダンジョンでやる恒例行事だ。
バランスの良いパーティ? 計算された連携プレイ?
そういう遊び方は他のプレイヤーのマネごとでしかない。
俺らが好きなダンジョンの攻略方法、それは――
「頑張ってついてきてね~」
「もう始まるから、ほら、準備準備」
「ミューミューさん、行くよ?」
ズラッと4人で横並びになる。
「え? え?」
状況把握が出来ていなさそうだが、俺達のこのテンションはもう止められない。
「じゃあ――スタートォ!」
みずちの適当な合図で俺達3人は燃え上がる天守閣に向かってダッシュした。
「えぇ!? ええええぇぇぇーーー!?!?」
今日の全力攻略が唐突に始まった。
「言ってくれれば良かったのに~」
「ごめんなさい、どうしても……その……言い出すタイミングが無くて……」
その気持ち、よーく分かるぞ。
というか、ミューミューのその落ち込んだ顔を見て、申し訳ないが俺はホッとしていた。
2人きりというのがハードルを感じていたのだが、どうやらそれはこちらだけの事情では無かったらしい。
「私、昨日の火香さんとシトラスさんに声をかけた時も、二人が話している間に一所懸命話すことをシミュレーションして、明るい『私』というキャラクターを作ってから挑んだんです」
「挑んだ、ってそんな大げさな」
「大げさじゃないです。だって私、全然友達と呼べる方がいないので……」
まずい、安心している場合じゃない。案外事態は深刻だ。
みんなのアイドル、20万超のユーザーに愛されているミューミューが実はぼっちだったなんて、おそらく今ここに居る俺達3人しか知らないだろう。
そう考えると彼女を悲しませてしまっている現状に何やら責任を感じてしまう。
「ごめんなさい! こんな辛気臭い話をしてしまって。次こそ頑張ります!」
空気を読んで、ミューミュー自身が声を上げてくれた。
「いや、こっちこそごめんな、ミューミューちゃん! 俺も頑張るぜ!」
「私も! あ、でももう私は友達だよね?」
「はい、もちろんです。よろしくお願いします」
「そうだ、ついでに俺もフレンド登録してくれない?」
「もちろんです。チョッキさん、よろしくお願いします」
「あー……俺も、これからよろしく。ミューミュー……さん」
「こちらこそ。午後もありますので、よろしくお願いしますね、シトラスさん」
俺はまだ恥ずかしいのでちゃん付けではとても呼べない。
それに比べると、やっぱこの2人はコミュニケーションモンスターだ。すぐに誰とでも仲良くなれるスキルはきっと大人になっても重宝するだろう。
しかし、こんなに礼儀正しくて可愛くて強いのに、何故友達がいないのだ。
「なんでミューミューちゃんってこんなに良い娘なのに友達いないんだろうね」
そしてそういう聞きにくいことをすぐ聞く奴。みずちお前なぁ……。
「今まで私自身が誰かと接したいと思ってなかったので、避け続けて来たんです。でも最近、変わらなきゃって思って。だから昨日は同じランカーで女性の火香さんを探していたんです」
「そっか! じゃあ私は記念すべきミューミューちゃんの最初の友達候補だったって訳だね! いえーい!」
無駄にテンションが高い。
「でも、そこでシトラスさんの強さを見つけて、そこからはランカーの血が騒いだと言いますか……」
「おいなんだよシトラスばっか目立ってよー。うらやましいなぁ」
「声に出てるぞチョッキ」
「出してんだよ。こーんな娘にこう言われてんだから、頑張らないとだぜ? シ・ト・ラ・スさん」
「うるせー、言われなくとも頑張るわ」
「よーしじゃあ4度目の正直! 行っちゃいますかー!?」
みずちが砂利をはねのけて勢い良く立ち上がった。
「よし、じゃあ次の目標はボスの『カグツチ』討伐だ。目前までは行けてるし、次こそしっかり挑んで倒そうぜ」
チョッキもみずちに合わせて腰を上げながら目標を宣言する。本人は気づいていないが、こういうさり気ない所でリーダー感が醸し出されているのだ。
「時間も時間だしね。今日は記念にバチッとカグツチ倒して、やったーって終わろうね、ミューミューちゃん!」
「はい。でも私、カグツチはソロでは何度か倒しましたけど、パーティではやっぱり初めてなので……」
まぁそんな事言ったら、
「俺もまだパーティでは初だな」
「私もソロばっか」
「っていうか、全員初めてだろ。イベントも始まったばっかりだし」
俺とミューミューも砂利を払って立ち上がり、ふと思った。
「じゃあ今更攻略とか、ガチになるのも変な話だな」
「ん?」
「どゆこと?」
「あーっと……なんつーか。俺達らしくないっていうかさ。いつもこんな丁寧に攻略考えて、連携確認したりしてないだろ?」
「確かにー」
「まあなぁ。俺もちょっとミューミューちゃんの前でだせーこと出来ないって気張ってたかも」
「チョッキ、私への攻撃はスルーして、ミューミューちゃんに向かってる攻撃はめちゃくちゃ丁寧に防いでたもんね」
「バレてた?」
「バレバレ。ひどくない?」
「そうだったんですか? ご迷惑おかけしてたんですね……」
「チョッキがカッコつけるのはいつものことだから無視していいよ、ミューミューさん」
「カッコつけてるんじゃねえ、カッコついちゃうんだよ、輝き過ぎて」
「おっ、輝いてるね! その鎧!」
「鎧かよ。俺本体は?」
「くすんでる」
「ひでぇ」
「「あはははは」」
クスッ、と声が聞こえた。
「「「あっ」」」
「え、なんですか?」
俺達は顔を見合わせた。
「笑った」
「今日初笑いだな」
「笑顔、すっごいかわいいよね。ミューミューちゃんって」
そう言われ、すぐに顔を伏せてしまったミューミューだったが、まんざらでもなさそうだった。
多分気張っていたのだろう。緊張もしていただろう。動きが昨日のゲームとは全然違っていた。
笑えたなら、次はもっと楽しく行けそうだ。
「よっしゃ、じゃあチョッキ、みずっち。『アレ』行こうぜ」
「おー、行っちゃう? 『アレ』」
「キタキタキター! やっぱ私達なら『アレ』だよね!」
「え、え、なんですか? アレって」
3人とも慣れた手付きでデッキを変える。
「アレ」は、いつもなら攻略済のダンジョンでやる恒例行事だ。
バランスの良いパーティ? 計算された連携プレイ?
そういう遊び方は他のプレイヤーのマネごとでしかない。
俺らが好きなダンジョンの攻略方法、それは――
「頑張ってついてきてね~」
「もう始まるから、ほら、準備準備」
「ミューミューさん、行くよ?」
ズラッと4人で横並びになる。
「え? え?」
状況把握が出来ていなさそうだが、俺達のこのテンションはもう止められない。
「じゃあ――スタートォ!」
みずちの適当な合図で俺達3人は燃え上がる天守閣に向かってダッシュした。
「えぇ!? ええええぇぇぇーーー!?!?」
今日の全力攻略が唐突に始まった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
俺のギフト【草】は草を食うほど強くなるようです ~クズギフトの息子はいらないと追放された先が樹海で助かった~
草乃葉オウル
ファンタジー
★お気に入り登録お願いします!★
男性向けHOTランキングトップ10入り感謝!
王国騎士団長の父に自慢の息子として育てられた少年ウォルト。
だが、彼は14歳の時に行われる儀式で【草】という謎のギフトを授かってしまう。
周囲の人間はウォルトを嘲笑し、強力なギフトを求めていた父は大激怒。
そんな父を「顔真っ赤で草」と煽った結果、ウォルトは最果ての樹海へ追放されてしまう。
しかし、【草】には草が持つ効能を増幅する力があった。
そこらへんの薬草でも、ウォルトが食べれば伝説級の薬草と同じ効果を発揮する。
しかも樹海には高額で取引される薬草や、絶滅したはずの幻の草もそこら中に生えていた。
あらゆる草を食べまくり最強の力を手に入れたウォルトが樹海を旅立つ時、王国は思い知ることになる。
自分たちがとんでもない人間を解き放ってしまったことを。
タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
Alliance Possibility On-line攻略情報
百々 五十六
ファンタジー
Alliance Possibility On-lineの設定や、出てきたモンスターやプレイヤーの強さ、NPCの背景設定など、様々な情報を載せていく作品。
辞書とか攻略サイトみたいなもの。
※Alliance Possibility On-line本編を先に読むことをお勧めします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる