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第11話 旅立ち準備

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「アリスさん、そろそろ出ないと馬車間に合わなくなりますよ?」

「分かってるって。もう、なんでここは馬車が朝と夜の一回ずつしか出ないのかな」

 冒険者になることを決めた数日後、私達はこの家を出ることにした。

 向かす先は王都、ベルリア。

 この近くの街にも冒険者ギルドはあるので、そこで冒険者としての生活をスタートしてもいいのだけれど、あくまで私達が目指す冒険者は世間で知られるほどの存在。

 有名な冒険者は王都に集まるとのことだったので、私達の活動拠点も自動的に王都に決まった。

 あと、私達子供が冒険記録を目指すのなら、治安の良さ的にも王都の方がいいだろうということになった。

 そして、今日この家を出ることになっていたのだが、少しだけアリスさんの準備が遅れているようだった。

 リビングでアリスさんのことを呼んでも、こちらに姿を見せないことが気になって、私はアリスさんの部屋をひょこっと覗き込んでみた。

「あれ? いない?」

「カエデ、こっちこっち」

 部屋を覗き込むと、そこはただ可愛らしい柄のベッドと少しファンシーな部屋が広がっているだけだった。

 これでしばらくこの部屋を見ることも終わりかと思うと、少し悲しくなったりもする。

 意味もなくアリスさんの部屋で一緒に寝た記憶も、まだ新しい。

 アリスさんの声が別の部屋から聞こえてきたので、私はそんな思い出をそっと心にしまって、声の聞こえている方に向かって行った。

すると、今度は可愛らしい後ろ姿を見ることができた。

「あっ、おじいちゃんの部屋にいたんですね」

 アリスさんはおじいちゃんの部屋で女の子座りをしていた。

 アリスさんは私の声に反応して振り向くと、ちょいちょいと手招きをして私のことを呼んだ。

 何だろうかと思いながら近づいていくと、アリスさんの前には大きくて長い木箱が置かれていた。

 それを覗き込むと、そこには重厚感がある長い剣が一本と、それを少し短くしたような短剣が一本入っていた。

「これって……」

「おじいちゃんが昔使ってた物みたい。話しには聞いてたけど、現物を見たのは初めてだな」

 アリスさんはそう言うと、そっと長い剣の方に触れて少しだけ鞘から剣を引き抜いた。

 初めて見る本物の剣に私は声を漏らして感動していたが、そんな私とはどこか違う表情でアリスさんはその剣を眺めていた。

「カエデ。この剣さ、私達で使おうよ」

「え? い、いいんですかね」

「いいも何も、誰も怒ったりはしないでしょ。形見みたいなのもないんだし、おじいちゃんの汚名を払拭するには、良い剣だと思う」

 アリスさんはそう言うと、おじいちゃんのことを思い出したのか、少しだけ遠くの方を見る目でその剣を眺めていた。

 目的を見失わないようにするには、形見を持ち歩くというのは確かにいいかもしれない。

「形見としてもらえるのは嬉しいですけど、私アリスさんほど剣を上手く使えないですよ?」

 魔力で力を底上げすれば、ある程度は使えるんだけど、あれを剣術と呼んでいいのかは少し怪しかったりする。

「んー、そうだね。じゃあ、カエデにはこっちの短剣を使いなよ。多分、まだこっちの方が使いやすいと思うから」

 アリスさんはそう言うと、木箱の中から短剣を取り出すと私に渡してくれた。

 手渡されたそれを持ってみると、見た目よりも重さがあったことに少し驚いた。それと同時に、この短剣を私が使いこなせるのかも少し不安になった。

 私が短剣をじいっと見ていると、それに気づいたアリスさんが腰に剣をぶら下げながら言葉を続けた。

「お姉さんがつけてあげようか?」

「えっ、あっ……お願いしてもいいですか?」

「えへへっ、お姉さんに任せなさい」

 アリスさんは私が剣のぶら下げ方が分からずに困っていたと思ったようで、そんなことを申し出てくれた。

少しだけ恥ずかしく感じたが、アリスさんはそんな私に微笑みかけた後に、腰に短剣をつける方法を教えてくれた。

 私に何かを教えるときのアリスさんの顔は嬉しそうで、見ているとこちらの頬が緩みそうになってしまう。

「ほら、できた」

「ありがとうございます。……なんか、本当に冒険者みたいですね」

 自分の腰に下がっている短剣と、腰に剣をぶら下げているアリスさんの姿を見て、急に冒険者を目指すという実感が湧いてきた。

「あとは、こんなのも入ってたよ」

「これは、指輪ですか?」

 アリスさんの手のひらには、赤い宝石のような物がついた指輪と、青い宝石のような物がついた指輪があった。

 綺麗な宝石が拵えてあるけれど、おじいちゃんがただのおしゃれで着けていたとは思えない。

 ……何かしらのアイテムだったりするのかな?

「せっかくだし、着けていこうよ。あれ? そういえば、指輪ってどの指にはめればいいんだろ?」

「あっ、そういえば、右の薬指につけると魔除けになるって聞いたことありますよ」

「へー、そうなんだ。あれ? カエデのいた世界って魔物いないんじゃなかったっけ? あと、なんでそこにつけると魔除けになるんだろ?」

「魔物とかは架空の存在って感じでしたね。いや、作り物だったかな? でも、確かになんで薬指なんでしょうね」

 昔何かの漫画でそんなことを言っているのを読んだことがあったけど、なんで魔除けの効果があるのだろう?

 何かお祓い的な効果でもあるのかな?

「まぁ、せっかくだし、そこに付けようよ」

 アリスさんはそう言うと、私の右の薬指に青色の宝石のような物が突いた指輪をつけて、自分の指に赤色の宝石のようなものがついた指輪をつけた。

 そして、その指輪を見せびらかすようにこちらに向けた後に、屈託のない笑みを浮かべてきた。

「お揃いだね、カエデ」

 そんな無邪気な表情に当てられて、私は少しの恥ずかしさと嬉しさが込み上げてきて、少しだけ胸の奥の方が熱くなったような気がした。

「はい! あっ……アリスさん、そろそろ出ないと本格的に馬車の時間に間に合わないかも」

「あっ! そうだった! 行くよ、カエデ!」

 私は手をアリスさんに引かれて、おじいちゃんの部屋を後にした。そして、そのまま外に向かおうとしたところで、ふとアリスさんが振り返った。

「っと、そのまえに、」

 向けられた視線は、いつもみんなでくつろいでいたリビング。

 アリスさんは誰もいないリビングに顔を向けると、少しだけ悲しそうな笑みを浮かべて言葉を続けた。

「行ってきます、おじいちゃん」

「……行ってきます」

 アリスさんに続くように、私はおじいちゃんの家とのお別れの言葉を口にした。

 いってらっしゃいの言葉はないけれど、どこか背中を押されているように軽くなった足取りで、私達はおじいちゃん家を出た。

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