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第78話 キャンプ飯_完食
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「すごいい匂いがするな。……それは何の肉なんだ?」
「これはボアポークのお肉です。かしらというコメカミと頬の部分の肉ですね」
焼き鳥屋さんによってはない所をもあったりするなと思って、私が念のためにその部位の説明をすると、エルドさんは少し思い出すように眉間を寄せていた。
「あー、そういえば、そんな部分も解体した気がするな。せっかくなら、もっといい部位の肉使えばよかったのに」
エルドさんの反応を見る限り、かしらという部位を美味しいものではなく、勿体ないから料理したと思っているみたいに見えた。
なるほど、どうやら、まだエルドさんはかしらのおいしさを知らないらしい。
「違うんです。ここじゃなきゃダメなんですよ」
「そうなのか?」
「はい、食べてもらえたら分かるかと」
私が自信満々にそう言うと、エルドさんは少し半信半疑な目で私を見た後、かしらのネギまを口に運んだ。
どれ、私も食べてみることにしよう。
「おおっ、弾力と噛み応えがあるのに、しっかりと噛み切れてそこから肉の旨味が……そこに辛い味噌が追いかけてきて……え、かしらって部分はこんなに上手いのか」
「うんっ、炭の香りも香ばしくて、とても良い仕上がりです」
『辛みそダレ焼きかしら』を口に運ぶと、そこからは炭で焼いたときの良い香りと、辛みその風味が口の中に広がってきた。
ただ辛いだけではなく、にんにくのような野菜と合わせ味噌の甘味が利いていて、食欲をいたずらに刺激してくる。
噛めば噛むほどかしらの旨味が口の中に広がり、残ったかしらの旨味にまた辛みそを絡めたい欲求に負けるように、もう一口食べるようにと誘われるように手が止まらなくなる。
……これは、中々に中毒性がある食べ物になってしまったようだ。
「これを最後に酒で流し込めば……くはっーー! これはいい、最高のつまみだ!」
エルドさんは一気に口の中の辛みと、かしらの旨味や油を流し込むように酒を呷った。
そして、目を強くぎゅうっとつぶった後、微かに涙を浮かべながらかそんな言葉を口にしていた。
「ふふん、よかったです」
お酒の炭酸かかしらに対しての涙なのかは分からないけれど、それだけ気に入ってもらえたのならよかった。
「アンよ、これはなんだ?」
私が満足したようなエルドさんの笑みに小さく笑っていると、シキがワクワクしたようでそんなことを聞いてきた。
どうやら、シキは『辛みそダレ焼きかしら』よりも『ボアポークの豚丼』の方が気になったらしく、尻尾をぶんぶんとさせていた。
「それはボアポークのバラ肉ですね。甘辛いタレとご飯がよく合うんです」
「ほほう、どれどれ」
シキが大盛りになっている『ボアポークの豚丼』を美味しそうに見ていたので、私もそちらを食べてみることにした。
フォークでお肉とタレと米が一気に入ってくるように軽くかき込んで、私は頬を膨らませながら、そこに広がる旨味を堪能していた。
「うまいぞ! 染み込んだタレがうまいな、これは!」
「うん、美味しい。炭火焼って言うのがまたいいよね。こんがり焼けたタレの香りがいい」
何度も漬け焼きしたことで染み込んでいる甘辛いタレが口に広がり、ボアポークの余分な部分がそぎ落とされた脂身が口の中でとろけていく。
香ばしいタレがご飯に染みていて、ご飯だけでも食べられそうなくらいに、癖になる甘辛さがそこにあった。
……懐かしいなあ、前世で大学生やってるときに食べた味だ。
あの時は学食がマズすぎて、コンビニで買った豚丼に感動したんだよなぁ。本当に涙出そうなくらい、美味しかった。
その当時の記憶を思い出して、私は黙々と豚丼をかき込んでいた。
思い出補正もあってか、凄い美味しく感じるなぁと思って隣にいるシキを見てみると、シキは私以上にがっついて食べていた。
どうやら、思い出補正関係なく、がっつきたくなる丼物に仕上がっていたらしい。
「……何も用事がない状態で、外でゆっくり食事をするっていうのはいいな」
お酒の入ったコップを傾けながら、私の作った料理を美味しそうに食べてそんな言葉を口にしているエルドさんの姿を見て、私もそれに倣うようにコップに入ったジュースを飲んでからそっと口を開いた。
「そうですね。たまにはこういうのもいいですよね」
何かに急かされることなくゆっくりと時間の流れを感じる。誰かのために働くのもいいけど、たまにはこういうふうな時間をゆっくり過ごすのもいいなと心から思った。
おそらく、もうしばらくはこんなゆっくりとした時間が過ぎるのだろう。
そんなことを思いながら、私は美味しそうに私の料理食べるエルドさんとシキを見て、静かに微笑むのだった。
「これはボアポークのお肉です。かしらというコメカミと頬の部分の肉ですね」
焼き鳥屋さんによってはない所をもあったりするなと思って、私が念のためにその部位の説明をすると、エルドさんは少し思い出すように眉間を寄せていた。
「あー、そういえば、そんな部分も解体した気がするな。せっかくなら、もっといい部位の肉使えばよかったのに」
エルドさんの反応を見る限り、かしらという部位を美味しいものではなく、勿体ないから料理したと思っているみたいに見えた。
なるほど、どうやら、まだエルドさんはかしらのおいしさを知らないらしい。
「違うんです。ここじゃなきゃダメなんですよ」
「そうなのか?」
「はい、食べてもらえたら分かるかと」
私が自信満々にそう言うと、エルドさんは少し半信半疑な目で私を見た後、かしらのネギまを口に運んだ。
どれ、私も食べてみることにしよう。
「おおっ、弾力と噛み応えがあるのに、しっかりと噛み切れてそこから肉の旨味が……そこに辛い味噌が追いかけてきて……え、かしらって部分はこんなに上手いのか」
「うんっ、炭の香りも香ばしくて、とても良い仕上がりです」
『辛みそダレ焼きかしら』を口に運ぶと、そこからは炭で焼いたときの良い香りと、辛みその風味が口の中に広がってきた。
ただ辛いだけではなく、にんにくのような野菜と合わせ味噌の甘味が利いていて、食欲をいたずらに刺激してくる。
噛めば噛むほどかしらの旨味が口の中に広がり、残ったかしらの旨味にまた辛みそを絡めたい欲求に負けるように、もう一口食べるようにと誘われるように手が止まらなくなる。
……これは、中々に中毒性がある食べ物になってしまったようだ。
「これを最後に酒で流し込めば……くはっーー! これはいい、最高のつまみだ!」
エルドさんは一気に口の中の辛みと、かしらの旨味や油を流し込むように酒を呷った。
そして、目を強くぎゅうっとつぶった後、微かに涙を浮かべながらかそんな言葉を口にしていた。
「ふふん、よかったです」
お酒の炭酸かかしらに対しての涙なのかは分からないけれど、それだけ気に入ってもらえたのならよかった。
「アンよ、これはなんだ?」
私が満足したようなエルドさんの笑みに小さく笑っていると、シキがワクワクしたようでそんなことを聞いてきた。
どうやら、シキは『辛みそダレ焼きかしら』よりも『ボアポークの豚丼』の方が気になったらしく、尻尾をぶんぶんとさせていた。
「それはボアポークのバラ肉ですね。甘辛いタレとご飯がよく合うんです」
「ほほう、どれどれ」
シキが大盛りになっている『ボアポークの豚丼』を美味しそうに見ていたので、私もそちらを食べてみることにした。
フォークでお肉とタレと米が一気に入ってくるように軽くかき込んで、私は頬を膨らませながら、そこに広がる旨味を堪能していた。
「うまいぞ! 染み込んだタレがうまいな、これは!」
「うん、美味しい。炭火焼って言うのがまたいいよね。こんがり焼けたタレの香りがいい」
何度も漬け焼きしたことで染み込んでいる甘辛いタレが口に広がり、ボアポークの余分な部分がそぎ落とされた脂身が口の中でとろけていく。
香ばしいタレがご飯に染みていて、ご飯だけでも食べられそうなくらいに、癖になる甘辛さがそこにあった。
……懐かしいなあ、前世で大学生やってるときに食べた味だ。
あの時は学食がマズすぎて、コンビニで買った豚丼に感動したんだよなぁ。本当に涙出そうなくらい、美味しかった。
その当時の記憶を思い出して、私は黙々と豚丼をかき込んでいた。
思い出補正もあってか、凄い美味しく感じるなぁと思って隣にいるシキを見てみると、シキは私以上にがっついて食べていた。
どうやら、思い出補正関係なく、がっつきたくなる丼物に仕上がっていたらしい。
「……何も用事がない状態で、外でゆっくり食事をするっていうのはいいな」
お酒の入ったコップを傾けながら、私の作った料理を美味しそうに食べてそんな言葉を口にしているエルドさんの姿を見て、私もそれに倣うようにコップに入ったジュースを飲んでからそっと口を開いた。
「そうですね。たまにはこういうのもいいですよね」
何かに急かされることなくゆっくりと時間の流れを感じる。誰かのために働くのもいいけど、たまにはこういうふうな時間をゆっくり過ごすのもいいなと心から思った。
おそらく、もうしばらくはこんなゆっくりとした時間が過ぎるのだろう。
そんなことを思いながら、私は美味しそうに私の料理食べるエルドさんとシキを見て、静かに微笑むのだった。
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