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第115話 新メニューと少しの憧れ
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そして、お店の 定休日を終えた翌日。
開店と同時にお店にはお客さんがなだれ込むように入って来た。
いつもよりもお客さんたちに熱気があるように思うのは、定休日の翌日ということもあるかもしれないが、多分それだけではない。
いつもと変わらずお店の前には『魅惑のソースの料理人の出張店』と書かれた二本ののぼりが立っていて、それがお客さんを集めているということもある。
しかし、今日はお店の前に置かれたのぼりはそれだけではなかった。
二本ののぼりのすぐ近くには、今までになかった新たなのぼりが立てられていて、そこには次のような文字が書かれていた。
『新メニュー 魅惑のソースを使った料理二品追加』
特に購買意欲を駆り立てるような派手なフォントでもなければ、字だって黒一色のシンプルな物だった。
ただそのシンプルさが逆にお客さんたちの興味を惹いたのだろう。席に着いたお客さんたちは次々に注文を入れてきた。
「新メニューってやつを頼むよ。二種類あるんだろ、もちろん両方頼む」
「とりあえず、新メニューと『マグロザカナの鉄火丼』と『異世界魚のあら汁』をお願いしようかな」
「……全種類っていける?」
そんなこんなで厨房はいつにも増しててんやわんやになったのだった。
これ、作り置きじゃなかったら絶対に間に合わなかった。
新メニューを考えたときに、少しくらい作り置きじゃないのがあっても何とかなるかもとか考えてしまったが、とてもそんな甘い状況ではないようだった。
そんな忙しい厨房の中は、色んな良い匂いが充満していた。
あら汁の濃縮した魚介と優しい味噌の香りや、ぶり大根の甘辛い香りや、南蛮漬けの甘酸っぱい香り。
そんな食欲をいたずらに刺激してくる匂いに当てられて、しっかり朝ご飯を食べたはずなのに、お腹の虫がなってしまいそうになっていた。
当然厨房からの香りはお客さんたちのいるテーブルの方に流れていき、これから出てくる料理の期待値を高めていった。
どうやら、この匂いに当てられているのは私たちだけではないみたいだった。
お客さんも飽きるかなと思って新メニューを作ったのだが、ちらりとお客さん達の表情を覗き見ると、とてもそんなふうには見えなかった。
新メニューと一緒に今までのメニューを頼んでいる当たり、飽きたという考えを持っているお客さんはいないみたいだ。
まぁ、それでも新メニューの方が新鮮さはあるよね。
そう思った私は、新メニューをお皿に盛りつけて、注文してくれたお客さんの元に持っていった。
作り置きしていたかいもあって、次々にテーブルに運ばれていく料理たち。そんな料理を口にしたお客さんたちは思い思い感動するように言葉を漏らしていた。
「うまい!! なんだこの甘酸っぱいソースは?! ご飯を、ご飯をくれないか!」
「これは……サーモンザカナにこれほど合う調味料なんてあったのか? 酢の効いた野菜との相性も素晴らしい」
「じゅわっと広がる旨味に絡む甘酸っぱいソース、酢の効いた野菜とサーモンザカナをマイルドにするソース……ここまで種類があるのか、魅惑のソースというのは」
そんな言葉を漏らして料理をかき込むお客さんの姿を見て、私はパタパタと忙しくしながらも思わず表情を緩めてしまっていた。
どうやら、新メニューの評判も良好みたいだ。
白米をかき込んだり、日が高いうちから楽しそうにお酒を飲んだりしているこの街の人たちを見て、私は異世界ならではのこの自由な空間を好ましく思った。
その空間を料理を通して作り上げているということに喜びを感じてしまい、私は少しだけそんなお店の空間に見入っていた。
……いつかこんなお店を開けたら。
私は目の前の光景を前に、今までよりも少しだけ強くそんなことを感じていたのだった。
開店と同時にお店にはお客さんがなだれ込むように入って来た。
いつもよりもお客さんたちに熱気があるように思うのは、定休日の翌日ということもあるかもしれないが、多分それだけではない。
いつもと変わらずお店の前には『魅惑のソースの料理人の出張店』と書かれた二本ののぼりが立っていて、それがお客さんを集めているということもある。
しかし、今日はお店の前に置かれたのぼりはそれだけではなかった。
二本ののぼりのすぐ近くには、今までになかった新たなのぼりが立てられていて、そこには次のような文字が書かれていた。
『新メニュー 魅惑のソースを使った料理二品追加』
特に購買意欲を駆り立てるような派手なフォントでもなければ、字だって黒一色のシンプルな物だった。
ただそのシンプルさが逆にお客さんたちの興味を惹いたのだろう。席に着いたお客さんたちは次々に注文を入れてきた。
「新メニューってやつを頼むよ。二種類あるんだろ、もちろん両方頼む」
「とりあえず、新メニューと『マグロザカナの鉄火丼』と『異世界魚のあら汁』をお願いしようかな」
「……全種類っていける?」
そんなこんなで厨房はいつにも増しててんやわんやになったのだった。
これ、作り置きじゃなかったら絶対に間に合わなかった。
新メニューを考えたときに、少しくらい作り置きじゃないのがあっても何とかなるかもとか考えてしまったが、とてもそんな甘い状況ではないようだった。
そんな忙しい厨房の中は、色んな良い匂いが充満していた。
あら汁の濃縮した魚介と優しい味噌の香りや、ぶり大根の甘辛い香りや、南蛮漬けの甘酸っぱい香り。
そんな食欲をいたずらに刺激してくる匂いに当てられて、しっかり朝ご飯を食べたはずなのに、お腹の虫がなってしまいそうになっていた。
当然厨房からの香りはお客さんたちのいるテーブルの方に流れていき、これから出てくる料理の期待値を高めていった。
どうやら、この匂いに当てられているのは私たちだけではないみたいだった。
お客さんも飽きるかなと思って新メニューを作ったのだが、ちらりとお客さん達の表情を覗き見ると、とてもそんなふうには見えなかった。
新メニューと一緒に今までのメニューを頼んでいる当たり、飽きたという考えを持っているお客さんはいないみたいだ。
まぁ、それでも新メニューの方が新鮮さはあるよね。
そう思った私は、新メニューをお皿に盛りつけて、注文してくれたお客さんの元に持っていった。
作り置きしていたかいもあって、次々にテーブルに運ばれていく料理たち。そんな料理を口にしたお客さんたちは思い思い感動するように言葉を漏らしていた。
「うまい!! なんだこの甘酸っぱいソースは?! ご飯を、ご飯をくれないか!」
「これは……サーモンザカナにこれほど合う調味料なんてあったのか? 酢の効いた野菜との相性も素晴らしい」
「じゅわっと広がる旨味に絡む甘酸っぱいソース、酢の効いた野菜とサーモンザカナをマイルドにするソース……ここまで種類があるのか、魅惑のソースというのは」
そんな言葉を漏らして料理をかき込むお客さんの姿を見て、私はパタパタと忙しくしながらも思わず表情を緩めてしまっていた。
どうやら、新メニューの評判も良好みたいだ。
白米をかき込んだり、日が高いうちから楽しそうにお酒を飲んだりしているこの街の人たちを見て、私は異世界ならではのこの自由な空間を好ましく思った。
その空間を料理を通して作り上げているということに喜びを感じてしまい、私は少しだけそんなお店の空間に見入っていた。
……いつかこんなお店を開けたら。
私は目の前の光景を前に、今までよりも少しだけ強くそんなことを感じていたのだった。
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